第一話 迷い込んだ水槽で、尻尾の生えた美人と出会う。
本作は2話以降のボリュームが1万文字を超えるボリュームになります。
読み応えのある物語となっていますので、平日のスキマ時間だけでなく、土日の空いた時間などで一気に読むなどして、ぜひ、汐光町に潜む謎を堪能してください!
最後に一つ。
この話はあらゆる可能性のうちの一つです。
もし、この物語であなたが目にしたものがいいものでも悪いものでも、それは枝分かれした一つの物語で実際に起こった、または起こりえることです。
また、別の枝でお会いする機会があれば、その時はまた違った顔を見ることが出来るでしょう。
在りし日の記憶
沈んでいく。
光がどんどん遠くなっていくのを感じる。
私はどうなってしまうんだろうか。
このまま死んでしまうのだろうか。
考えたところで仕方がない。
どのみち泳げもしないからどうしようもない。
だんだん苦しくなってくる。
意識が遠のいていく中、大きな影が私のもとに近づいてきた。
ぼんやりとした意識の中、私は誰かも分からない恩人の声を聞いたのだった。
「死ぬな! お前だけは私が助ける!」
誕生日の朝
またあの夢を見た。小さいころにおぼれかけていたところを誰かに助けられる夢。記憶は曖昧だけど誰かに助けられている。それが誰だったかは覚えていない。そもそも私の知らない人だったのかもしれない。そんなことを考えていたら眠気が襲ってきた。
二度寝すれば同じ夢を見られるのだろうか?なら二度寝しない手はない。今日は休日。起きるのも面倒。二度寝したって誰も文句は言わないだろう。ならもう一度布団にもぐって……
「円海! 起きなさい!朝ごはんできてるわよ!」
私を起こそうとするお母さんの声が聞こえてくる。どうやら二度寝をすることはかなわないようだ。観念して気だるいからだを起こしベッドから出る。階段を降り、リビングへ向かう。
リビングに行くと朝ごはんを並べている母と食卓の椅子に座りコーヒーを飲む父の姿があった。食卓の椅子に座り、テーブルに置かれている私の分のトーストに手を付ける。
いつも通りでおいしい。
「おはよう円海。十六歳の誕生日おめでとう。水族館楽しみだね。」
「ありがとう。お父さん。」
お父さんから朝の挨拶とともに誕生日を祝われる。何を隠そう今日は私の誕生日。
そして今日は家族で水族館に行く予定だ。
誕生日に水族館というと遠方の大きい水族館を想像してしまうが、実際は私が住む港町、「汐光町」にある大きくとも小さくともない「黎明アクアパレス」という水族館に行く予定だ。海が隣接していて潮風の気持ちいい場所にある。
小さいころ溺れかけて水が怖くなった私に少しでも水が怖くなくなるようにと連れてきてくれたのがこの水族館だった。このこともあり、いまでは水がそこまで怖くなくなり、水族館が好きになった。
「お誕生日おめでとう円海。朝ごはんを食べたら支度をするのよ。」
「わかってるよ。お母さん。」
お母さんからもお祝いの言葉をもらいながら朝ごはんを食べ終える。部屋に戻り支度をしてまたリビングに行く。どうやらふたりとも支度を終えて私を待っていたみたいだ。
「円海もきたし家を出ようか。」
「そうしましょ。お父さん。円海、忘れ物はない?」
「大丈夫だよ。行こう。」
そう言い玄関の扉を開ける。
外に出るや否や小魚が目の前を横切った。
水族館で
「外は結構暑いのに魚たちは元気だね。」
両親は魚に驚くこともせずに歩いていく。少し上を見ればクラゲが漂っていたり、小魚の群れが空を泳いでいたり。今ではもう珍しい光景ではなくなった。
数年前、ある日を境に海の生物を模した謎の生物が陸に表れ始める。
最初に現れたものが「ホオジロザメ」をもした生物で空中を素早く泳ぎ商店街の精肉店を襲撃する事件があった。
この商店街は自分も含めた町の人々にとても親しまれていた商店街だったのでかなりの衝撃を受けた記憶がある。
この出来事があってから町の人々は謎の生物たちを「海異」という名で呼び始め、怯えるようになった。
だけどそれ以降にそう言った事件は起きずに比較的無害な「海異」たちが町を泳ぐだけになっていった。そういえば水族館の一部が改装されたのもそのぐらいの時期だったっけ。なんでも海異の研究目的で研究施設を増設したみたいな理由だった気がする。
研究の成果もあって海異の安全性が担保され今ではその辺を海異が泳いでいても何の問題もなくなった。
私も最初は「そんな奴らがウロチョロしてるのは危ないなあ。」と思っていたが今では海異のことを「かわいいなあ」なんて思ってしまっている。
「そういえば円海はなんで水族館に行きたいんだ? 魚なんてその辺を歩けばいくらでもいるのに。」
わかってないなぁ~お父さんは。
「特別な日にみんなであの水族館に行きたかったの。」
あの水族館は両親が私のために連れて行ってくれた思い出の場所だ。誕生日という特別な日に行ってみたくなったのだ。それにここ最近ずっとあの夢を見ていて何となくあの水族館を思い出していたこともあった。夢の内容と関係ないはずなのになぜか水族館に行きたくなったのだ。
「あら。そんな風に思っていたなんて円海はほんとにあの水族館が好きなのね。」
そんな他愛のない会話をしていると水族館に着いた。水族館の周りにはアジやサバなどの魚やウミガメ、イカやタコなどの海異が泳いでいた。
「お!水凪さん!ひさしぶりっすね!円海ちゃんも元気してたっすか?」
「ひさしぶりだね。鴎さん。ちょっと眠いけど元気してるよ」
チケット売り場から声をかけてくれたのは「波多野 鴎」という人だ。水族館のスタッフとして数年前から働いている。気さくで人当たりのいい人だ。ちなみに「水凪」というのは私の苗字だ。つまり「水凪家」となる。
「お久しぶりですね。波多野さん。お仕事大変じゃありません?」
母がいつものように鴎さんに問いかける。
「大丈夫っすよ。鯨井さんや渚さんがいるっすから!渚さんはちょっと当たり強いとことあるっすけどね。大人三人で6千円っす。」
「波多野さんがいい人でこの水族館時も来やすいよ。ありがとうね。」
「とんでもないっすよ! こちらこと来ていただいてありがたい限りっす!」
父の言葉にも明るくハツラツに返す鴎さんはほんとにいい人だなと再確認した。
「こちらがチケットになるっす。じゃあ皆さん行ってらっしゃいっす!」
「ありがとう。鴎さん。」
そうしてチケット売り場を後にして水族館に入る。
しばらくは両親と水族館を見て回った。トラフザメやトビエイたちがいる大きめの水槽。タカアシガニやギンザメのいる深海エリア。
ミズクラゲやアカクラゲのようなクラゲがたくさんいる幻想的なエリア。何回も来ているから新鮮味はないがやはりこの水族館特有の雰囲気が大好きだと感じた。
しばらくして私は一人で見て回ることにした。両親に一言伝えるととある場所に向かうことにした。ひときわ懐かしさを感じるあの場所。この時の私はこの先に何が起こるかなんて考えもしなかった。
在りし日の記憶2
「だいじょうぶ? けがしてるの?」
「お前は……人間か?」
「それよりもヒレをけがしてるよ? それにすなはまにいたらしんじゃう!」
「大丈夫だ……私は特別だから陸でも生きれる。」
「でもヒレけがしてるよ! ばんそうこうはらなきゃ!」
「それも大丈夫……だからそれを張らないでくれ……いやほんとに大丈夫だから……」
「だめだよ! けがはなおさないと!」
「……そうか。手当してくれてありがとう。そういえば、お前の名前はなんていうんだ?」
「わたしはまどか! みなぎまどか! あなたはなんておなまえなの?」
「私か……私は特別でも結局エイだからな……名前はないな。」
「じゃあわたしがつけてあげるね! エイだからおなまえは……」
迷い込む
両親と別れた後、私はとある場所へ向かった。
向かった先にはこの水族館の中でも一番の大きさを誇る水槽がそびえたっていた。だけどその水槽には何の生物もいない。
私が初めてこの水族館に連れてこられた時からこの水槽は空っぽだった。だから普段それなりに客がいるときでもこの水槽の前だけは全く客がいなかった。そういえば前に友達をここに連れて来た時に「なんもいないのに何がいいの?」とか言われたっけ。
私がこの水槽に来たのにはちょっとした理由があった。
今朝見た夢。誰かにおぼれかけていたところを助けられる夢。その夢を見たときに水族館を思い出すのはこの水槽のせいだ。この水槽を見ているとあの時助けられたことを思い出す。誰に助けられたのかも覚えていなかった。
おぼれかけて気を失い、気が付いた時には砂浜で私は倒れていた。助けてくれた人に会えたら恩返しをしなきゃいけない。そのことと空っぽの水槽は何も関係ないはずなのに。私はぼうっと水槽を眺めながらそんなことを考えていた。
「おや、こんなところに珍しくお客様がいるかと思えば円海ちゃんか。元気かそうかい?」
「あ、鯨井さん。お久しぶりです。おんなじこと鴎さんにも聞かれました。元気ですよ。」
私に優しい声で話しかけてきたこの白衣を着たお兄さんは、この館長で水族館に付属している研究所の責任者でもある「鯨井 淵」さん。
この人の海異の研究のおかげで安全な海異が空を泳いでいたり、危険な海異がその辺りを泳がなくなったりしている。他にも鯨井さんの研究によって海異に関するいろんなことがわかって、対策がされているらしいが詳しくは知らない。
私が初めて両親とこの水族館に訪れたときに鯨井さんは声をかけてくれた。両親は私の境遇を話すと、鯨井さんは大層よくしてくれたのを覚えている。
両親は鯨井さんに感謝しているようだし、私もかなり感謝している。それから何度かこの水族館に通ったがそのたびに気にかけてくれるので鯨井さんには結構お世話になっている。
「おっと、それは失礼したね。今日はひとりかい?」
「いえ、今日は両親と。」
「そうだったのかい。ならご両親にもご挨拶をしておかないとね。」
なら両親を連れてきた方がよかったかもしれない。
「両親ならその辺を見て歩いているのでそのうち見つかると思いますよ。」
「そりゃよかった。ところで君は、またこの何もない水槽を見ていたのかい?」
「…そうですね。なんか思い出しちゃって。この水槽って大きいエイがいたんですよね?」
「オニイトマキエイ、通称マンタ。それも通常のマンタよりもはるかに大きいマンタだったんだよ!」
鯨井さんは少し興奮気味にそういう。そんなに大きいのなら見てみたかった。
「どうしていなくなっちゃったんですか?」
「水槽には出していないけど奥の方で飼育はしているよ。この水槽では小さいみたいだし、ストレスを与えてはいけないからね。」
どうやら死んでしまったとかそういうことではないらしい。ひとまずよかった。
「この水槽は今度スクリーンとして使う予定なんだ。町の風景を映して、普段見ない視点から町を見れるように…なんていうのを考えていてね。円海ちゃんにも是非見に来てほしいな。」
「そうなんですね! それは是非とも見てみたいです!」
町の風景を普段見ない視点から見るのは楽しそうだ。町では見られない海異などが見られるかもしれない。そんなことを考えていると、
「鯨井さん! まだ仕事あるのにどこほっつき歩いてるんですか!」
後ろからやってきたのは鯨井さんの助手である「涼風 渚」ふわっとしたショートボブが特徴的な大人のお姉さんといった感じの人だ。
「あら。円海ちゃんね。こんにちは元気にしてたかしら?」
「こんにちは渚さん。その質問なら鯨井さんと鴎さんにもされましたよ。」
「え?鴎も同じことを言っていたの?」
渚さんは露骨に嫌な顔をする。でも二人ともはたから見たらとても仲が良いように見えるしほんとは「そういう」感情を持ってたりするのではないだろうか。
「まあいいわ。それよりも鯨井さん! 研究所のみんなが読んでいましたよ。今度の水槽の件で話したいことがあるそうですよ。鴎じゃないんだからふらふらどっか行かないでください!」
鴎さんってそんなにふらふらしてるのか。
「あぁごめん渚さん! なんだか無性にこの水槽を見たくなって…。そういうことだからゆっくりしていってね。円海ちゃん。気を付けて。」
「ありがとうございました。鯨井さん。」
そういうと二人は研究所の方へと去っていった。気を付けてなんて言われたのが少し引っ掛かるが、鯨井さんはすごい人なんだなあと実感しながら少し水槽を眺めた。
ここにいないだけで生きてるんだ。エイ。そんなことを考えていると結構な時間がたっていることに気が付いた。そろそろ戻らないと心配かけちゃう! そう思い水槽のある場所から出る。
そこはさっきまでいた水族館とはまるで別の場所だった。
邂逅
そこはまるでさっきまでいた水族館とは思えなかった。構造も見た目も全く同じはずなのにさっきまでいた客たちがいなくなっている。
それに雰囲気がさっきまでの水族館とはちがい重たくて苦しいものになっていた。こころなしか暗くなっている気もする。
「…ここはどこ?」
つぶやいてもむなしく声が響くだけだった。そうだ。お父さんとお母さんは?
「お父さん! お母さん!」
読んでみても返事はない。すると、
バリン!
すぐ近くで何かが割れる音がした。ガラスの音だろうか? だとしたら水槽の水が漏れだしているはずだがそんな様子はどこにもない。
ゴゴゴゴゴ!
何かが近づいてくるのがわかる。何が来るかわからないが背筋が凍った。確実にヤバイものが近づいてきている。そう直感で思った私は近づいてくる何かから逃げるように走り出した。
走っているとトラフザメがいる水槽の前についた。水槽の中では来た時と変わらず魚たちが泳いでいる。でも明らかにここは私の知っている水族館ではなかった。
「ここはなんなんだよ!」
息を切らしながらそんなことを叫んだ。すると遠くから水を素早く泳ぐような音とともに何かが近づいてくるのを感じた。
振り向くとそこには大きく口を開けた「ホオジロサメ」のような生物がいた。だが、ホオジロザメにしては体が随分大きい。何よりとげとげしい見た目をしていた。
「いやああああ!」
そう叫び死を覚悟していた。すると
スパアン!
とホオジロザメが真っ二つに切り裂かれ、泡となって消えていった。そこに立っていたのは、針のような刀を持った和服の女性だった。コートを羽織り、長い黒髪を後ろでまとめているその姿はこんなな危機的状況ながらも美しいと思ってしまった。呆気に取られていると針の先端をこちらに向ける。
「……お前は何者だ。敵なら殺す。」
「私はただの客だよ。そっちこそ何者?」
恐怖で震えながらも殺されまいと少しは抵抗する。
「確かに力は無さそうだ。だが結局侵入者であることには変わりない。
お前はどうやってここに来た?」
「私だってわかんないよ! 普通に水族館にいたら雰囲気変わって…こっちだってわけがわかんないんだよ!」
理不尽に殺されそうになり、言葉に感情がこもる。
「わからないだと?だが嘘をついているようにも見えないな。」
そういうとようやく刀をおろした。ひとまず安心だ。目の前の和服美人は少し考え込んだ後に私の方に向く。
「とりあえずお前のことは敵じゃないと認めよう。名前は?」
と、ぶっきらぼうに話しかけてきた。敵意が無いことは伝わったが、それが人に名前を聞く態度かよ、などと考えてしまう。まあ答えるしかないのだが。
「円海。水凪 円海。あなたは? なんで助けたの?」
先ほど殺されかけたちょっとした腹いせで少しぶっきらぼうに答える。
「円海か。私はレイだ。」
なぜ名字を名乗らないのだろうか。そんなに興味はないから聞かないけど。てかいきなり呼び捨て?馴れ馴れしさは無いけど引っかかるなあ。
「ついてこい。案内する。」
「どこに。」
「仲間のところだ。ひとまずは来客として歓迎してやる。」
歓迎しているようには見えないんですが。
「わかったよ。レイ。」
「気安く呼ぶな。勘違いするなよ。お前を信用するわけじゃない。」
「…レイってツンデレみたいなこと言うね?」
「ツンデレではない!」
ツンデレではないらしい。そんなことを考えているとレイはどんどん奥へと進んでいく。
私は後を追うように付いていく。よく見るとレイに細長い針のような尻尾が生えているのが見えた。
「その尻尾は何?」
「素性の知れないやつに教える義理はない。」
「つれないなあ。」
ツンデレ呼ばわりしたせいか、気を悪くしてしまったらしい。
こうして私たちは割と最悪に近い形で出会った。レイから感じる雰囲気に懐かしさを覚えるのはきっと気のせいだろう。そんなことを考えながら。私はレイの仲間のもとへと向かっていた。
もし、これがすべての始まりなら、私はこの場所に来たことを後悔しないだろう。
一話目「迷い込んだ水槽で、尻尾の生えた美人と出会う。」
初めまして、深水 優と申します。
初めての作品の一話目。いやぁ、難しかった。キャラクターに色を持たせるのが特に大変だった。
それでも「この表現いいな」「このキャラいいな」みたいなものを完結までに一つでも見つけられるものにしたいと考えています。
完結までそこそこ時間はかかると思いますが、お付き合いください。
最後に一言 読んでいただきありがとうございました。




