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ソルティ・レモネードと白い夏  作者: John B. Rabitan
マリンブルー
35/80

 陽子から、夕方電話があった。

 ほとんどがLINEでやり取りしているだけに、音声通話は珍しかった。

 この日、かけるはバイトがなかったので、自宅の自室のベッドの上でスマホでゲームをしていた時だ。

 

 「よっぴー? いま、どこ?」


 ――学校。サークル活動が終わったところ。


 「どうしたんだ? 電話なんて」


 よほどの急用かと、翔は思った。だがどうも、周りが騒がしい。


 「誰かいるの?」


 ――うん。なんかダンス部のみんながかっちゃんと話したいって。


 「ええっ、なんで?」


 ――こんにちは


 ――こんにちは


 ――どうもどうも


 翔の問いに答えなく、突然複数の女の子の声が聞こえた。ハンズフリーで話しているようだ。


 「だれがいるの?」


 ――たまちゃんとそれからユイちゃんって子とルンちゃんって子と…


 ――はーい。ルンちゃんです。毎日よっぴーからのろけ話聞かされてまーす。


 「ああ、どうも」


 ――あと、いるのは……


 陽子の声だ。


 ――うーん、めんどくさい、あとはその他大勢。


 ――その他大勢にされた。


 ――ひどーい。


 そんな声が複数で重なった。たしかに四、五人はいそうだ。


 ――御法川陽子です。


 ――あ、ちょっと嘘言わないでよ。私が陽子。


 最初の声は明らかに陽子ではないことは翔にはわかったので、笑っていた。あとの方が間違いなく陽子の声だ。


 「たまちゃんもいるの?」


 今列挙された名前の中で、翔が唯一知っている相手だ。


 ――はい、珠実です。


 「大和のハンバーガー屋さんでバイトしてるんだって?」


 ――そうなの。今度、来て。


 「うん行くよ。この間もよっぴーと、そのうちからかいに……じゃなくて、遊びに行こうって話してたんだ」


 ――もう、たまちゃんとそんなにたくさん話しちゃだめ。


 陽子が割って入る。


 ――ねえ、よっぴーの彼氏さん。


 別の子の声だ。


 ――顔見せてよ。ビデオ通話にして。


 この電話はLINEの無料通話で、ビデオ通話もできる。


 「ちょっとそれは勘弁」


 ――なんで? シャイなの?


 ――もう、だめだってば。


 陽子の声で、その子をたしなめている。


 「いや実は今風呂上がりで、裸だから」


 もちろん画像を出さないための口実、つまり嘘である。だが、かえってそのひとことが彼女たちを喜ばせてしまったようだ。


 ――見せて見せて見せて。


 ――だめだって!


 また陽子がたしなめている。


 ――あのねえ、よっぴーは今ぱんつびしょびしょだって。


 ――ちょっと、何言ってるのよ、もう、やだ。


 陽子は慌てていたけれど、その声にどばっと一斉の笑い声が重なった。翔は苦笑するしかなかった。


 ――もう、切るね。あとでまたLINEする。


 「おう」


 背後で「えーっ」というような声が聞こえたけれど、陽子によって電話は斬られた。

 それからも、しばらく翔はにやにや笑っていた。



 夜、陽子からLINEが来た。


 ――[こんばんは]


 ――[今日はお騒がせしてごめんなさい]


     ――[いや、俺もけっこう楽しかった]


     ――[早速、たまちゃんのバイト先、行く?]


 ――[それが、たまちゃんもとみこもバイト休みだって]


 ――[一週間くらい]


 ――[たまちゃんはお母さんの実家に帰省。とみこも家族と旅行だって]


     ――[じゃあ、コスモワールド]


 ――[いいよ]


     ――[本当は涼しくなってからって思ってたけど]


 ――[いいんじゃない?]


     ――[暑いの苦手じゃないの?]


 ――[でもあそこ、お化け屋敷もあるし、それで涼しくなれる]


     ――[じゃあ、決定]



 当日は薄曇りだったが、やはり猛暑だった。出かける前に居間でついていたテレビのニュースでも、もう何日も連続で真夏日を記録していると言っていた。

 二人はいつもの横浜西口の交番前で待ち合わせた後、この前にランドマークプラザに行った時と同様、東急の地下駅から東横線が直通しているみなとみらい線でみなとみらい駅で降りた。

 この日の陽子は赤いハイビスカスの花がプリントされた白いTシャツに、デニムのミニスカートだった。初めて陽子と会った時も彼女は白いTシャツだったけれど、今日のはそれとは違う柄だ。

 外を歩くと暑いので、今日もまたクイーンズ・スクエアの中を抜けて外に出た。一歩建物を出たとたんに、むっとした湿気が襲ってくる。

 そのままさくら通りを帆船の帆のグランドインターホテルの方へ向かった。

 道の右側の運河との間のスペースに、すでにコスモワールドは始まっている。だがこのブラーノストリートはどちらかというと子供向けなのでパスした。

 やがて国際大通りとクロスする信号で右に曲がり、大観覧車の方へ向かって運河にかかる国際橋を渡った。


 「暑い」


 陽子がそうつぶやくので機嫌が悪くなったら困るなと翔は思ったけれど、陽子はにこにこしていたので安心した。

 国際橋を渡り切ってすぐの右側に、コスモワールドの入り口の赤い柱の小さなゲートがある。遊園地は道の右側に展開しているが、フェンスとか何もないので中がよく見える。手前にジェットコースターの乗り場と路線を支える柱があり、真上を見ると大観覧車がそびえている。

 つまり、ちょうど観覧車の真下なのだ。

 国際通りのはるか向こうには、小さく赤レンガ倉庫が見えた。

 

 二人はコスモワールドのゲートをくぐった。そこがメインエリアであるワンダーアミューズゾーンだ。

 全体的に道路よりも一段低い土地に作られているので、入ったところが二階デッキという形だ。その上にも通路があって、その下の通路となる。

 すぐにコスモコートやコスモショップが入っている建物の赤い枠のガラスドアがあった。そこを引いて入ると、一気に冷房がありがたかった。


 「涼しい」


 陽子は生き返ったような顔をした。


 「さあ、何から乗ろうか」


 各アトラクションのチケット売り場もこの建物にあるので、あらかじめ買っておいた方が面倒が省ける。


 「まず、涼んでから」


 「なんだか急に元気になってるな」


 そんな陽子を見て、翔は笑った。

 とりあえず、同じ建物内にあるファンタジア・ストリート、すなわちゲームセンターに行ってプリクラを撮り、クレーンゲームで蛙のぬいぐるみをゲットしてはしゃいだりしているうちに翔の汗も引いた。


 「もう、よっぴーも汗引いただろ?」


 「私、実はどんなに暑くてもあまり汗かかないんだ」


 手をつないだまま上目遣いに翔を見上げて、陽子は甘えたように笑った。

 

 「いきなり絶叫、行く?」


 「うん、行くゥ」


 陽子は大きくうなずいた。

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