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汚れた勇者  作者: 汚れた座布団
第五章
23/27

魔族領侵入

◆◆◆



「魔族っていうのは、一般的にはさ、身体はデカいし。理力、ああもう魔力でいいか、何せ魔族っていうぐらいだしな。理族じゃ意味分かんないし、それどっちかって言うと俺のことじゃね?

 まあ、話を戻すと魔力に対する適正も高いだろ? これは、なぜなのか。一体どういった進化を辿ったのかって思ったんだよ」


「なるほど、ところでアキオよ」


「だいたい魔族っていうのは、北半球では大陸の北方にいるだろ? 日照時間も短いし、だいたいこの世界に存在する作物の、耕作限界緯度をブッチぎって北に住む魔族もいるらしいしな。とにかくスゲー過酷な環境下で生活しているわけだよ」


「なるほど、ところでアキオよ」


「この大陸の国々を回ってみて分かったんだが、だいたい人間は赤道近辺に人口が集中している。通常は生存競争に勝ったものが、一番条件の良い場所を取っていくから。赤道付近に居住する民族は、かつて生存競争に勝った民族の末裔であるはずなんだよ。

 そこで俺の説では、魔族というものは今の人間との生存競争に負けた遠い過去の人間が、過酷な環境に適応するよう進化した一つの種族だと思うんだよな」


「ア、アキオ、何を言ってるんだ。奴らは人肉を食らい、通った後には草一本生えない死の大地になってしまうと言われる、凶悪な連中なんだぞ!」


「だからねー、それってちゃんと見たの? 過酷な土地でも必須栄養素を補給するために、生肉を摂取するようになった、とかに尾ひれ付いただけじゃねえの。”ああ、豚肉やばい。超ウメー”とか思ってるよ、きっと。それに、おそらく魔族と人間じゃ遺伝子が近すぎて、魔族が人間を常食してるなら狂牛病とかが流行ってるはずだぞ。

 だいたい通った後には草一本残らないってさ。だったら魔族領との間に広がる樹海や山林は、ハゲ山になってないとおかしいよね。通ったところが草一本残らないんじゃなくて、もともと草一本生えてない場所に住んでるってだけじゃないの」


「あ、いや……そうなのか?」


「だいたい、魔族と見たら、やれ殺せとか、皆殺しだのって、完全に民族浄化じゃねえか。まったく、どっちが凶悪なんだか分かんねえぞ。

 魔族が攻めて来るのは、しょうがない問題なんだよ。俺の元居た世界でもね。日照時間の短い寒冷地の方がデカくて強い動物が居るし。人間も一緒。古代文明なんかは、赤道付近に始まるんだけど。ある程度時代が経過すると、温帯かそれよりも寒冷地域にもっと先進的な文明が勃興してもっと条件の良い土地、つまり古代文明のあったあたりの国を攻めるもんなの」


「なるほど……魔族の起源については分かったんだが、ところでアキオよ」


「なんだ?」


「後ろのアレをどうにかする方法は考え付いたか?」


 俺は後ろを確認すると、紫の肌に四本腕を振り回しながら迫る魔族のオッサンと、それを先頭にする魔族の部隊が見えた。

 なんかスゲー叫びながら、追ってくるんだけど。てゆうか、こっちは馬車を引いてるとはいえ、改造馬とほぼ同じ速度で走ってるぞ。


「いくら俺でも四本腕に進化した理由は思いつかないな。見た感じあいつ一人だけだから、遺伝子異常じゃねえか? 意外と弱いかもしれないぞ。

 肌は何故か全員紫、デ〇ラー軍団だな。なんで北に行くと紫になるんだ? 魔力の何らかの作用なのか? この世界のホッキョクグマが何色なのかスゲー気になるんだが」


「弱そうならば戦ってみるか?」


「いや、免疫力が弱いとか、生殖能力が弱いとか、あると思うんだが。あの筋肉を見るにケンカは強そうだな。てゆうか、仮にあいつだけ弱くてもダメじゃん。増えに増えて、もう二百人以上居るんじゃないか?」


「おそらく287人。加えて西から合流する部隊がいるようだ。少々離れているため分かり辛いが、これがおよそ50人だ」


「絶望的だな。俺が現実逃避に、変なことを考えるのも無理ないっすよ、インヴァイ先輩」


「そもそも魔族に発見されずに樹海を抜けられる予定ではなかったのか」


「いや、樹海は無事に抜けたじゃん。しかし、その後の紅芋がまずかったな」


「あれは無いだろうに。確かに肌は紫っぽくなりはしたが」


「いけると思ったんだけどな。てゆうか、そういうお前だって”大丈夫かもしれない”って言ったじゃん」


「いや、あれは作戦そのものよりも、アキオの話術が巧みでな」


「やっぱり夜中に思い付いたことって、たいていダメだな。行けると思ったんだけどな”紅芋ペーストを用いた魔族擬態特殊メイク作戦”」


「雨に濡れて、まだら模様になっていたぞ」


「そうなんだよ、被膜強度が足りなかったんだよ。食品由来の成分しか入ってないから、誤って口に入ってしまっても安心だし。画期的な作戦だと思ったんだけどな」


「これ以上逃げ回ってもジリ貧ではないか。腹をくくって戦うべきではないか?」


「いやいやいや、無理、絶対無理、相手が30人でも厳しいって」


「アキオよ。歴代の勇者であれば、この程度の修羅場は乗り切れたはずだ。我の力が封じられているとはいえ、この程度乗り切れずにどうする」


「なんかその、いつかは伝説の剣としての力を取り戻せそうな表現、やめてくんない。もう折れちゃってるからね。お前もう一生、伝説のバイブだからね」


「あーあーあーっ! いいだろうが、夢ぐらい見ても!」


「だいたい俺の居た世界で、勇者といえば。国道を三輪車で暴走するとか、泥水を飲むとか、学校の便所で絶対に流れない巨大ウ〇コを流してくるとか、女子便所に入って神秘の箱からお宝を回収してくるとか、そんな感じだぞ。あんな大軍に勝てるわけないじゃんか」


「えっ? 何それ。我の知る勇者と全然違うんだが」


「他人のできないことを躊躇せずやる、それが勇者ってもんだろ」


「ちょっ、えっ? おぬし勇者なんじゃろ? 我のこと抜いたし。街の住人にも勇者って言われてたし。何か勇者的な実績があって、呼ばれているんじゃろ?」


「あー、それなー。なんか風俗行くたびに言われるんだよなー。てゆうか、エルフのところと騎士の国では、お前も居たじゃん。

 てゆうか俺、お前のこと抜いてないからね。折っただけだし」


「ええええっ!? いやいやいや、アキオは強いじゃないか。マッドボアやロバストベアーを一刀両断していたじゃないか! 歴代勇者の中でも随一の技量だと感心していたんだぞ。伝説の剣と同じことを生身でやるなんて、今まで見たことがなかったわ」


「まあ、しっかり修行したからな。しかし、アレは消耗が激しくて、連発できないぞ」


「なんか、嫌な予感がしてきたぞ。アキオよ、おぬしレベルはいくつだ?」


「……れべる?」


「…………」
















「アキオーっ!! お前、なんでレベル8で魔王倒しに行くんだよっ!!! 自殺行為だよっ!! てゆうか、なんでレベル8でマッドボアやロバストベアーに圧勝なんだよ!! 普通勝てないよっ! ドラゴンと戦ったとか言ってたじゃんか!」


「知らねーよ! なんだよ”ステータスオープン”って! そんなのあるなら初めから言えよ!!

 てゆうか、ドラゴンとは戦ってないよ! 牙と腹皮は、友達のドラゴンからもらったの!」


「まさか知らないとは思わんだろうが!! 普通、冒険者ギルドとかで習うだろ!」


「門前払い食らって、それから行ってねえよ!!」


「なんじゃそりゃっ!?」


「だいたいなんで動物を殺したら強くなれるんだよ、意味不明だわ!! そんなんじゃ動物見かけるたびにブッ殺すのか? 勇者というより、サイコパスじゃねえか!

 襲われた時と、自分で食べる分以外は普通殺さねえだろ!」


「えええぇ……」


「俺はね、動物を殺したら、可食部分だけもらって、あとは埋葬してるの。てゆうか、お前だって見てただろうが。お前さ、俺が動物を埋めて手を合わせてた時に、何考えてたわけ?」


「いや、なんか、特殊な儀式かと」


「まあ、特殊といえば特殊な儀式かもしれないけど。あのね、俺の住んでた国では、自分の命をつなぐために頂いた、動物の命に対して感謝を捧げる習慣があるの。動物を虐殺して、体内の魔石だけ取り出したら、亡骸をそのまま放置して”ウハハハッ! 楽勝だったぜ!”とか言ってる、ボーケンシャとかいう野蛮人とは違うの!!

 農村近くの害獣駆除ならともかく、滅多に人が踏み入らない森の奥まで行って、動物の素材集めするとか。象牙やゴリラの剥製目当ての密猟者と変わらねえじゃねえかっ!!」


「しかし、アキオよ。敵を殺さずして、どうやってレベルを上げるのだ。今のお前で、どうやって魔王を倒して戦争を止めるというのだ?」


「うるせえっ! 己の信念を曲げ、虐殺を行い手に入れた強さが、本当の強さなわけないだろうがっ! てゆうか俺、商人兼トレジャーハンターだからね。そんな、ジェノサイドの上に建つ強さなんか必要ないからね」


「分かった。そこまで言うならレベルに関しては、良しとしよう。他の能力値についてはどうだ? 我には、アキオがレベル8なりの強さであるとは、とても思えないのだが。

 ちなみに、一般的な成人男性の能力値は、概ね10前後のはずだ」


「えーと、ちょっと待てよ。

 おー、スゲーな俺。まずSTRってやつが15もあるぞ」


「弱っ!」


「えっ! いやいや、一般男性の5割増しだぜっ!? どう考えても弱くないだろ」


「弱過ぎるわっ! 一端の冒険者でも30前後で、騎士団の要職になると50程度はあるぞ。

 ほ、他はっ! 他はどうなってるんだ!?」


「VITが12、DEXが32、AGIが18、INTが26、LUKが8だな」


「え、MPは? MPは、どうなっている?」


「30」


「低っ! えっ、それでどうやって、あんな技使ってたの!? 普通は勇者って、どんなに未熟な状態でも全部100以上あるぞっ!!」


「ふん、こんな数字で、俺を語って欲しくないね。だいたい商人仲間のジョナさんなんか俺よりずっと弱いのに、騎士団相手に渡り合ってただろ? 人間ていうのはね、数字に表れるような能力だけで優劣が決まるものじゃないんだよ。てゆうか学校教育の問題点みたいなことを、なんで異世界に来てまで説明しないといけないんだよ」


「いやいやいや、そういう問題じゃないから。

 えっ? アキオ、おぬし異世界から来たんだろ? 神に会って、力を授かったと言っただろ」


「ああ、そんなこともあったけど。あいつ、どーにも胡散臭いんだよね。偽物だったんじゃね? なんか、友達にも被害者いるし」


「えええぇ……神の偽物って何? そんなものがありえるのか。

 というか、なぜ今まで気付かなかったのか。STR15は、普通気付くだろ。野党と切り結んだこともあったろうに」


「いや、俺切り結んだこと無いよ。俺の光剣だと相手の剣ごと切っちゃうからね」


「だから、なんでMP30でそれができるんだ」


「いや、だから、それきっと関係無いんだって。

 そもそも俺は、商人兼トレジャーハンターって言ってるでしょ。そんなに強くならなくても困んないじゃないか」


「今まさに困ってる最中だろうがっ!!」


「そうだなっ!!」

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