その75 やつあたり
「目が覚めた?」
金髪の少女が視界の隅から俺に語りかける。
痛い、体中が痛い。だけれども生きている、死んだと思ったのに。
ー ー ー ー ー
ユージュの門でガイに会った。
ユージュの入り口の門番にガイに会いたいとお願いした。相手は冒険者村の門番だが取り次ぎもしている筈。とても恐いけど、必死にガイに会いたいとお願いした。エリアが姉だというのが効いたのか取り次いでくれる事になった。
出て来たガイは偉いのか、門番達に丁重にされていた。その他の冒険者達への口調でもガイは偉いのだと感じる。
俺達はガイに訴えた。一緒に帰ろう、国の奴らに会いたく無いなら3人で知らない町に行こう。今でもガイは大事な幼馴染だ!何度も訴えた。
でもすっかりガイは変わっていた。子供の頃、俺と一緒に遊んだガイはもういない。たまりかねてエリアが両親の死を告げたが動揺すらしない。
知ってる顔。いつも見ていたガイの顔。
同じガイなのに中身が別人のようだった。
当たり前に育った筈。
『人の物を盗ってはいけない』
『人を傷つけたりしてはいけない』
当たり前の事なのに。
今は冒険者を部下に持つユージュの幹部の1人。
どこで変わってしまったのだ。
俺とエリアの訴えなど聞いても居なかった。それどころか冒険者に誘って来た。
「俺達の理想郷の為に働くなら許してやる。ユージュの一員になるなら歓迎する」
何を許すと言うのだ。
こんな盗賊集団に入るなどご免だ!
「ならば、今直ぐ出て行け。
今直ぐ帰るなら見逃してやる。命が惜しいなら立ち去れ」
お前が俺達の所に帰って来るまで俺は動かんと言ったら、ガイは苦々しい顔をしたが、
「じゃあ、お別れだ」
と言って門の中に消えた。
それでも俺達はそこに立ったまま。
何度か大声で中に向かってガイを呼んだ。でも、返事は帰って来なかった。
暫くすると、中から何人か出て来た。でも、ガイじゃない。
「なんだ、まだ居るじゃねーか」
俺達を見に来たのか。
「しかたねーな。コッチに来い」
俺とエリアは迷ったが、付いて行く事にした。
ガイの同僚なんだろうか。何か策を与えてくれるんだろうか。それとも追い返す為の文句を言うのだろうか?ガイでは無い者に付いて行くのは心配だ。エリアを帰したいが1人にするのもマズい。後ろからエリアがついてくる。男達はユージュの外をどんどん歩く。どこに行くのだろう?
「この辺でいいか」
男はそう言った。
何の事だ?
なにかマズい。庇おうと思い後ろを向くとエリアが居ない!
どこだ!
「エリア!」
「あのねーちゃんにゃ用が有る。お前とはここでお別れだ」
声に距離が有る。いつの間にか冒険者の男が俺から離れているし、エリアも居ない!
離れた所から俺に話しかける冒険者。
「悪いが俺達は忙しいんだ。今夜は一仕事有るからな。まあ、お前にはその前の練習台になってもらう」
マズい!殺される。
それに『一仕事』って、なんだ?また誘拐にいくのか!
逃げないと!エリアを取り戻さないと!でも剣も無しにコイツらと戦うのは無理だ!
どこかに味方は?助けは?
一旦逃げて、エリアを探そう!
必死に走る、このままでは無駄死にだ!
ガイは助けてくれないのか!俺はあいつの幼馴染なのに殺されるのか?
ガイの知り合いだから、殺されないと思っていた。確かに危険な場所だけどガイに会えれば殺される事は無い。ガイは俺達を殺さない筈と思っていたのに!
暫く逃げて振り返ると、遠くから冒険者が肩に何か重そうな物を担いで俺を狙っていた。
どんな武器か解らないけど、俺を狙ってるのは判った!
まずい、更に必死に走る!
そして、ボンッ!と、音がしたあと身体に衝撃!
俺は激痛に包まれながら意識が消えた。
ーーーーーーーーーーー
「俺は・・・」
「さっきまで死んで居たんだよ。馬鹿だね、あんな所に行くなんてどうかしてるよ」
「死んで居た?」
でも生きている。
どういうことだ?何が有ったか何を見たか必死に思い出す。
そうだ、エリア!
「エリア!エリアはどこだ!」
探す!必死に周囲を探す!エリアが居ない!
どこに居るんだ!まさかあいつらに連れて行かれた?どうなったエリア!
体中痛いのも構わず必死に歩き回る。ここは林の中?どっちに行けばいいんだ!エリアはどこだ!
ユージュはどっちだ?
「あっ」
膝が崩れ落ちる、くそ、フラフラする。
「落ち着いて。今、生き返ったばかりなんだから、安静にして。あの子は奴らに連れて行かれたよ」
「君は誰だ?」
「私はジーナ。君はジンだよね。ジンはさっき冒険者に殺されたんだよ。私が生き返らせた。身体がズタズタで治すの大変だったんだから」
慌てて自分の身体を見る、触る。腕、足、胸、腹。服がぼろぼろだ。でも、生きている。服がこんなにぼろぼろと言う事はあの衝撃のせいか!たしかにあの時は死ぬと思う様な激痛だった。
「どうして俺の名前を。それに生き返らせるって?」
「君の名は聞こえたよ。私は遠くからでも聞こえるんだ。とても耳がいいんだよ。私は魔王の部下。君たちとは違う、サリュート人よりも強いし、死人を生き返らせるくらい出来るんだ。どんな酷いものでもというのは無理だけど。まあジンを生き返らせるのは大変だったよ」
黒い服を着る美しい少女は、自分を魔王の部下と言った。見た目の姿と違って年寄り臭い話し方をたまにする。俺を助けたと言う事は、魔王は味方なのか?
「魔王!頼む!エリアを助けてくれ!お願いだ、強いならエリアを助けてくれ!」
「私は魔王じゃなく、魔王の部下。町の皆は良いのかい?もうすぐ襲撃が始まるが?」
「ああ・・・」
思い出した、冒険者は今夜また襲撃すると言っていた。また何十人も攫われて、何十人も殺される。
きっと大変なことになる。ユージュの冒険者がサリュートの武器を手に入れたのは有名だ。俺を殺した武器、あの見た事の無い武器もそうなんだろう。今直ぐ町に知らせに行かないと!でもエリアが!
「今、迷ったね。あの娘か町か。でもね、私はこの国に肩入れしない事にしているんだ。もちろん、ユージュにも肩入れしない。サリュートにも肩入れしない。何もしない事にしてるんだ」
「じゃあ、どうして俺を助けた」
「君がジンだから。名前が『ジン』だったから。それだけ」
「俺の事を知っている?どこかで会った?」
「いや、今日初めてだよ。会ったのは今が初めて。助けたのは、ただ『ジン』という名前に思い入れが有ったから。だからあの娘に思い入れはないよ」
何を言ってるんだ。俺がジンだから?
そんなことよりエリアを助けてくれ・・・もしもの時は2人で死のうって、言っていた。でも、どんな死に方でもいい訳じゃない!酷い事をされてるかもしれない。ガイは助けてくれるのだろうか?いや、きっとガイは助けてはくれない。
「お願いだ。エリアを助けてくれ・・・」
魔王に願う。
少女は立ち上がり、有る方向を見た。じっと見続けている。
もう夕方だ。冷静になって俺も少女の見ている方を見る。方角的にそっちがユージュっぽい。
ずっと、そっちを見る。
暫くして少女が言った。
「連れてってやる」
少女に連れられて林の切れ間まで行く。その先は砂地で小さくユージュが見える。そのままユージュに行くと思いきや、更に横の林に向かう。足が重い。でも、さっきよりは歩ける。
どんどん進む。
少女は立ち止まる。
草の中、数歩先にエリアが居る。
周囲に服が散乱し、血まみれのエリア。
顔中乾いた涙の後。見開いた目。
人としても女としても踏みにじられたエリア。
痛かったに違いない。
恐かったに違いない。
悔しかったに違いない。
辛かったに違いない。
死にたく無かったに違いない。
「うあああああああああっ!」
エリアだった物を抱きしめる。
だらりとする腕と頭。胸に開いた大きな傷口。その他にも楽しむ為にに斬られた肌。
もしもの時は2人で死ぬつもりだった。でも、こんな死に方じゃない!
どうして冒険者は酷い事を平気で出来る!エリアはお前達のおもちゃじゃない!
ガイ!お前は悪魔だ!殺してやる!
どこかで、お前の心のどこかで良心が残ってると思ってたのに!
間違っていた。俺が間違ってた。
エリア、ご免、エリア。
「魔王!エリアを生き返らせてくれ!生き返らせてくれ!お願いだ!」
「魔王じゃないというのに。言っただろう、私はこの国に干渉しない。それに生き返らせたら死ぬ直前の恐怖と絶望も蘇るぞ、それがどんなに惨い事か」
ああ・・・・
そうか・・・
終わったんだ、俺もエリアも。
そうだ。俺も死んで居たんだ。2人で死んだんだ。
最悪の最期だったけど、2人で死んだんだ・・・・
「魔王よ。生き返らせてくれてありがとう。でも、もういいんだ。
エリアが居る所に俺も行くよ。願わくばガイと奴らに地獄を味あわせてやってくれ。俺はもう疲れたよ」
そう言って、腰のホルダーから安物のナイフを取り、自分の喉を掻き切った。
すまない魔王。折角生き返らせてくれたのに。
首の痛み。
これが俺の最期の生の記憶。
魔王は止めなかった。
「さよなら、ジン」
ジーナは助けなかった。
ジンを最初に助けたのも気まぐれだ。名前に思い入れが有ったからに過ぎない。
そもそも、事をずっと見ていた。持ち前の視力と聴覚と探知能力で。2人がユージュに辿り着く所から殺されるまで。
特に助けようとは思わない。2人は哀れだ、それは間違いない。だけれども、数百年のストビアの
記憶を持つジーナにしてみれば、よく有る事件のひとつ。ここで手を出したとしても何も解決はしない。そして、月日が経つとまた同じ様な事を繰り返す。ジーナの持つ記憶はストビアだけでなく記録に残る国の歴史全て。どの国も似た様な物だ、これと同じ。
イブとジーナが他国に関与しない、助けないのは意味が無いからだ。
何度も同じ様な事になる。戦争を永久排除するつもりだったストビアは皮肉にも軍事国家になった。
林に2人を埋葬したジーナ。
植えれば桜も咲くかもしれない。
「桜花の勇者伝説じゃあるまいし」
生き返ったのにまた自ら命を絶ったジン。
彼が勇者だったならば正に桜花の勇者伝説みたい。
「ここは桜花じゃないけどね」
歩くジーナ。
林を抜け、遮る物のない丘を往き、ユージュの門に向かう。
「さすがに色々気に入らないね」
丁度、町に行く途中の冒険者軍団と対峙する。
50人も居る。追加も出てくるんじゃない?
他国に関与しない。
今からするのはただの気まぐれ。
棒を肩に担ぐ少女を前にゲスな笑みを浮かべる冒険者。
エリアにしたようにするつもりか。
「おじさん達、あそぶ?」
剣を持ちながらもイヤラシい手つきで近寄る冒険者。背後にはイカツい武器を肩に担いで構える者も居る。もしもの時の事も考えているらしい。
ジーナが、ざんっ!と棒を地面に刺すと天から赤い光が落ちて来た!無音で真っ赤になり、直後ぼおっと、熱風が起こる!
嫌な臭いを残し一瞬で中心付近の20人以上の冒険者が消える、地面も燃えた!
何が起こったか混乱する男達。でも、暫くすると彼らは上から撃たれて、死体も残らなかったと言う事に気がついた。じゃあ、目の前の少女は?彼女の方からは飛んで来ない。益々混乱する!
「もひとついくよー!」
またジーナが棒を地面に刺す!
今度は左側辺りに居た冒険者十数人が、天からの光に撃たれて消えた。しかも自慢の強力な武器も蒸発して消え去ってしまった!
生き残りの冒険者がパニックになる。慌ててユージュの門に戻る!命からがら逃げた冒険者達は門を閉めユージュ場内に籠る。そんなことしても逃げられないというのに。
高い塀を飛び越すジーナ。
楽々と侵入し、歩く。
悪そうなやつがうじゃうじゃ居る。
数人がジーナを見て一目散に逃げ出す。だが大部分は舐めた態度で向かって来る。
そのうちの1人がジーナに向かって何かを構えた!ばんっ!という破裂音。だが、いつの間にかその男の脇にジーナは居た。
「撃つのが判ってれば避けるのは簡単なんだよ」
信じられない様な物を見て強張った顔の男。男からジーナは武器を力任せに奪い取り、男の胸に数発撃った。ばんばんばん!と鳴り響く音!血を噴いて動かなくなる。
「この銃はそんなひょろひょろの手じゃマトモに撃てないよ」
残りの弾丸をそこらの冒険者にお見舞いする。
筋力が有るサリュート人用の銃は人間には強過ぎる。ここの冒険者には勿体ない。
そしてもう一発、天からの光をお見舞いする。数人消えた。
「ガイはどこだ!」
ジーナが怒鳴る!
剣を構えているのに怯えている冒険者達。ガイと言う名に皆ヒソヒソ話す。
聞いていたのか待っていたのか、人を分けながら出て来る偉そうな冒険者。覚えている、ガイだな。
「小娘!生憎だが、そこまでだ!」
ガイの周りには冒険者じゃない若者達。皆手を縛られている。人質か。
この男は相当偉いらしい。銃を持ち、下っ端に人質を引かせ、こんな状況でもゲスな笑いを浮かべている。
「どんなに強くても人質を取られれば無力だ!残念だな、ここまでだ」
如何にも悪人風な事を言うガイ。
「腐ってるな」
「小娘。人質の救出で救世主気取りか?」
「はあ?私はただお前が気に入らないだけだよ。ジンの恨みだ」
ジーナにとってエリアは重要ではない。
「そうか、ジンは死んだか。所詮は弱い者の末路だ」
「気に入らないな。じゃあ、ズィーズン使うか」
ジーナがガイの右側に何かを投げた。ばあんっ!と何かが弾ける。途端に倒れるその周辺の人間。冒険者も人質も皆倒れる。倒れた者はぴくりとも動かない。しかも大半は目も開いたまま。
「もひとついくよー」
今度はガイの右側にズィーズンと呼ばれた物を投げる!同じようにばぁんと鳴って、皆崩れ落ちる。
動揺するガイ。周りの男達も動揺している。
銃も通用しない。天から赤い光で撃たれる。何か投げられればそのまま死ぬ。
しかも人質ごと構わず攻撃して来る。この娘は狂っている!
かつて冒険者を恐怖のどん底に落とした勇者が居た。
ガイが叫ぶ。
「お前はイブか!」
「私はジーナ。イブの娘だ!」
『イブの娘』それだけで恐怖するには充分だ。
修羅の顔で歩くジーナに、後ずさる冒険者達。上からも撃たれる、逃げ場が無い!
たまに赤い光が場内のあちこちに落ちる。建物すら消え去る。屋根の下でも逃げられない、もう逃げ場は無い!
更にジーナが前に出る。
「ガイ!出てこい。殴ってやる」
「うああああああああ!」
小物のように逃げ出すガイ!
追うジーナ。
そして俊足であっという間にガイを追いこし、愛用の棒で正面からフルスイング!
ガイの頭がちぎれて飛んだ。
その場に崩れ落ちる首無し。
呆然と見つめる冒険者達。
冒険者に向くジーナ。
途端に一斉に逃げ出す冒険者達。悲鳴とも怒号とも判らない声をあげて逃げる。人質は置いて行かれた。人質を持っている方が危険だと思ったらしい。
冒険者をまだ半分も殺してない。でも、ジーナは満足していた。気に入らないガイをぶっ飛ばせたから。あとはどうでもいい。
「後はユリに残しておこう」
すたすたと歩くジーナ。
さっきズィーズンで殺した人達の所に行く、綺麗な死体ばかり。足下の死んだ学生の胸に棒を当てる。途端にびくんと生き返る。蘇生だ。次々と学生達の胸に棒を当てると皆生き返る。すぐに歩けはしないが生きている。冒険者はそのまま。
殺されもせず、放り出されっぱなしだった学生達に、
「勇士隊のユリに助けを求めろ。直ぐだ!」
ジーナが強く言う。
これでいい。
ジーナは少し後悔していた。
安易に勇者に助けてもらう人々は成長しない。
本当の絶望を繰り返さないと反省はしない。一度の絶望なら想い出になるだけだ。
手を出すのはこれきりにしよう。そう思った。




