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翔はさっそくインスタで検索してみた。大和から帰ってきたその日の夜だ。
「みっちゃん可愛い」で検索すればいいと陽子は言っていたが、インスタのユーザーネームだから基本は英字だろうし、陽子もローマ字でと言っていた。だがスペルが分からない。「mittyan」なのか「micchan」なのか。「kawaii」と直接つながっているのか、あるいはハイフンかアンダーバーが入るのか……。
ほかの人のIDを見てもだいたいアンダーバーか、あるいはピリオドもあった。ハイフンや中黒は使えないらしい。いろいろ試してヒットしたのは「micchan.kawaii」と「micchan_kawaii」の二人だけだ。
最初のは明らかに別人で、あとの方が美咲に間違いなかった。プロフィールの名前が漢字ではっきりと「美咲」だったからだ。投稿を見ても陽子と同じ大学の写真、そして横浜の画像などが出ている。
翔は早速フォローして「メッセージを送信」からメッセージを送った。
――[突然ごめん]
――[寺島翔です]
返事はすぐに来た。
――[え? あのよっぴーの彼氏さん?]
――[はい]
――[うそ、どうしたの?]
――[今日、誕生日でしょ]
――[なんで知ってるの?]
――[よっぴーから聞いた]
――[それと犬にかまれたってからそのお見舞い]
――[え、うれしい!]
――[ありがとう]
――[でもよく見つけたね]
――[よっぴーが教えてくれた]
――[お祝いとお見舞い伝えといてったら]
――[自分で言えって教えてくれた]
――[まじか]
――[いくら自分の友だちだからって]
――[ほかの女の子のアカウント、彼氏に教える?]
――[なんか変だよね]
――[よっぴーって普通はそんな子じゃあない]
――[今日も会ってた時も変だった]
――[今までとなんか違うんだよ]
――[違うって?]
――[なんか冷たくてよそよそしいし]
――[昨日までダンス部の合宿だったんだよね?]
――[うん]
――[合宿で何かあった?]
この時だけ、返信まで間が空いた。
――[いや、別に何もないけど]
――[帰りに狂ってた]
――[でもそれはいつものこと]
――[狂ってた?]
――[話せば長くなるし]
――[私、スマホで字打つの苦手だから]
――[手紙に書いてあげる]
――[今度いつよっぴーに会う?]
――[今のところ未定]
――[手紙、よっぴーに渡しとく]
――[そうしたら読まれるよ]
――[いいよ別に]
――[やましいことは書かないし]
――[今日よっぴーは合宿帰りで疲れてただけだよ]
――[じゃあ、その手紙もらうために会うか]
――[あさって阪東橋に行くって]
――[その時につかまえたら]
美咲からは、いい情報が得られた。
待ち合わせは地下鉄ブルーラインの阪東橋駅の改札前だった。
「ああ、来た来た」
翔の姿を見て呟いたのは、珠実だった。もちろん隣に陽子もいる。
「遅い」
そう言ったのも珠実だ。
「ごめん、やっと会えた」
実は翔はもう少し早く来ていたのだが、陽子が指定した場所がよくわからず、スマホで電話して誘導されるままにやっとたどり着いたのだ。
「あれ? みっちゃん、足治った? 手紙じゃなくて本人が来た?」
「ちょっとかっちゃん」
口をはさんだのは陽子だ。
「なに人違いしてるの? それ、たまちゃんでしょ」
阪東橋の保育園でのボランティアのあいさつに来た二人は、ここで翔と待ち合わせていた。
夕方からのデパート閉店後の清掃アルバイトを再開していた翔だが、今日は休みの日だ。だから夕方でも会いに来られた。
三人は改札を入り、あざみ野行の電車に乗った。空席もあったけれど、三人はドアの近くに立っていた。珠実はドアのガラス窓にへばりついている。
「そんな顔くっつけなくても」
「いいの。これが癖なの」
「たまちゃん、今日はバイトないの?」
「ないからちょっと横浜で買い物」
「だから、最初は私が付き合わされるとこだった」
陽子が話に割って入る。
「ごめん、たまちゃんとばかり話して」
「いいよ、別に」
笑みを含めて話はしているけれど、陽子の態度にはやはり少しとげがあった。
「私ん家、反対側の湘南台まで行った方が早いのに。でもかっちゃんが割り込んできたから、結局横浜行くんだけど」
「そう、翔さんは割り込み虫。そのせいで私一人で買い物行くことになった」
「じゃあ、俺がよっぴーの代わりに買い物に付き合ってあげようか」
「だいじょうぶです」
珠実が笑って言っている間、陽子は別の所を見ていたし、そのうちスマホをいじり始めた。横浜までは十分弱で着く。
横浜駅で改札を出て、JR駅の西口方面へ向かう通路を歩いてエスカレーターを上った。
「じゃあ、私、ジョイナスへ行くから。よっぴーバイバイ」
珠実が陽子に手を振って行こうとする。翔も笑いながらそれに合わせて同じ口調で陽子に言った。
「よっぴーバイバイ」
そして珠実に言う。
「じゃあ、買い物、行こうか」
「私は一人で行くだけ」
「ほら、私のこといじるから」
陽子は少しプク顔だった。
それから今度は冗談抜きの本当の挨拶をして、珠実はジョイナスの方へと消えていった。
「とりあえず、どっか入ろうか」
陽子は黙ってうなずいた。もう時間が時間だけに、これからどこかへ行くという感じではなかった。
二人はとりあえずジョイナスの地下街へ向かった。ちょうど通勤帰りの人たちも多い時間で、地下街はごった返していた。カフェなどはどこも満席だ。
そこでジョイナスのビルの方へ戻って、四階のカフェでようやく落ち着いた。このフロアはレディースファッションの店が主流なので、女性客が多かった。
店内は割と広く、テーブル席の多い落ち着いた雰囲気だ。
陽子はオレンジジュース、翔はジンジャーエールを頼んだ。メニューのQRコードをスマホで読み取って注文する形だ。
席に着いて翔がスマホで注文している間に、陽子はまた自分のスマホを取り出して見ていた。
「俺と二人でいる時にスマホばかり見ていないでくれる?」
ちょっとイラっと来た感じで、翔は言った。
「さっきの保育園での打ち合わせの内容を、ボランティア派遣元のYMCAに連絡しないといけないの」
「そっか」
「ちょっと待っててね。終わったらかまってあげるから」
陽子はほとんど笑顔のない顔で言った。




