Bar pomegranate
打ち合わせから、数日後。
ついに稽古場入りの日がやって来た。
久しぶりに台詞が多い役なので、脚本家兼役者でもあるあたしは、他の劇団メンバーより、早く稽古場入りをしていた。
「それにしても、久しぶりに使うなー。この稽古場も。」
久しぶりに、青二才の役者が集まり、舞台をやるとなった時に
座長の畑さんは、
鏡夜さんや千重子姐さんが、俳優として売れる前に劇団で使っていた、この場所の確保だけは、人一倍張り切っていた。
座長が、半月程余分に借りていたお陰で、
締め切り前に作業スペース的な所に、笑顔の克也さんに、閉じ込められかけたのも…良い思い出と言うことに、しておく。
そんなことを考えてると、稽古場の入り口のドアが開いた。
「よっ。久しぶりだな、美月。」
「久しぶり。佳雄くん。」
佳雄くんは、あたしより年上だけどイジられキャラだからか、劇団の年下にタメ語を使われる。
「美月っ!おまえっやってくれたな!」
「どうしたの?佳雄くん?なんか有った??」
「『なんか有った??』じゃないよ!! なんで、おれ女装キャラなんだよ!!」
「だってさ、昔舞台でやった女装
可愛かったし、佳雄くんなら許してくれるかなーって。」
「『許してくれるかなーって』問題じゃないからな!また、友達からイジられるだろ!」
「じゃあ、舞台誘わなきゃいいじゃん。」
「そんなの、出来るワケないだろ…。 並樹さんに、西尾さんがテレビで告知するらしいし、ゲネプロ後の会見もやるんだろ?
…むしろチケットせびられてるんだよ。」
「佳雄くん、御苦労様。会見、あたしがセッティングしたワケじゃないし。300人規模の小屋で、3回公演だから…ねぇ。」
「どうせ、久しぶりにやるんだから満席にするのは、悪いことじゃないだろ??」
いつの間にか、座長が稽古場に来ていた。
「おはようございます。座長。」
あたしと佳雄くんが、挨拶した先に居るのは
うちの劇団 青二才の座長 畑友雅さん。
この人、芝居好きで性格はおおらか。
「それにしても、鏡夜と千重子にしてやられたな。演劇雑誌のインタビューは、全部俺任せだよ。」ため息をついた畑さんは、だいぶ疲れているらしい。
「だから美月、お前と竹林君の2人にも、仕事振っておいたぞ。」
「へっ!?それ、初耳ですけど??」
「そうだろうな。俺も今初めて言ったし。」
「座長から振られた仕事は、しっかりこなせよ。脚本家の臼倉センセイ。」
この嫌味な言い方をするのは、青二才では、克也さんしかいない。
「…なんで、劇団のマネージメント克也さんがやってるんだろ…怖すぎるんだけど。」
「…臼倉。お前何か言ったか?」
「言ってませんよー。ねっ!佳雄くん!」
「そーそー。美月はなーんも、言ってないです。」
「相変わらず、五月蝿いな。阿呆ども2人は。」
「まぁ。元気が取り柄だからね。あの2人。」
劇団 青二才きって有名俳優の鏡夜さんと千重子さんが、2人揃ってやってきた。
「あっ!鏡夜さん千重子さんおはようございます。」
「おぉ。臼倉、お前の脚本は、相変わらずだな。」
「あれは、座長のご要望にお応えして、あの台詞量ですので、決してあたしだけのせいではないので。」
「アンタ、あんな性格のキャラクター演じさせて万が一ウチの好感度落ちたら、責任取ってくれるか?美月?」
「この役位で、女優 西尾千重子さんの好感度は、落ちませんよ。」
「やったら、えぇねんけど。美月アンタ、芝居はアカンねんから、はよ脚本家一本でやってったらえぇと、思うんやけど??」
「このやり取りも、このメンツで集まると、相変わらずだね。…ところで竹林君は?」
「もうすぐ来るはず、なんですけど…」
と、あたしが言ったちょうどのタイミングで、稽古場のドアが開いた。
「すみませんっー。遅れました。」そこには、若干体調の悪そうな、
竹さんこと、team luckybookの竹林健太郎さんが立っている。
「竹さん!遅刻ですよ。」
「美月、お前のせいや!昨日の飲み屋で、俺が潰れるまで飲ませんくても、良かったやん!」
「だって、飲みに行こうって誘ったの竹さんじゃないですか?」
「はいはい。久しぶりに会って積もる話もあるとは、思うが…稽古始めるぞー。」
こういう時、
座長がおおらかな人で良かった。と、改めて思う。
「はい。よろしくお願いします。」
そう、みんなが口々に言って
【舞台 Bar pomegranate】の稽古はスタートした。
END…。




