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ソルティ・レモネードと白い夏  作者: John B. Rabitan
マリンブルー
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32/80

 そんな白い壁の海の家で、とりあえず三人は奥に席を取ってくつろいだ。先に陽子が水着に着替えにいった。前にSUPをした時と同じ青いビキニだった。

 

 「なかなかいい水着だね」


 三浦がまぶしそうな顔をしていた。

 かけると三浦も着替えてくると、三人で砂浜に出た。

 空は一面に灰色の雲が垂れ込めて、その低い空が海に影を落として灰色に濁った海に見えた。水平線もあやふやで、いでいる海から砂浜に軽い波が時々思いだしたように打ち寄せ、けだるさを感じさせる。

 左の方は七里ガ浜との境目の防波堤があり、正面は右手の橋の先に江の島の緑が横たわっている。

 風はほとんどないけれど、かすかに潮の香りはあった。

 三人はセーフガードの監視台のすぐ下に陣地を取ってレジャーシートを敷き、念のためその四隅をそのへんの石で固定した。

 近くに人はぱらぱらという程度にしかいない。ほとんどが若者のグループだ。

 翔と三浦が先に海に入った。陽子はレジャーシートの上に座って、そんな二人を見ていた。

 翔がひと泳ぎしてから、浜に上がってきた。


 「なんだか海の水の方が温かいな」


 翔が陽子にそんなことを言っていると、三浦も続いて上がってきた。翔はバスタオルで自分の上半身を包んで陽子の近くに座った。


 「なんか腹減ったなあ」


 三浦も座りながら言った。


 「お握り、ありますよ」


 陽子はバッグの中からアルミホイルにくるんだ五つの大きな握り飯を取り出した。


 「よっぴーが作ったんか?」


 翔がそう聞いた。


 「ううん。ママに作ってもらった」


 「俺、梅干しじゃないのがいい」


 翔は陽子がおかかだというのを受け取り、ホイルをいて黙って食べた。


 「三浦さんもどうぞ」


 「ありがとう」


 三浦も一つ、つまみあげた。

 その後、翔と三浦の二人でまた泳ぎに行った。上がってきてからは、とりあえず海の家に戻った。


 「のどかわいたなあ」


 翔がつぶやいた。


 「そうだな。さっき飲み物なしでお握り食べて、それで海でまた少し塩水飲んだ」


 三浦も笑って言った。


 「よし、ビールいこう」


 翔と三浦は缶ビール、そして陽子はオレンジジュースを頼んだ。


 「彼女、二十歳になるのはいつ?」


 三浦が陽子に聞いた。


 「二月生まれなので、あと一年半後です」


 「そうか、まだ十八歳か。若いなあ」


 「なにオッサンみたいな口調で言ってんだよ」


 翔が茶化して笑った。

 そのあとまた砂浜に出て、三浦と翔の二人で泳ぎに行った。あがってくると、三浦は酔いが回ったのか、翔の足を払って転ばせて喜んでいた。翔は這って、座っている陽子の膝の上に頭を乗せた。


 「ひゃー、何か来た」


 陽子は笑って、自分の肩にかけていたタオルを翔の顔にかぶせた。

 そんな二人を見て、三浦も笑っていた。


 「彼女、全然泳がないじゃん」


 「そうだよ、よっぴー。泳ごうぜ。おまえ一人だけ海の中にさえ入っていないじゃないか」


 陽子は笑っているだけだった。


 「SUPではあんなに積極的に海で遊んでるのに」


 「だってSUPは水の中には入らないもの」


 翔は自分の顔のタオルを払いのけるとくるりと立ち上がり、陽子の手を引いて陽子をも立ち上がらせた。


 「いいから泳ごう」


 「リクエストに応えて、さあ」


 三浦も言うので、陽子はようやく海に入った。


 「冷たーい」


 すねくらいまで入っただけで、陽子は叫んだ。

 波が先ほどより出てきている。波しぶきが上がるたびに、陽子はキャーキャー言って翔にしがみついた。そのまま、翔は陽子を胸くらいの深さのところまで引いて行った。

 三浦が潜ってきて、翔の足をつかんだりしていた。

 そのままさらに沖に行った。陽子は、波が来るともう足が立たないようだ。だからしっかりと翔と抱き合う形になっていた。体のあらゆる部分が、海水の中で密着した状態になっている。陽子はその腕を、翔の裸の背中に回していた。

 海から上がると、陽子はタオルを肩にかけて震えていた。

 翔は砂を盛り上げて、砂浜に「I Love Yoppy」と書いていた。その上に陽子はひょいと砂をかけて、その文字を消して笑っていた。


 「一応英語読めるんか」


 「読めるよ、それくらい」


 また陽子は笑った。


 「今、何時?」


 翔が聞いた。陽子はスマホを見た。


「三時半」


「そろそろ上がろうか」


 翔が言うと、三浦もうなずいた。

 三人で海の家に引き揚げ、それぞれ着替えに行った。翔が戻ると、陽子はもう着替えが終わっていて、シャワーを浴びた髪が濡れたままだった。そこへ三浦も出てきた。

 そのまま三人で片瀬江ノ島駅の方へ向かった。だが、国道134号をくぐる地下道で、三浦がたまには江ノ電に乗りたいと言いだした。


 そこで片瀬江ノ島から小田急に乗るのはやめて、江ノ電の江ノ島駅まで歩くことにした。

 三人ですばな通りという、歩行者だけの細い道を歩いた。道は人通りが多かった。ちょうど海水浴客の帰りの時間だ。多くの若者グループが、時には大はしゃぎしながら歩いている。

 沿道はカフェやファンシーな小物の店などもあり、また海水浴用品を売る店は普通の丸い浮輪やイルカの形をした浮輪なども店頭にぶら下げて売っていた。

 途中、プリンやかき氷の店もあった。


 「かき氷食べよう」


 陽子がそんなことを言いだした。


 「ああ、でもあの行列」


 翔が指摘したとおり、店の前にはけっこう行列ができていた。


 「あんなに並んでるからパス」


 翔はおどけて言うと、陽子は少し頬を膨らませた。

 

 江ノ電の江ノ島駅まではそんなすばな通りを五分くらい歩く。やがて道の右側に江ノ島駅があった。

 小さな駅で、山小屋かドッジ風の三角屋根の小さな駅舎だった。小田急線の駅のようなド派手な竜宮城ではない。

 三人は混んでいる江ノ電に乗って終点の藤沢まで行った。

 江ノ電の藤沢駅は百貨店のあるビルの二階だ。JRの駅とはペデストリアンデッキでつながっており、そこでJRで平塚まで帰る三浦を見送った。

 そのあと翔と陽子は百貨店の上の階にエスカレーターで上がった。

 陽子を前にしてひとつ下の段に翔が立ち、陽子の腕に顔を摺り寄せた。


 「べたべたする子は嫌いよ」

 

 陽子は笑って言った。

 そして少し買い物をした後、外に出る階段のところで誰もいなかったので、二人は軽く口づけを交わした。

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