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ソルティ・レモネードと白い夏  作者: John B. Rabitan
スマホケースの向こう側
51/80

 かけるはさっそくその番号をアドレス帳に登録し、電話をかけた。

 すぐに美咲が出た。


 「あ、翔だけど」


 ――ああ、メッセージ見てくれたんだ。


 「今、いいか?」


 ――いいよ


 「で、よっぴーのことで気になることって?」


 翔の焦りの声と美咲のためらいの声が、電波を通して深夜の部屋で交差していた。


 ――私が犬にかまれて休んでいる間によっぴーと電話で話してたんだけど。


 「うん、なんて?」


 ――今日、よっぴーが言い出したこと、私には突然じゃなかった。


 「前から言ってたの?」


 ――はっきりとじゃなく、なんとなくだけどね。


 「よかったら、全部聞かせて」


 ――うん……なんか、ダンス部の合宿に行ってきてから、よっぴーの態度が急変しちゃって。


 「やっぱそうだよね。あれからガラッと変わった」


 ――私たちに対してもなの。私とかみっちゃんとかとみことかにも。特に私はよっぴーと同じサークルだし、ほかの二人よりもよっぴーと一緒にいる時間が長いからそれめっちゃ感じる。


 「そうなんだ」


 陽子の態度が変わったのは自分に対してだけではなかったことに、相手には見えないけれど翔は驚きの表情をしていた。


 ――それで、なんかよっぴー、元気がなくてね。


 「でも、手紙では帰りも楽しそうにしてたふうに書いてたじゃん」


 ――あれは翔さんに余計な心配かけないようにと、わざとほのぼのとした日常ルポふうに書いただけで、実際はよっぴー、ずっと落ち込んでた。


 「そうなんだ」


 ――それに、翔さんの手にわたる前に、よっぴーもきっと読むと思ったから。


 「なんか、読んでないって言ってたけど」


 ――ふーん、そっか。で、本題に入るけど。


 「今までは本題じゃなかったんかよ」


 ――うん、これから。


 翔は息をのんだ。


 ――こんなこと言っていいのかわからないけど。


 「いや、言ってくれ。よっぴーにはあんなこと言われてしまっただけに、遠慮はいらないから」


 ――実はよっぴー、合宿の帰りに落ち込んでたって言ったけど、吉野さんと話してる時だけはにこにこして元気だった。でも電話で話してた時は、声がめっちゃ暗かった。


 「うん」


 ――それで、どうしたのって追及したら、翔さんが……


 「え? 俺?」


 ――うん。言いにくいけど言うね。なんか、翔さんの影が薄れていくって。


 「どういうこと?」


 ――そもそも翔さん本人が好きだっていうよりも、翔さんの彼女でいることにあこがれてたんじゃないかって。

 

 「うん、何かよく聞く話のような気もするけど。つまり、彼氏がいるという状況にあこがれてたってか」


 ――はっきりそうは言わないけど、そんなニュアンス。


 「思春期の女の子あるあるだよなあ」


 ――でももう私たち、高校生じゃないんだからそれはないでしょって私は言ってやったんだ。


 「そうしたら、なんて?」


 ――やっぱ吉野さんが関係あるんじゃないかって私突っ込んだらね、吉野さんは関係ないって。


 「俺にもそう言ってた」


 ――でも、吉野さんといる時は楽しそうだし、思わせぶりな態度さえ見せてる。


 「そうなんだ」


 ――もしかして吉野さんのこと好きなのって突っ込んだら、そんなことはないと思うって言ってたけど。……ただ、


 「ただ?」


 ――気、悪くしないで聞いてね。


 「うん」


 ――翔さんが子供っぽくて物足りないって。


 「ええ?」


 ――だって、二つも年上なのにって言ったら、もっとずーっと年上の人の方がいいって。


 「なんか複雑だな」


 ――それと、よっぴーが言うには、翔さんと会っている時も、最近はぐっと会話が少なくなっていたんだって?


 「そうかもしれない、特に合宿に行ってきてからは」


 ――いや、その前からだって。

 

 「それはないと思うけどな」


 ――でも、吉野さんは関係ないっていうのは、あれは嘘ね、きっと。


 「なんで?」


 ――ああ、これ、言っていいのかなあ?


 「いや、何でも言ってくれよ」


 ――いやあ、これは聞かない方がいいかも。


 「そこまで言っておいてそれはないだろ。頼む、何でも言って。


 ――実は合宿の夜、みんなが寝静まってから外で車の音がしたから何だろうと思って窓からのぞいたら、


 「うん」


 ――よっぴーが吉野さんの車に乗ってどこか行っちゃった。で、明け方近くまで帰ってこなかった。


 「そんな……」


 翔は大きくため息をついた。


 「うそだよな」


 しばらく、美咲の返事はなかった。


 ――実はあの合宿の後、私たちの大学の部員の一年生が大量にやめちゃって。全部、合宿に行った子たち。


 「そうなのか」


 ――何があったのかなんて、私そういうところには疎いからよくわからないけど。でもよっぴーはやめる気ないみたい。私もやめないけど。


 翔は、また一つ大きくため息をついた。もしかしたら美咲にも聞こえてしまったかもしれないけれど、それついては美咲は何も言わなかった。


 ――で、よっぴーとの電話の話に戻すけど。えっと、どこまで話したっけ?


 「会話が少なくなったとか」


 ――そうそう、それでさ、よっぴーはそれでも翔さんとは別れたくないって言うの。私は一応がんばりなって言ったんだけど。


 「なんか、そんなこと言ってたよな。だからか」


 ――それで、翔さんとはただの友達ってことにすれば、別れずにすむってよっぴーは言い出すし。


 「俺の気持ちは度外視かよ」


 翔は苦笑した。


 ――本当にごめんね。わがまま娘で。


 「なんて言ったらいいのかわかんねえなあ」


 ――翔さんもがんばりな。とりあえず友達ってことにしておけば、いつかほとぼりが冷めたらまた復活なんてこともあるかもしれないし。


 「そうだな。今日で完全にお別れなんて突き付けられたのと違って、恋人としては分かれても友達でいれば、完全に切れるわけじゃなくってまだつながっていることだもんな」


 ――そう、だからがんばりな。応援してるから。


 「ありがとう」


 ――ごめんね、長々と。LINEに登録しておくね。今までは友達の彼氏だったけど、これからは直の友だちだからね。


 「そうだね。よろしく」


 ――たまちゃんやとみこにも翔さんの連絡先、教えといていい?


 「いいよ。ぜひ」


 ――じゃあ、また何かあったら連絡する。


 通話は終わった。翔は美咲の電話番号をもとに、LINEにともだち登録した。しばらくしてそのLINEに珠実や茉緒からの登録通知が来た。

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