3年
ユウがBarを辞めたあの日から、3年。
俺も含め、
Barは変わらないし、
あの空気感はすっかり、俺の居場所になっている。
カズヒコさんは、いつの間にかpomegranateのオーナー代行を俺に任せ、ブルーセカンドの方も3年前よりは、顔を出さなくなった。
劇団でも、【副座長】なんて、肩書きが出来たのもあり、いつまでもMix_1と関わらない事はできない。と思っていた。
3年間で全国的な有名劇団となった、
Mix_1は普段劇団のメンバーで、役者達エキストラまでを、カバーするらしい。
でも、今回のドラマでは、外部の劇団や俳優も出すという試みをしているらしく、
丁寧かつ業務的な【各劇団座長・副座長様宛
Mix_1製作ドラマのエキストラ募集のお知らせ】というメールがMix_1サイドから、劇団のメールフォームに届いていた。
そのメールには、
【脚本・演出はNebelとなっており、皆様のお力をお貸し頂きより良い作品に、仕上げたいと思っております。】と書いてあった。
このメールを見てすぐ、カズヒコさんに「俺に行かせてください!」と電話をしていた。
経験を積ませてやりたい劇団の若手も、沢山居るがどうしても、ここは俺が行かなきゃならない。と思ってしまった。
この話を店で話したことがあり、トシユキさんは
「ケジメ付けに行くなんて、お前らしいな、胸はって行ってこい。仕事はオーナー代行のサブである、オレに任せろよ。」と言われ、
マキさんとユキコさんにも背中を押され、今ドラマの撮影現場に来ている。
このドラマは、ラブストーリーで俺が出るシーンは、Barで主人公にヒロインが告白をする前の食事のシーンで、
もちろん台詞はない。いわゆる、その他大勢のお客さんの役だ。
有り難いことに、カメラにはギリキリ、映る場所の位置みたいで、スタッフさんがこちらにも、細かな指示をしてくれる。(後ろ姿のみ映るらしい)
それにしても、バーテンダー役のエキストラがリハーサル中ずっと、自分が目立とうとする動きをしている。
内心俺は、「俺の方が上手くできるな。」と思っていた矢先、
「なぁ、バーテン役のエキストラさん。アンタさぁ。ウチの脚本ちゃんと読んでへんやろ。自分ばっかり目立とうとして、主役食う演技されるの、めっちゃ困るねんけど!」と、イライラした口調のユウが立っていた。
「ユウ、ちょっとは我慢せーよ。それに、そういうのは演出兼監督のオレの仕事やん。まぁ、えぇけど。」と、アキラさんが諦めたように、喋りかけた。
Nebelの中でも、ユウとアキラさんの2人は、ヒットメーカーコンビと言われている。
相変わらず、ユウはメディアへの顔出し出演は、していないらしい。
「残念やけど、脚本家がお気に召さへん様やから、他の人と変わって貰うしか無いわ。残念やったな。
背格好的に、他のエキストラでカバーするから。」と、アキラさんは、テキパキと他のスタッフに指示を出しはじめた。
「後ろ姿しか映ってへんし、背格好もおんなじ位やから、カウンターに座ってるスーツのエキストラさん。バーテンダー役変わってくれへん??」と、アキラさんが俺を指名した。
「えっ!?」と、俺がアキラさんの方を向くと
「嫌やったら、えぇねんけど?台詞一言だけあるし、どうする?」と、アキラさんはニコリと笑った。
「いいんですか??俺で。」と俺が聞くと
「じゃあ、決まりやな。衣装さん。スーツのエキストラさんと、バーテンのエキストラさんの衣装チェンジさせて。」と、衣装さんに更衣室まで連れて行かれ、
俺的には、すっかり着なれたバーテンダーの衣装に袖を通した。
その後は、無事にその撮影シーンは終わり、
他のエキストラと休憩していると、
「エキストラの皆さん、御協力有難うございました。これ、ウチらNebelからの差し入れやから、食べて帰ってください。」と、温かい有名店の豚まんが振る舞われた。
ユウに少し近づこうとすると、
「ユウさんっ!さっきほんとに、怖かったっすよ。
久しぶりに、怒ってるユウさん見た気がします…。」と、ユウがドラマのスタッフらしき人と喋っていると、
「怖いとか、あんまり言わんといてよ。また、メンバーから姉御ってからかわれるやん。」と笑顔で話している。
「それにしても、あの途中で交代したエキストラさん、ほんとにバーテンダーに見えましたよね??」と、スタッフさんがニコリと笑った。
「ホンマやなー。あぁいうの見極めるのアキラって、めっちゃ鋭いねん。この人やろ??」と、少し遠くで話すタイミングを見計らってた、俺の腕を引き寄せた。
「そーですっ!この人ですよっ。
さっきは有難う御座いました!引き受けていただいて。」と深々とお辞儀をされてしまった。
「ちょっと、この人と2人で喋りたいねんけど、えぇかな??」とスタッフさんにユウが目線を送るとさっきまで喋っていた、スタッフさんはどこかへ行ってしまった。
「…で、久しぶりですね。マサヤさん。
まさか、マサヤさん自身がエキストラに来るとは思ってませんでしたよ。
ウチらのMix_1に来る気ぃ、ありませんか??
マサヤさんの才能やったら直ぐにでも、舞台の主演とかなれますよ。
高待遇やと、おもいますけど??考えませんか?」と、ユウは手を差しのべた。
「…久しぶりに会って、
誘ってくれてるのは有り難いけど…
俺は、守らなきゃいけないんだ。Barとあの劇団は。俺の居場所だからな。」
と、俺はユウの差しのべた手を断った。
END




