17/2「闖入者」
17/2「闖入者」
扉が開いた時、モーリは度肝を抜かれたとかいうレベルではなく、血圧が急変動して失神しかけていた。何とか意識を繋げ止めた視界の先にいたのはモーリにとってもっとも望んでおらず、しかし当たり障りのない男だった。
「何やってんだ?」
訝しむハヤミをモーリは反射的に追い出そうとしたが如何にも不自然だと思いなおして逆にオフィスに引きずり込んだ。
「何だよ」
思ったよりはヤバいものではなかったがそれでも厄介事には間違いなさそうだ。ハヤミがいかにも面倒くさげに伺うとモーリは頭を下げた。
「だ、黙っててください」
こんなことは身内には絶対に相談できない。と、なればモーリが唯一味方につけれそうなのは不服にもハヤミしかいなかった。
頭を挙げたモーリの眼に映ったハヤミの顔には関わりたくないと描いてあった。しかしこの厄介ごとに愛される因果を持っている男は全く逆の言葉を紡ぐ。
「だから、何だよ」
自分が何の説明もしていないことに気付いたモーリは正常には回転していない頭を無理矢理攪拌して説明すべきこととしてはならないことを選別した。
「ちょっと用があってここのメインサーバーを調べなきゃいけないんです」
それをなんでこそこそやる必要があるんだ?モーリの弁明は支離滅裂だったが詳細な説明は望めそうにない。無駄な問答を避けるためにハヤミは頭を回した。モーリはこの施設ではそこそこ上位の人間である。サーバーを扱う権限くらいあるはずだ。こんな時間にこそこそやっているんだから正規の手順を得てはならない理由があるのだろう。その理由をハヤミは聞きたくなかった。明らかに面倒ごとである。
「で、何をどうしろって言うんだよ」
理由はいらない。結論だけ聞こう。ハヤミの要求にモーリは困惑しながら再度何を言うべきか考えた。ハヤミ相手にやるべきことを整理することで頭はいくらか冷静になりつつある。
モーリでもクサカ開発施設のサーバーへのアクセスには制限がある。勝手にアクセスすることはできないし、できたとしても痕跡が残る。しかし、それは通常の手順に従った場合の話だった。
「サーバー室に行く必要があるんですけど1人だと怪しまれるんでついてきてください」
「俺とだったら怪しまれないわけ?」
そんなわけはないだろう。
しかしモーリは確信を持っていた。この施設の警備員は常に2人1組で行動している。1人でサーバー室に近づく場合は怪しまれる可能性が高いが2人組で巡回しながら行動すれば怪しまれることはない。そういう風になっているのである。
そんなわけはないだろう。モーリの説明を受けてもハヤミの考えは変わらない。2人で行動していたら警備員と誤認するとかいくら何でも間抜けすぎる。もちろんモーリもそこまで間抜けではないだろうからそこには何らかのからくりがあるんだろう。
自分のデスクにつくとモーリは何やら端末を操作し始めた。
「これで私たちは警備員です」
言い切るモーリにハヤミは目を丸くした。どうやら警備システムのID管理に介入したらしい。技術的な部分はともかく、モーリがそんな悪事に手を出すことにハヤミは興味を抱いた。察したモーリは苦々しくぼやく。
「悪い先輩を持つと苦労するんですよ」
なるほどねぇ。ハヤミは納得した。その方法はエリカが社に黙って研究施設を使うための悪知恵だった。自分のID属性を一時的に改ざんして警備員として扱うのである。これによってモーリとハヤミの存在はシステム的には警備員として扱われる。
これまでもモーリはたびたびエリカに付き合わされて架空の警備員役をやらされていたのである。マズいからやめましょうよと何度言ってきたか解らないが、まさか自分がそれをやる羽目になるとは。
「行きましょう」
明らかにマズいことに巻き込まれていることを知りながらハヤミはついていった。
遅い時間の施設は人が全くおらず、2人は何の苦労もなくサーバールームのある奥へと歩を進めた。
「しかし同僚が増えて不審に思わんもんかね」
思わないんだろうな。ハヤミは自分で結論した。バレるとかバレないとかではない。警備員が増えることの意味を察しているからこそ関わらないのだ。ようするに「よくあること」として黙認されているのだろう。
だったら俺はいらないんじゃないか?ハヤミはそう思ったが今さら言いだすこともできずハヤミはモーリについていく。
モーリの方もそれは解っていた。実際にはハヤミは必要ではない。しかし、モーリにはこの悪行を1人で決行するだけの度胸はなかった。心細かっただけである。巻き込んで悪いとは思うがハヤミにはいて貰わないと困る。できるだけ手早く済ませて、何事もないことを確認したい。
施設の心臓部であるサーバールームへの入り口。さすがにここに入るには警備員IDでは無理があるはずなのだが、モーリは勝手知ったるとあっさりとその扉を開けてしまった。どうやらそこにもろくでもないからくりがありそうである。モーリに手招きされてハヤミはクサカ社の技術データの聖域に足を踏み入れた。
黒い筐体が立ち並ぶサーバールームは技術の精粋とは思えぬほど異様な空間に思えた。ハヤミにはこのモノリス一つ一つに悪魔が宿っているように見える。もちろん、中身はただのサーバーである。部屋の中央にはそれを制御するための端末があるのだがモーリはそれには目もくれずに部屋の奥に進む。
サーバールームの端。そこに小さな巣があった。空き缶、食べ物の包みなど誰かが留まっていた痕跡があり、不釣り合いな折り畳み椅子が据えられている。その正面にはサーバー筐体のアクセスポートが開いている。バレたところでお咎めなしの確信があるのか。隠す気がさらさらない隠れ家にモーリは苦笑いする。
この施設のメインサーバーは数年前にエリカが本社にかけあって設置させた最新鋭のサーバーであるがそれ以外の側面ももっている。ここにはエリカが社の意向を無視して開発研究しているHVの設計や技術案などが雑多に眠っているのである。本社側はこれを認知していないがこれにはからくりがある。このサーバーには設置させたエリカが勝手に組み込んだ裏コードが多数存在している。それを使えば痕跡を残すことなくアクセスが可能。つまり好きに使えるわけである。どう考えても規約違反でこれを知っているのはモーリを含めても2~3人に留まる。
要するにこの施設のサーバーはエリカによって魔改造、私物化されているのである。
折り畳み椅子に座るとモーリは自分の端末とメインサーバーを接続した。いよいよ知りたくもない答えが出る。モーリは深呼吸した。
「で、何を調べるわけ?」
「聞かない方がいいです」
「左様で」
ハヤミはあっさり引き下がった。
通常ならあり得ないいくつかの行程を行うことでモーリの端末はサーバーに不正規接続を果たした。この裏コードを作ったエリカに感謝すべきかどうなのか。
真っ先にサーバーのアクセス記録を探る。どれが誰のものかなどモーリは把握していないが直近、少なくともモーリがALIOSのマスターコピーに接続した時間のものはなかった。モーリの心に光明が差したがこれで安心するわけにはいかない。
サーバー内の主要な機密情報。その全てを把握しているわけではないがモーリは当たりを付けていくつかのデータを確認する。これといって変化したと思われるものはなく、これもやはり異常なし。
杞憂に過ぎないという結論にだいぶ近づいていたモーリだが気は晴れない。一息をついてモーリは本丸を調べることにした。サーバー内にあるイスルギ社から提供されたALIOSのコピーユニット。仮にALIOSが悪さをするようなシステムであるなら、これを確かめない限り安心はできない。
まさにそこに問題はあった。サーバー内のALIOSに更新記録が残っていたのである。例の時間。モーリは天を仰いだ。
やはり覗かれていた。しかしその対象が自身のコピーであるならまだ被害は軽微か?と思ったのもつかの間。不自然な点は他にもあった。日付がおかしいのである。今日だけでなく、表示されているだけでも数か月前から定期的にアクセスと更新がされている。不可思議なのは情報を読み取った形跡よりも保存したログの方が圧倒的に多いことだった。まるでクサカのサーバー内のALIOSログがマスターコピーのような状態だった。
いや。ようではなくて、実際その通りなのかもしれない。いずれにせよ外部と内部でALIOS同士が交信していたことは間違いない。
つまりモーリがマスターコピーを接続してしまったはるか以前からクサカのサーバーはALIOSに侵入されていた可能性があるということだ。でも何のために?ログデータは確かにALIOSにとって重要ではあるがこれらのコピーは定期的に他のALIOSに合流しているはずである。わざわざサーバーに入り込んでコピーデータだけにアクセスする意味はない。しかし他には痕跡がない。
これを信じるならばALIOSは自分自身のコピーにアクセスして均一化を志向しただけなのだろうか。AIの性質としてあり得ない話ではない。モーリは腑に落ちなかったが今ある情報ではこれ以上は悪魔の証明にしかならない。
そうであるならこの件は無視できなくもないか。以前からALIOSが不正侵入を行っていたとしてもこれまで気づかなかったのだから今回も気付かなかったことにできなくはない。半ば願望に近いと理解しながらもモーリはそう結論付けることにし、アクセスを終了した。
「終わり?」
「おかげさまで」
ハヤミが声をかけてくる。わざわざ危ない橋を渡らせた手前モーリはしおらしく対応する。これでハヤミには借りができてしまった。結果だけ見ればモーリが一人で大騒ぎしてハヤミに借りを作っただけではないか。モーリは萎えた。
まぁ裏コードのおかげで自分がアクセスした証拠はないし、気取られることはないはず。そこまで考えてモーリは見落としに気づいた。
まさか。モーリに恐ろしい推測が浮かぶ。ALIOSは自分と同様にエリカの裏コードを用いてサーバーにアクセスしていたのではないか?そうであるなら記録に残らないだけでサーバー内のデータにほとんど自由にアクセスできたことになる。そのアクセスしたデータをログデータとすることで気取られずに持ち出すことができるではないか。
これはあくまで推測である。証明するためにはALIOSの内部データを暴く必要がある。そのためには自分がやってきたことだけでなくエリカの裏コードも含めて洗いざらい説明する必要がある。大騒ぎになることは間違いない。それでALIOS、イスルギの不正が証明されるならいいができなかった場合はどうなる?
違う。考えるべきはそれじゃない。今は自分のことなどどうでもいい。モーリには無視しようがなかった。持ち出されたとするならそれは誰あろうエリカのデータなのだから。思考をリセットして再出発させる。程なくモーリは正しい手順に回帰した。
「とりあえずオフィスに戻りましょう」
「左様で」
他に言うことはなく、ハヤミは来た時よりずっと乱暴な足取りのモーリについていく。
百面相をしているモーリが最終的にたどり着いた表情にハヤミは覚えがあった。腹を括ったのだろう。一般に覚悟を決めるという所作は美徳とされる。ただ生き死にを経験してきたハヤミは他人の覚悟に対してドライな感情を持っている。覚悟と言えば聞こえはいいが実態は捨て鉢になっているだけということも多く、それが周りを巻き込むことは珍しい話ではない。
モーリは何らかの事情を抱えこみ、それを自己完結して腹を括ったようだ。何があったかは知らないが状況から見てその覚悟に至る過程には問題があるように思える。ハヤミから見てモーリは器用に立ち回れるタイプには思えない。然るべき人間に相談した上でなら他の道もあるのではないか。後になってなぜ相談しなかったということにならないか。モーリの気質から見るとそうなる絵は容易に描けた。
とはいえ、俺がどうこうできる問題かと言えばそれもね。
ハヤミが考えあぐねているうちに2人はオフィスに戻った。モーリはすぐに自分のデスクにいくと置いてあったメモリユニットを手に取り、踵を返した。
「で、どちらへ?」
答えようとしてモーリは思い留まった。これ以上は関わらせてもしょうがない。巻き込んでおいてなんだがここまでだ。
「ありがとうございました。もう帰っていいですよ」
左様で。モーリはそう言ってほしかったし、ハヤミもそう言いたいところだった。
「どこへ?」
なんでここで踏み込んでくるのよ。モーリとしてはハヤミのための配慮だったのでそれを無下にされた気分になった。
「あなたには関係ありません」
さっきまで巻き込んでおいて言えた台詞ではないがモーリはとにかくそれで押し通すことにした。今はハヤミのことまで配慮していられる余裕はない。
ハヤミはしばらく無言でモーリを見つめたがやがて溜息をついて降参のポーズをした。モーリはバツの悪さを感じて小さく礼をして足早にブースを出た。
とにかく、これを然るべき場所に提出して中身を解析すべきだ。どこに提出すべきか。真っ先に思い浮かんだのはエリカのところだったが巻き込むことになりかねない。その案はすぐに破棄された。
こうなれば本社に出向いてエリカの悪事も含めて全てを自分でやったことに。涙ぐみながら悲壮な覚悟をするモーリは自分のすぐ後ろにハヤミがいることに気付いて足を止めた。
何なのこの人!ついにモーリは爆発した。
「来るなって言ってるじゃないですか!」
声を荒げたモーリが恥ずかしくなるほどハヤミは動じなかった。小首を傾げてからいつもの調子で言う。
「帰るなってこと?」
当たり前のことだったがハヤミもモーリも施設から出る時に同じ道を通る。わざわざ違うルートを通る筋合いもない。モーリは黙り込んでまた歩き出し、2人は同じ廊下を歩いていった。
同じ頃。クサカの開発施設では小さな異変が起こっていた。ハヤミたちのことではない。警備室のモニターに映された画面が誰に悟られることもなくすり替わり、システムが人間に代わって察知していたあらゆる兆候に欺瞞情報が吹き込まれていく。
「オッケー。ビューティフォー」
電子戦を得意とするオペレーターのアサギリは他人の作り上げたシステムを自らの意思によって歪め、操ることに倒錯的な興奮を覚えながら満足げに呟いた。
誰にも悟られることもなく、施設の警備システムが侵入者によって制圧された。その手際がアサギリの恐るべき練度を示している。
夜になって施設はほぼ完全に閉鎖され、区画ごとにゲートが閉まっていく。施設の内部では2人一組の警備員たちが巡回しているが彼らのルートも警備システムで管理されていた。これらのシステムもまたアサギリに手懐けられていた。
制圧された警備システムの下でいつも通り警備スタッフが動いていることを確信するとアサギリはチームにGOサインを出した。
「陽炎より屍へ。霧は覆われた」
施設に3台の警備車両が近づいて行く。
チームを代理的に率いている男、スミスは状況を完全に制御できていることに今のところ満足していた。間抜けで危機感のない警備員を出し抜くことは難しいことではない。連中の多くは願望に基づいた行動を取り、都合の悪い虫の声には耳を傾けないようにしている。何事かに備えることが彼らの仕事であるが何事もないことが彼らの願いなのである。それを提供することで彼らは安堵し、それをこそ守ろうとして自分たちから破ろうとはしない。それでいい。そこから覚めるのは何より彼らにとっての不幸となる。こちらは目的だけを達成できればそれでいい。その目的に命を張ることを彼らも望んでもいないはずである。
仕事の開始前、スミスは目的を念押しするために通信を飛ばした。
「各自、担当は頭に入っているな。今のところ状況は完璧に制御されているが優先順位を忘れず、それに疑問が出た場合はただちに報告しろ。それと念を押しておくが、人死には可能な限り避けろ」
スミスの乗る車を運転しているニノマエは最後の要項が気に入らなかった。通信を終えたスミスに溢す。
「可能な限りって表現はマズいんじゃないの?」
全くだ。スミスは心の中でだけ同意した。とはいえ、絶対に犯すなとも言えないし、気にするなでは論外だ。そもそもスミスら特殊部隊ゴーストはこういった複雑で面倒なことを手掛けるために組まれているのである。
「だからこその俺たちだ。左の羽根じゃこうはいかん」
「確かにね。しかしなんだって俺たちがこんなところまで応援に駆け付けなきゃいかんのよ」
ニノマエの愚痴にスミスはやはり心の中でだけ同意しながらニノマエの為にいくつかの理屈をリストアップした。
「どんな理屈がお好みだ?」
「わーってるよ。シミズの動かせる戦力じゃ足りないし、シミズに借りを作れる。おまけに任務は繊細で重要。俺たち以外に適任はなし」
「さすが。よく解ってるじゃないか」
褒めるスミスにニノマエはノーサンキューと首を振った。
スミスたちの車両は正規の手順を得た警備車両として堂々と施設に入っていく。事前に申請されている機材、データ類の移送がスミスたち臨時警備員の仕事になっている。この時の為にスミスらは本当にその仕事を何度か行っており対応した警備員は特段疑問を持つこともなくスミスらを通した。
「よし。各員手筈通りに」
スミスらの目的は施設内の要員数名の確保と指定されたデータおよび機材の回収。既に施設の警備システムは掌握されており大した時間はかからずにそれは達成できるはずだった。
実際、スミスの担当である要員は所定の場所に待機しておりすぐに見つかった。しかし問題の種は別の場所に蒔かれていた。
「スミスさん、マズいです」
チーム最年少のベスパからの通信。所定の場所に置かれているはずのブツを回収するのが役割である。一番簡単な仕事のはずである。問題が起こることそれ自体はスミスも慣れているが苛立たし気に応答した。
「何をマズった?」
別に私がマズったわけじゃないんだけど。ベスパは不満を持ったが内容を伝えれば自ずと疑いは晴れると思って報告した。
「メモリユニットが見当たりません。手筈の場所にありませんでした」
「何だと?」
ALIOSとクサカの内部データを内包したメモリユニット。あれを回収するために来たようなものなのに肝心のそれがないのでは話にならない。まさか持ち出されたのか?いや、いくらクサカでもイスルギの物品を勝手に持ち出すとは考えづらいし、こちらのマークを掻い潜れるとも思えない。どこかに移されただけでまだ施設内にはあるはずだ。
「アサギリ」
はいはいと気のない声でチームのオペレーターが返事をした。
「事前報告で予定より警備員が増えていると言ったな」
「言ったね」
「そいつらが関わってる可能性が高い。洗い出せ」
「はいはい。シフトに入ってないのは、と」
アサギリは即座に事前情報と異なっている警備員を洗い出した。しかし本来そこにいたはずの警備員はアサギリが誘導したルート上にはいなかった。
「あらら?」
すぐに精査しなおすと今度は警備員でなく、職員と思しきIDが増えている。
まさか見間違えた?初歩的なヒューマンエラーの可能性にアサギリは口ごもったが止む無く報告する。
「警備員なし。代わりに別の職員がいる」
当然、スミスはその報告に納得しなかった。
「どういうことだ?」
「わかんない。見間違えたのかな…」
アサギリに限ってそれはないだろう。スミスはアサギリのオペレートに全幅の信頼を寄せている。見間違えるような要因があったのか。もしくは、本当に警備員はいたのか。スミスはすぐに当たりをつけた。
「お前がそんな初歩的なミスするとは思ってねーよ。どっかのだれかがID管理を書き換えて潜入してるってところじゃないか」
仮にこの対象が目的のメモリユニットを持っているとするなら。それ自体が目的と見做せる。つまりご同業様の可能性が高い。ならばID管理を改ざんして潜入するくらいのことはできるだろう。
「なるほど。で、どうする?」
「当然調べる」
何者であるにしても真っ当な存在とは考えづらいし、確かめないわけにはいかない。どうせそいつが持っているだろうが、そうでないにしても不確定要素は潰しておくべきだ。
「了解。ルート出すよ」
表示されたルートとその場所を見てスミスは顔を顰めた。かなり奥まった場所。それも機密レベルの異なるエリアだった。幸いなのは人気の極端に少ない場所であることだ。腕のいいエージェントなら気取られずに潜入できなくはないだろう。スミスは即断するとチームに配置を変える指示を出す。
「俺が行く。ベスパ、こっちを任すぞ。アサギリ、オペレートしろ」




