戦士の館
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「……ん? なんだ、どこだここ」
「目が覚めたようだな」
いつの間にか意識を失ったのか。周囲を見渡すと窓のない石造りの部屋、その壁に鎖で両手足をつながれているようだ。蝋燭の灯りが部屋を照らし、所々には血痕と思われる黒い染みが見られる。
そして目の前には身長190センチを超え、鍛え上げた筋肉の鎧に身を包んだ人物が立っていた。腰周りだけを隠し、体中には傷が目立つ。そしてその表情は、騎士の用いるような顔全体を覆う鉄兜に隠れ、窺い知ることができなかった。
「いったいここは、どこなんだ?」
その手には鞭が持たれ。部屋中には拷問器具としか見えない物が並んでいた。
「それは、お前が知ったところでどうしようもないことだ」
そして、その台詞から自分に対して、非常に友好的でないということだけは理解できた。
バシンッ!
「一つだけ教えてやろう」
バシンッ!
そいつは、鞭を鳴らしながら、ゆっくりと近づいて
「お前は、やってはいけないことをした。それで怒ったやつがいた。それだけだ」
目前に迫り、鞭を振りかぶる。
「クソッ! どういうことだ!? やめろ、離せ! うぉっ!
ウォオオオオァァアアアアアアアァァーーーーーーーーッ!!」
「ふーーーーっ」
俺は、ベッドの上で吐き出したタバコの煙を見つめながら、隣に寝そべる人物に声をかける。
「最高だったぜ。まさか異世界に来て、逆駅弁の夢が叶うとは思わなかった」
俺の隣には、鍛え上げた筋肉の鎧に身を包み、身長190センチを超え、体中に傷が目立ち、騎士の用いるような顔全体を覆う鉄兜を被った女性が寝そべっていた。
「変わった男だねぇ。ここに来る男どもは、女に暴力を振るって発散する奴ばっかりだっていうのに。今時指名無しで入ったうえに、変な小芝居を要求して、あたしの責めに耐えるなんてね」
ちなみに逆駅弁とは、通常の駅弁体位の男女を入れ替えた体位である。俺は常々、この逆駅弁を体験したいと思っていたのだが。俺はそこそこガッチリした体形しており、相手がよほど身体を鍛えたアスリートでもない限り非常に難しいと思っていた。
しかしこの女性は俺のことを軽々と持ち上げながら、逆駅弁で振り回すという大技をやってのけたのだ。今だかつてこれほどのイイ女がいただろうか、いや居ない! もう惚れそうだ。さすが騎士の国、そのなかでも鍛え抜かれたエリートだけがそこで働くことを許されるという風俗店、戦士の館。看板に偽り無しとは、このことだ。
「本当に最高だ。まるで夢の中にいるようだ」
「あんた、あたしみたいな女を煽てても何も出ないよ。こんな騎士崩れをあんまり褒めるんじゃないよ」
「ほう、騎士だったのか。どうりで堂に入った演技だ。その兜も”組織にたて突いた冒険者、お仕置き編”によくマッチしていた。
ここで働いて長いのかい?」
「そうね、もう5年かな。ほら、あたしこんな身体だろ。へたな男よりも丈夫だから、気が付いたらあたしよりも長い娘はほとんど居なくなっちゃったわね。
下手な男より力が強くて、剣技なんかも頑張っちゃったもんだからさ。騎士やってたときは、周りにも随分嫌われてたみたいで。ある時、闇討ちっていうのかね? 路地を歩いてたら、後ろからズドン。その上ご丁寧にこれさ」
彼女はそう言うと、右手の掌をこちらへ向けた。そこには、酷過ぎる暴力の痕が見て取れる。それぞれの指はちぐはぐな方向へ向き、骨格が大きく歪んでいる。
「まともに剣が握れなくてね、これで諦めがついたよ。一応、黒幕の目星はついてるんだけどね、運の悪いことに子爵様でさ。ヒラの騎士には手が出なくてさ。その子爵様も風の噂では、どこか遠くに異動になったようだし。
あれ……なんだい、あたしのために泣いてくれるのかい?」
「うううぅ、君の……技も体も心も、全てが美しく愛おしい」
「やだね、まったく。からかうんじゃないよ。こんな筋肉ダルマの傷だらけの体でさ、顔も人様に見せられる状態じゃないから、こんな被り物してるし。気持ち悪いだの、不気味だのしか言われたことないよ。それを激しく責めてくれだの、今度は優しく抱いてやるだの、挙句の果てに美しいなんて。
まったく、ほんとに、からかうんじゃないよ」
兜に隠されて、見えるはずのない涙が俺には見えた。
「ちょっと待ってろ」
俺は部屋の端に置いてある鞄から、とっておきを探す。
「これだーっ!」
「な、なんだいこれは、信じられないほどの魔力。まさか竜の素材かい!? それにこの禍々しい形は……」
「友達のドラゴンに譲り受けた素材を、ドワーフの手により加工し、エルフの秘術によって理力を込めた、正真正銘のリーサルウェポン。
ドラゴンペニスバンド、略して”ペニバン”だーっ!」
「ぺ、ペニヴァーン、これが……
いや、意味が分からないよ。なんでわざわざ、こんな素材で作ったんだい」
「ふん、甘いな。理力に目覚めた俺の肛門括約筋は、鋼鉄のディルドを捩じ切るぞ。並みの素材じゃあ俺の前立腺には届かないぜ」
「お、恐ろしい。なんて男だい」
「さらにこいつは、エルフに刻んでもらった術式により様々なギミックが仕込んでおり、理力の波動が前立腺を直撃、まさに0.1秒でエクスタシー!
さあ、こいつを装着して、上流階級の連中を征服してやれっ!!」
「嬉しいよ、アキオ。あたしは、あたしなんかに……ううぅ」
「喜ぶのはまだ早い。さあ、俺の体で特訓だ! 夢は終わらないぜ」




