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汚れた勇者  作者: 汚れた座布団
第五章
22/27

決意

「船が出ないだとっ!」


「すまないね、お兄さん。魔族の侵攻が海上にも影響してるらしくてねえ。近海で漁をするだけならともかく、外洋に出るのは禁止されてるんだよ」


「どうする、アキオ。別の港から迂回するか?」


「そうだな、この星も球体だろうから、魔族の領域を避けるように反対方向から回り込んでだな、ってオイッ! できるかっ、そんなことっ!

 くそー、船を出してくれそうな港は、ここが最後なんだが。まいったな」


 騎士の国を出た俺は、また行商人兼業トレジャーハンターの旅へと戻り、世界各地を回っている。ちなみに勲(いさお)を弔ったあとは、レースの賞金を利用してまた馬を用意した。今度は戦争の前線付近まで向かうことも念頭において、純粋な走力よりも戦闘も含めたトータルバランスを重視している。ちなみに名前は巌(いわお)とした。


 より大型で、心肺機能も優秀だが、やはり体の大きさに対する心肺機能の容量で見ると、勲(いさお)ほどの過給耐性は期待できないだろうな。さらに旋回性能も勲(いさお)に劣るが、その分最高速で優れており。気性は荒いが、大型の魔物にも動じない胆力も持っている。荷馬車を引いた場合の積載力は、過給時は勲(いさお)に劣り、無過給時には逆に優れるといった感じだ。


 話を戻すと、行商兼業トレジャーハンターの旅に戻った俺は、さっそく重大な情報を得ることになった。この大陸からおよそ100キロほど離れた海上に浮かぶ孤島に、面白いものがあるらしい。しかし、魔族の侵攻が本格化してきた結果、海上に出没する魔物が増加し、しかも狂暴化しているという。さらに時折、前線へ物資を運ぶ輸送船や、大型商船なんかが、魔族に襲撃されることもあるようだ。


 俺は、沿岸部を移動しながら、主要な港で船が出せないか聞いて回っているのだが。どうにも色よい返事を聞くことができなかった。


「まいったな、これ以上南へ行くと目的地から離れすぎるしな。北側で行ってない港となると、ほぼ最前線になっちまうぞ」


「アキオよ、いっそ予定を変更するか?」


「ばかやろー、俺は逃げない、そしてチャンスは逃がさねえ」


 どうする? 泳ぐ? 船を作る? いやいや、あまりにも現実的じゃない。何かないか、抜け道的なもの……抜け道?


「……分かった。インヴァイ、俺は戦争を止めるぞ」






◆◆◆






 ここは、最前線の村落。


 魔王の下に結束した魔族達は、破竹の勢いで前線を押し上げた。長らく緩衝地帯として機能していた、大陸を東西に分断する巨大な樹海と山脈から、ある日突然、魔の眷属達が溢れ出し、人々の集落を襲いだしたのだ。




 墨で塗りつぶしたような暗闇の中に、炎の光に照らされた空間があった。はち切れんばかりの筋肉に身を包んだ一人の男が、炎を見つめながら肉のカタマリにかぶりつく。口の端から零れ落ちる血をそのままに生肉のカタマリを貪る、異様な食事風景がそこにあった。


「隊長、人間どもの拘束を完了しました」


 その男の前には屈強な男達が並び、さながら規律ある軍隊のようである。


「反抗的な男は、両手を切り落とし、両目を抉り出せ。それ以外の男は、全員利き手を切り落とすんだ」


 しかし、その規律は人間としてのものではなかった。男の皮膚は紫色、そして人間の骨格としてはありえないことに、その両肩には余分に二本、計四本の腕が伸びていた。


 男の命令を聞いた者は、踵を返し闇に消える。異形の軍人達は、無感情に、さながら家畜を扱うような手際でそれを実行することができた。


 男は、足元の肉塊を二本の腕で押さえつけ、もう二本の腕で端を掴み、千切り取る。滴る血を気にもせず、それを口に運んだ。


「食い足りないな、次はもっと若い雌を連れてこい」


 男が指示を出すと、闇の中から女の声が聞こえてきた。


「おねがいします、おねがいします。この子だけは堪忍してください。おねがいします」


 鈍い音が聞こえた。その後には、かすかに女のすすり泣く声だけが響いていた。


「隊長、連れてきました」


「おや、これは旨そうな子豚ちゃんだ。フフフ、恐怖で声も出ないのかな」


 男は、ゆっくりと近づいてくる。小さな影は、恐怖のあまりにただ声を発することなく、小刻みに震えているだけだ。


 ふと、炎に照らされた何かが目に入ってしまう。その変わり果てた姿に、最初それが何なのか気付くことがなかったが。男が立ち上がったことで、全体が目に入ってしまった。


 それが自分の親であることを理解した瞬間、男の手が振り下ろされる。自らの心臓を貫く腕を見ながら、その短い生涯に幕を下ろした。













「やっぱり、人間の育てた豚は、超旨いな」


「そうっすね、もっと持って来ましょうか?」


「いや、これ以上奪うとさすがにマズイんじゃね。これだって、もう勘弁してくれって、酪農家のおばちゃん泣いてたしな」


「大丈夫っすよ。王都では、何万人もの人間がいるらしいっすよ。こんな端の方に住んでる人間が、何人餓死しようが平気ですって」


「でもさ、やっぱり、すぐに王都まで侵攻するのは、無理だと思うんだよ」


「まあ、大陸全土から兵力を結集してるらしいっすから。この国の王都を落とすのも、何年か必要じゃないっすかね」


「お前よ、その間豚肉食えなくなっちゃうんだぞ」


「……大変じゃないっすかっ!」


「ちゃんと、交替の部隊に申し送っとかねえとな。ああ、もう内地に戻らなきゃいけないのか」


「憂鬱っすね。生きたまま、豚持って帰れないっすかね」


「いや、無理だよ。きっと寒くて死んじゃうよ。そんなことになったら俺、きっと立ち直れないからね。見ろよこの可愛らしい顔、たぶんすごい神経質で綺麗好きだぜ。俺なんて、殺すとき変なテンションになっちゃったもん」


「あー、なんか、変なこと口走ってましたもんね」


「やっぱり、酪農家だけは腕切るのやめとこうか?」


「そうっすね」

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