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ダイビングコースター「バニック!」の乗り場は、さっき入ってきた入り口のゲート方に戻る形になる。最初に通ったデッキを戻り、途中で右に折れて階段をあがる。乗り場は三階屋上と案内板が下がっているが、今いるデッキ自体が二階なので一つ上の階に上がるだけだ。
そこですでに購入していたチケットの千八百円分を二人で使った。買ったチケットは五千円チケットだが、セットだと四千五百円で買えた。
このコスモワールドは某夢の国のような入場料を払ってはいればアトラクションは乗り放題というようなシステムではなく、入場は無料だがアトラクションごとに課金する形だ。
それほど並ぶこともなく、二人は乗ることができた。
ピンク色のレールの上を車両は上っていく。これが一番緊張する時間だ。
やがて頂上まで達したときに、緊張も頂点に達する。
だが、このバニック!に関してはすぐに急降下するわけではなく、まずは右へと大きく旋回しそれから下降だ。
乗客たちから悲鳴が沸き上がるのはここで、翔の隣で陽子も思い切り大声をあげていた。
こんなにも声を張り上げる陽子の姿を翔は初めて見たので、驚きとともにそれが新鮮でもあった。
一度地面近くまで降下したあと、またかなりの高さまで跳ね上がる。翔の目には頭上の大観覧車や周りの景色が映っていたが、陽子はきっとそれどころではないだろう。
そして一度左に大きく旋回したあと一気に降下、なんと池に向かって落ちて行き、池の真ん中にあるホールへと吸い込まれていく。
先ほどデッキからこの部分がよく見えていたが、傍から見るとまるで池の水の中にコースターが落ちて行くいくように見え、同時にホールの周りから噴水が一気に上がって水面に突入したときの水しぶきのように見せていた。
それを見た時も驚いたが、今は自分たちがその池の中に突入する。だが、乗っている人たちの目にはその水しぶきの噴水は見ることができなかった。
すぐにトンネルから出て先ほどまで二人がいたメインの建物の上まで上がると、キャメルバックを繰り返したあと、今度は水平に何度もくるくる回るコーススクリューとなる。
車両はほぼ左を下に横向きになっていた。
大観覧車が、帆船の帆のグランドインターホテルが、ランドマークタワーが次々に自分たちの周りを回転しているように見え、攪拌されていく。
すぐに左旋回して、乗車した位置にゆっくりと戻る。
コースはこれだけで宙返りする垂直ループはないが、十分にスリルを楽しめた。
時間にして約一分半、だが体感は五分ほどあったようにも感じる。
「どうだった?」
降りてから翔は陽子に聞いた。
「たいしたことなかった」
歩きながら、笑って陽子は言う。
「何言ってんだよ。大声でギャーギャー叫んでたくせに」
翔も笑って言うと、陽子はさらに声をあげて笑って翔の腕にしがみついてきた。翔は言った。
「たしかにたいしたことなかったな。富士急とかの絶叫マシーンに比べたら全然」
「へえ」
感心したような声を、陽子は上げた。
二人はまた、エアコンの効いた建物へと戻った。この建物の中にもいくつかアトラクションがある。
最初に目に留まったのは「VRV 〜VIRTUAL REALITY VEHICLE〜」で、激流下りが体験できるという。
だが、どう見ても狭い屋内だ。結構人が並んでいたけれど、がんばって二人は並んだ。
やがて自分たちの番が来て、ジェットコースターよりは大きめの四人乗りの乗り物に二人で乗った。後ろには別のカップルが乗っていた。
レールは前方に数メートルしかなく、周りに映像を映し大すようなスクリーンもない。だが、二人が目のところに装着したのはVR機だ。
発車するとVRの立体映像によってあたかも実際に空を飛び回り、滝つぼの激流に飛び込んだりする。それに合わせて乗り物も前進したり振動したりして、リアル感を増す。
やはり陽子のギャーギャーいう声が聞こえるけれども、今度はその姿を見ることはできない。実際のジェットコースターのバニック!よりも迫力は大きいけれど、残念ながらこちらはバニック!のような実体験ではなくあくまでバーチャル映像なのだ。
降りてからまた翔は、同じように陽子に感想を聞いた。
「たいしたことなかった」
同じことを陽子は言ったけれど、今度はかなり声のトーンが低かった。
「ジェットコースターより今のの方がいいか、ジェットコースターの方がいいか、人それぞれ意見が分かれるところだろうね」
翔がそう言いながらも、これで二人合わせて三千六百円分のチケットを使ったので、あと千四百円分しかない。
「お化け屋敷はないんです?」
陽子が聞いた。
「あるよ。でも歩いて回るようなのは橋の向こうのブラーノストリート・ゾーンにしかなくて、こっちには乗り物に乗るタイプのしかないけど」
「またあの橋渡って戻るの面倒だから、乗り物の方でいい」
翔が連れて行ったのは「新・幽霊堂」という、建物のいちばん奥の部屋のアトラクションだった。二人で千二百円だから、かろうじてチケットは足りた。
「怖さが選べるんだよ」
「何それ、ココイチのカレーみたい」
陽子が笑った。玉一つではマイルドな怖さ、二つで普通の怖さ、三つ目でかなり頑張った怖さだという。
「じゃあ、三つで」
ケロっと陽子は言った。
乗り物は四角い金網の中だ。
「これ、どう見ても檻だろ」
翔は笑って言った。
実際に始まると、真っ暗な中ときどきぱっとライトアップされた恐怖の人形が驚かせる。日本古来のお化け屋敷という感じだが、金網に入っているだけに皆近い。だが、自分の足で歩く必要がなく、どんなに怖くてもどんどんと金網の乗り物は進む。
人形の首が飛んだり、不気味なキツネの面とかが襲ってくる感じで、見た目よりもシューッという大きな音や気味の悪い笑い声、「呪ってやる」「地獄へ落ちろ」などという声の方が恐ろしさを増す。
「ギャーッ」
何度も陽子は、悲鳴を上げて翔の腕にしがみついてきた。そのうち、翔の胸に顔をうずめてきたりしている。
翔は恐怖を感じるどころか、むしろ陽子のその直接の体温と甘い香りを楽しんだりしていた。
今度は体感ではなく、実際に四分近くかかった。




