12/4「オシカの戦い」
12/4「オシカの戦い」
310年2月。ハミル率いる第11旅団は従来通りボルトン兵団を探し移動を行っていた。一点のみ違うのは普段なら敵艦隊を見つけてから別行動をとるエノー支隊が既に姿を消していることだった。
この移動に際して旅団はある情報筋から兵団の襲撃情報を得ていた。明らかな罠であると推測されるこの情報にハミルは乗り、逆に旅団が乗ったという情報を流す。つまり旅団からの挑戦状。当然、ボルトン兵団もこれを受けて立つ。
双方にとっての僥倖。お互いが望む戦い。キルゾーンとなったエリアの名称からこの戦いは後にオシカの戦いと呼ばれることになる。
先に相手を発見したのはボルトン兵団だった。これまでと同じように中小コロニーを襲撃していた部隊と旅団が会敵し、この情報が兵団本隊に伝えられる。ボルトンは従来の戦力拡散を維持しつつ本隊を密かに動かし、旅団に対してカウンターをかけようとしていた。
釣り役の部隊に即座に離脱するように指示するとボルトン兵団は状況確認から始めた。
「エノー支隊なる遊撃戦力が見当たりませんな」
「相手もこちらの動きを予見していたと言うことでしょう。予め戦力を潜ませ、急激する。いつものパターンです」
旅団の陣容を見た兵団幕僚たちの見解は一致したものの対応に関しての意見は分かれた。大きくは第11旅団の本隊を叩くべきという主張と支隊を叩くべきという主張の2つである。
「敵の要となる部隊はエノー支隊なる部隊です。強力なHV戦力と高速艦艇の組み合わせで神出鬼没に現れ、強襲をしかけてくる。放置すればこちらはそれなりの打撃を被ることになるでしょう」
「支隊は所詮中隊規模の戦力に過ぎない。その威力もあくまで戦術的な優位が取れた場合にのみ発揮される。こちらが隙を見せねばよいだけのこと。派手な動きに本質を見誤ってはならない。戦力として大であるのはあくまで旅団の本隊。これを撃滅せずに旅団に勝利したなどと言えるのか」
「強度で言えば支隊こそ旅団の中核と言えるのではないか。聞けば旅団にしても支隊しても連合の政治的な賜物ときく」
エノー支隊の司令。ルビエール・エノー中佐の名は火星軍にも届いていた。しかし、多くの者はその活躍をプロパガンダとしか捉えていない。エノー支隊なる部隊もその一環に過ぎないと考えている。これは事実の一端ではあった。
「叩きやすく、尚且つ強度も高いとなれば自ずと選択は決まろうというもの」
戦術的でも政治的でもないこの動機に旅団本隊派は眉を顰めたが彼らを動かす不純な目的に叶うものでもあり、半ばが黙り込んでしまった。
それでもいくらかの本隊派は反撃に出る。
「ではその支隊とやらをどう見つけ、叩くのか。現時点でその支隊とやらを見つけてもいないではないか」
この指摘には支隊派は言葉を詰まらせた。どれだけ支隊がいい獲物だとしてもいなければ叩きようがないし、そのために探し回るのもバカげている。
議論を白熱させる幕僚たちの中に見え隠れする思惑とのズレにポートマンは吐き気を覚えていた。話がどう相手を叩くか以前にどの獲物を狩るか、という話になっている。相手がその思惑通りに踊ってくれる保証などないというに。しかしポートマン自身は実戦における参謀ではなく、この手の話題でイニシアチブをとれないし、いま思っていることを口にしたところで不興を買うだけなのは明白だった。
話が行き詰まり、旅団本隊を目標とすることで止む無しとなりかけたところで満を持して今回の主役が口を開いた。
「では、誘い出せばよいでしょう」
フィオナ・ヴィンセントはここまでの話の流れを全て想定したと言わんばかりに持論を展開する。
「今回の戦いで我々は自らの作戦行動を敢えて開示しています。これと同じように旅団も自分たちの行動を流してきたと考えられます。その狙いは何か。敵は何らかの策を講じており、我々に対して勝ち逃げを画策していると考えられます」
勝ち逃げ。この言葉に幕僚たちは不愉快気に唸る。戦術・戦略的に見れば大した問題ではないはずだが今のボルトン兵団にとっては許されざる結末だった。
旅団に勝ち逃げを許してはならない。幕僚たちの大半の思考はそう流れた。ヴィンセントはその思考を手繰り操る。
「つまり相手は勝ち筋を用意し、逃げる算段もあると言うことです」
ここでヴィンセントは旅団と兵団の間にあるエリアを表示する。オシカ暗礁と名付けられたその暗礁帯は宇宙戦国時代の戦いによるデブリが歪な形で漂う宙域だった。
「現在、エノー支隊なる部隊が姿を隠しているのもこのシナリオによるものと考えて間違いないでしょう。エノー支隊の役割として考えられるのは2つ。1つは勝ち筋に関わる一撃を与えること、もう一つは逃げ筋に関わること。いずれにしても連合側のシナリオにおけるキーマンとなることは間違いないでしょう。このシナリオを我々は逆用したい。敵にその気になるシチュエーションを与え、こちらに引き込む」
幕僚たちは沈黙し、ヴィンセントの主導権を認める。これを受けてボルトンはこの戦いにおける共和軍側の主演としてヴィンセントを指名することになった。
「それで具体的には?」
勝ち誇った顔でヴィンセントは幕僚たちの輪から一歩踏み出る。
「特別なことをやる必要はございません。敵が別働戦力を用いた戦術を仕掛けてくるのはまず間違いないのです。ならば我々は旅団本隊を相手にしつつ敢えて隙を晒し、支隊の奇襲を待ち、これにカウンターを当てる。高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対処するだけのこと。我々ボルトン兵団であれば何の問題がありましょうか」
要するに行き当たりばったりということではないか。戦術に明るくはないポートマンですらヴィンセントの主張をそう評した。確かに数で勝る方は下手に策を弄せずに少数側の行使する策を数によって押し潰せばよいだろう。多数側が敗北する例の多くは策に策をあてての自滅。相手に踊らされてのものである。策士、策に溺れる。策を弄することなく、正攻法にて策ごと相手をなぎ倒す。王道であり、実行できるだけの戦力差は確かにある。
しかしヴィンセントの場合はこの理屈を自分が策を検討しないための方便に用いてはいないか?相手がどのような動きをするかちゃんと予測したのか?他にもっと堅実な策がないか検討はしたのか?他の策、可能性を考えた上で王道を選択するならいいのだが。最初から選択ありきであるならそれは浅慮、単なる思考停止である。
かといってポートマンにそれを指摘する気は起きなかった。まずポートマン自身が数の力で押しつぶす方針に妥当性があると考えている。加えて他の策に関してポートマンには全くあてがなかったのである。結論が変わらないのであればヴィンセントの浅慮を指摘したところで藪蛇にしかならない。
その他の職業軍人たちの思考はより酷かった。彼らにはこの戦いがヴィンセントら政治屋幕僚たちの政治屋幕僚たちによる政治屋幕僚たちのための戦闘と映っている。それに対して妥当な指摘をしても手柄は彼らに帰結する。するだけ損だと彼らに映っていた。中には適度に失敗すればいいとすら思っている者もいたのである。
この時点でボルトン兵団を指揮するものたちの思考は的外れな状態に陥っていた。
UF310年4月ボルトン兵団はオシカ暗礁帯に布陣した。中心部はデブリのない開けた宙域であり、一見すれば大部隊に有利な場所である。しかしそのエリアから少し離れると密集したデブリ帯がそのエリアを囲むように存在しており、小規模な部隊であれば隠蔽場所として利用できる。要は兵団、旅団の双方にとって都合のいい場所をボルトンは選択したのである。
明らかな誘い。ボルトン兵団の狙いは明け透けであり真っ当な指揮官であれば戦力差的にも手出しのしようがない状態と見做して戦いを避けるところである。しかし第11旅団は現れた。この時点で彼らに策があることは疑いようがない。
オシカの戦いが始まった。ボルトン兵団の要点は第11旅団の策を見破ること。第11旅団の要点は兵団を策に墜とし込むこと。
誰もがそう考えていた。
ボルトン兵団の主力艦隊と旅団本隊の戦力差は凡そ5倍。圧倒的な差である。ここに姿を見せていないエノー支隊を足したところで表現を変える必要はない。開けた宙域に自らを置きながら敢えて相手に有利なデブリ帯を提供する兵団は自分たちの優位から動く気は全くなかった。完全なるカウンター狙い。当然それを承知でハミル率いる第11旅団の本隊は現れた。
「横綱相撲ですなぁ。さすがは堅実派ボルトン。と考えるべきですか?」
旅団戦闘指揮官ボスコフの言葉は否定的なニュアンスを帯びていた。堅実派であるなら、そもそもこんな場所で戦ってはいないだろう。もとよりボルトンの変化を洞察していたハミルは頷く。
「敵は泥沼に片足を突っ込んでいる。そのまま気づかずに沈んでもらう」
敵は既にこちらの策にはまっている。後はそのままどっしりと身構えてもらっていればいいのである。
ハミルの言葉を事実上の作戦開始と受け取ってボスコフは隷下の者に向き直った。
「では、まずは小手調べだ。状況開始ぃ」
言っている言葉に妙な含みを持たせてボスコフは豪気に令を飛ばした。
まずは旅団本隊と兵団の戦いが始まった。旅団、兵団双方ともに距離を置いて戦力を小出しに入れ替えながら戦う。明らかに本命ではない戦いぶりに兵団の意識は目の前の旅団本隊ではなく、いまだ姿を見せていないエノー支隊に向いた。
ここまでは想定通りか。ボスコフはこの展開があまり気に入らない。戦場にいない者が主役になってしまっている。彼には兵団にしても旅団にしても支隊を過大評価し過ぎているように思える。
ボスコフの支隊に対する立場は旅団内では比較的中庸であるように努力されている。特別否定的ではないが歓迎しているわけでもない。ハミルがそうであるよう、その片腕である彼もそうあるべきと自らを律しているのであるが、彼の眼には若僧が好き勝手に振る舞っているように映っており、言動にそれがチラつくことがあった。
「皆が真打の登場を待ちわびていますな。エノー姫には酷な仕事にも思えますが」
ボスコフは冗談のつもりで言ったのだろうがハミルは許容せず睨みつけた。
「うちにお客様はいない」
「いや、これは失礼しました」
慌てて言葉を取り繕う一方でボスコフはハミルがエノーを旅団の中核として許容していることを改めて確認したのだった。
それはそれでいいさ。期待を裏切らんでくれよ。軽いやっかみを抱えながらもボスコフはまずは自身の役割を全うするため思考を打ち切った。
第11旅団の狙いはボルトン兵団に勝ったという事実を作ることである。つまりこの戦いに明確な戦術目標はない。これは相手であるボルトン兵団も同じようなものだったがボルトン兵団と第11旅団の思惑と事情には微妙な差がある。
ボルトン兵団は従来の作戦展開によるこれ以上の勝利(による効果)が望めないのに対して旅団は現状の維持に然したる問題がない。旅団戦力で兵団戦力を相手取っているのだからそれで充分役割を果たしていると見ることもできるのである。
さらに政治的な要因も折り重なる。ボルトンら総統府に近しい軍人たちは直近のライバルたる近衛兵団の派兵を警戒している。
つまり今回の戦いにおいてより切実に勝利を欲しているのはボルトン兵団だった。しかもこの切実さは戦略とは無関係な事情による。内容どうこうでなく、ボルトンらはその個人的なお題目を達成せねば意味がないわけである。端的に言えば兵団側は深追いしてでも目標を達成せねばならないが、逆に旅団側は深追いしなくてもよく、引き分けでも十分に面目が立つ。勝利へのこだわりが違ったのである。
ここに隙が生じる。ソープはそう洞察する。旅団の目的は勝ち逃げすることにあるが、その目的自体が有利な点であり、相手を縛る手になるのだ。
問題は敵がどちらを狙うか、である。
相手が理性的で効率的な判断をするなら旅団本隊を叩こうとするはずである。実のところ旅団としてはこれが一番困る。数の利が如実に出るからだ。しかしそうはならないだろうとソープは楽観している。
この戦いにおけるボルトン兵団の目的は不純である。彼らが志向しているのはポイント稼ぎであり、この時点で理性的とは言えない。より見栄えのいい獲物を狙ってくる可能性が高い。欲を張って本隊まで狙うことはあっても間違ってもエノー支隊を無視するようなことはないだろう。ルビエールはこれを聞いたとき「どの口で言うのか」と呆れたが理屈そのものは認めた。
対する旅団の目的は低いレベルで純粋である、とソープは胸を張る。旅団は細かいことを考えずにただ兵団を殴って逃げればいいだけである。気楽なものだ、という失言も合わさってソープは顰蹙を買うのであるが、これがこの戦いにおける肝となる。
旅団の具体的な作戦が全て説明された時、旅団の者達はこの戦いが二人の人間の手腕にかかっていることを知る。
言うまでもなく、アントン・ハミルとルビエール・エノーの二人である。
エノー支隊は構成される艦艇の全てが新鋭艦であるがその優位性は速力だけにはとどまらない。ステルス性、そして索敵能力に関しても一日の長を持っている。これをルビエールは十分に把握していた。
誰もが予測している通りにエノー支隊は暗礁帯に潜んでいるのであるがエノー支隊は旅団本隊と兵団の小競り合いを観測しながらも自分たちの位置を気取られないポジションを確保してタイミングを待っていた。
開戦から数時間が経過。旅団本隊は3度戦力を前進させて出てきた兵団戦力と小競り合いをして退くことを繰り返した。
CSAを用いないこの戦いには全く本気が感じられず、開けた宙域に陣取る兵団側にも深追いする気が全く見られなかった。
双方ともに次の展開、役者を待っているのだ。ルビエールは苦笑いする。
ここで支隊、そして旅団の連合軍内での役割が決定される。勝てばプロパガンダの主役、負ければ雑多の掃除役。どちらも気に入らない役回り。で、あるならばルビエールは自らとその預かる隊のために勝つ方を選ぶしかない。
「よし、いくぞ」
「アファーム」
流れるような美声でアディティが応じた。
戦闘開始から4時間後、ボルトン兵団の側面を突く形でエノー支隊は出現。開けた領域に出た時点でその姿はただちに兵団に捉えられた。
エノー支隊の出現の仕方にボスコフは正直なところ失望した。彼は後にその考えを恥じ入るのだがそれほど捻りのない出現を支隊はしたのである。ボスコフを浅慮と笑うわけにもいかない。
そのボスコフと同じ考え方をしてしまったのはボルトン兵団だった。暗礁帯から躍り出てきた支隊であるがこれは戦術的には悪手とされる。味方を変えれば暗礁と兵団とで挟み込まれているとも言えるのである。暗礁帯を抜けようとすれば必然速力は落ち、兵団の追撃にあっさりと捕捉されるだろう。支隊は自分から袋小路に出てきたのである。
「素人か」
幕僚の一人が冷笑する。
「見栄えが良いだけの作られた英雄。しかして実態は経験の浅いただのルーキーということでしょう」
全ての幕僚たちがこの考えを支持したわけではないだろうが兎にも角にも目の前で格好の獲物が墓穴を掘ったのである。即座に支隊を暗礁帯に押し潰そうと支隊迎撃に用意されていた戦力の第一陣が差し向けられた。
この動きに支隊は突破したばかりの暗礁帯を側面にして転進。逃げる姿勢を見せる。この消極的な動きで兵団幕僚の支隊に対する評価はさらに低下した。
「上手くいかず焦っているようです。一気に蹴りをつけてもよろしいかと」
大勢の意見にボルトンも耳を傾けた。戦力に圧倒的な余地がある兵団は第二陣を今度は支隊の逃げ先に向けて差し向けた。これで支隊の逃げ場は兵団本隊のいる正面しかなくなる。万事休するはずである。
「喰いつきました」
アディティの報告を受けてルビエールは無表情に指を回した。次の瞬間、急な慣性変動で艦が揺れた。艦隊が加速したのである、逃げているように見えた支隊だったが実際には余力を持って相手が喰いつくように誘導していたのである。
支隊は速力を上げて第二陣の機先を躱すと第一陣第二陣を正面に捉えて迎え撃つ体制を整えた。これに呼応するように兵団に正対していた旅団本隊が兵団を中心に円を描くように支隊のいる方向に急進を始める。意図を察したボルトンは即座に迎撃部隊に戻るよう通達した。
あのまま支隊と交戦状態になれば迎撃部隊は旅団本隊に後背を突かれる形で挟撃を受けていた。これを即座に気付き、指示を出せたボルトンもやはり凡庸ではなかった。
「はっはっは。見事な連携だ。やはり一筋縄ではいかんな」
危うい一手を豪快に笑い飛ばしながらボルトンは片割れで的外れな進言をしてしまった部下の肩を叩いた。
「戦場は都合よくはいかんもんだなぁ。相手は有機的に連携している。見たかあの艦隊機動。なかなかできるもんじゃないぞ」
ボルトンは素直に旅団と支隊を称賛する。こちらの対処を見てからの連携は双方の高い戦術理解と行動力を要する。それにあの素早い動き。支隊が戦場の素人によって運用されているという観測は棄却されるべきだろう。
「司令。支隊はこうして出てきたのです。対支隊用に用意した戦力で対処してもよろしいのではないでしょうか?」
戦力分散しての各個撃破。一人の幕僚の提案にボルトンは考え込む。確かに、兵団は戦力的に優位であるのだ。姿を見せた支隊を用意していた戦力で追い回して、その間に本隊を叩いてもよい。主導権を取る。ただし敵がそれを想定していない可能性は低い。
ボルトンはちらりとヴィンセントの方を見た。当然、その点が指摘された。
「こちらの当初の方針をお忘れでしょうか。策士、策に溺れる。相手に勝ち筋があるとするならまさにその戦力分散にありましょう。今しがたの敵の戦術もそれです。希望的観測が破られたからと言って動揺する理由はありません。別個に戦力を分けず、まとまってことに当たればいいのです。状況は我々が圧倒的に優位です」
積極策を提案した幕僚は苦虫を噛み潰しながら引き下がった。このやり取りにポートマンは違和感を抱いていた。本質的な議論がされているようには思えない。
圧倒的な優位とはなんだ?それこそ希望的観測ではないか。戦力でこちらが勝っているというのは確かだがこちらはそれを全く活用していない。ヴィンセントの言う優位とは数字上の話でしかない。
実際のところヴィンセントがそのような強い言葉を投げたのは積極策が採用されることでこの戦闘の手柄が提案者に流れることを嫌っただけに思える。ボルトンもボルトンで深くは考えていないのではないか。話が拗れるのを嫌ってヴィンセントの流れを遮らなかっただけにも思える。あるいはヴィンセントに迎合したか。
ポートマンの考えは邪推の域を出ないものではあったがともかく兵団は当初の方針を維持した。ボルトンはそれで正しいのだと周りを鼓舞する。
「敵の策は今のところ何一つ実を結んでいない。こちらから動く必要はない。こちらの方針は間違ってはいないさ。じっくりやればいい」
結局のところ相手の策は空振りに終わった。この戦いは長引けば長引くほど余力のある兵団に有利になる。まだまだ戦いは始まったばかり。ボルトンは気を引き締め直すことを兵団に求め、部下たちも頷く。
兵団が防御を硬めたことでオシカの戦いは膠着状態に陥った。旅団本隊が仕掛け、支隊がその機動力で揺さぶりをかけようとする展開を幾度か繰り返すが戦況は動くかず消耗戦の様相を呈し始めた。この消耗は小細工を繰り出す旅団側が圧倒的に激しい。消耗しきった相手が逃げるにしても悪あがきをするにしてもその時が自分たちのターンになる。兵団は自分たちの方針に確信を抱きながら相手を蹴散らす機会を虎視眈々と伺い始めた。
しかしいくら待ち構えていようとも、その向く方向が間違っていては望む結末など得ようもない。




