第34章 超越者の主
荘厳な神殿のような建物。無数の柱と広々と続く磨かれた石材の床。
そこで二つの靴音が、張り詰めた静寂を破る。
靴音の主は、長身の二人の男性。
一人はネダであり、もう一人は痩せた鷲鼻の男。神経質そうな切れ長の瞳。まるで僧衣のような紺のコートを羽織り、同じく紺の手袋をつけている。
名はブローニン。ネダと同じく博士の位を持つ、稀有な才能を持つ魔術師であった。
二人は黎明のような薄ぼんやりとした明るさの床を並んで歩き、大きな天蓋付きベッドの前で止まる。
ベッドの周囲には薄手の白いカーテンが吊り下がっており、中の様子はシルエットでしか見えない。
神殿の中にある円形の広大な部屋は、この一人の人物のための物だった。
「陛下。ネダ・ユスクリモア及びブローニン・ウィンカーズ両名、参りました」
ベッドの上で、身動ぎする影。その均整の取れた形から、中にいるのは女性のようだった。
ただ寛いでいるだけの女性だが、その威圧感は二人の博士を緊張させていた。
『よく来た両名。早速計画の進行具合を聞かせてもらおうか』
澄んだ声だが、威厳のある口調。
「陛下。その前に、このネダより報告があります。シュメンハイニー卿が討たれました」
『――』
僅かな間の沈黙。
『そうか。だが奴の資産は、既に抑えているのであろう?』
「はい。計画には、何ら支障はありません」
ブローニンが、代わりに答える。
シュメンハイニーから心酔されていた主は、彼の死に何の感情も抱いていないようだった。ただ彼の資産のその後だけを、気にかけていた。
「陛下。計画の進行ですが『兵』に関しては、何ら問題もなく、順調に数を増やしております。陛下に相応しき威容を備えた精鋭の兵団が出来上がっております」
ブローニン博士は、自信に満ちた物言いで語る。
『ネダの方はどうだ?』
「は。バリムド博士より引き継いだ『城』は、順調です。ただいま最終調整に入っております」
『「超越の王」は傑作だ。特に余の化身はな』
「――ありがとう、ございます」
ネダは、何故か淀みなく反応することが出来なかった。
『「超越の王」も、いずれ一堂に会する時が来るであろう。その時が楽しみだ』
「はっ……」
『随分と覇気のない返事よ。何か思い煩うことでもあるのか?』
深々と頭を下げていたネダは、聞かれて表情を固める。
隣に立つブローニンも、怪訝な表情で彼の後頭部を見下ろす。
「『コウ蛇』のことが…未だに気になっております」
『コウ蛇だと? 如何に腕が立つとは言え、たかが殺し屋一人がそれほど気になるものか?』
「陛下。ネダは六年前、あの女に白兵戦で初手で遅れを取ったことを気にしておるようです」
隣に立つブローニンが、横目で同僚を捉えながら口を挟む。
『なるほど。「超越の王」相手に打ち合って、有利を取ったというのは、確かに並大抵ではない。だがそれもお前が「超越の王」の肉体に不慣れであった頃の話あろう?」
「はい。今の私なら、もう遅れは取らぬとは思いますが――あの女は殺し屋で蛇です。蛇は臥所に潜り込み、気付かれる前に牙を突き立てることも可能です」
ブローニンの表情に、怪訝なものが含まれていく。
(この男、以前はこれほど女殺し屋のことを恐れていたか? 六年前ならともかく、今になってーー)
『対処はお前に任せよう。まあ…この姿を見せることで、ヤツが驚く顔を嘲笑うのも一興だが』
カーテンの向こうの女性が、小気味良さそうに笑う。
ネダは何も言わず、深々と頭を下げる。複雑な感情を渦巻く内心を秘め、無表情を装いながら――
クーメイ一行は宿に戻り、ひとまず休息を取っていた。
彼女の腕は、途中医院でヴァローに大金を払ってもらい、医術師によって『再生・復元』の魔術で再生してもらっていた。
「再生した腕は、しばらくは安静にしておくように」と言われたクーメイは、鍛錬も控え、宿のシャワー室に籠もる。
だが心配したりビュエが、片腕を動かせない師のために世話を焼き、今は一緒にシャワー室に入っていた。
湯煙の漂う中、互いに見事なプロポーションをした裸身をさらし、向かい合う二人。
「せ、先生……」
薄褐色の肌を晒したリビュエは、スポンジで師の身体を洗う。だが何故か再生したばかりで動かせないはずの師の腕は、リビュエの豊満な乳房を下から支えるように揉みしだいていた。
「はぁ…あっ❤ あ、あ…うぅん…❤ せ、先生…腕…動かせないんじゃ…」
「これまで何度も再生しているうちに、実はすぐに動かせるようになったのよ。それにリビュエのおっぱいを前にしたら…はぁ…はぁ…つ、つい…」
両手を伸ばし、弟子の少女の乳房を下から持ち上げるようにして揉みしだき、ぐにぐにとこね回す女。
「柔らかいなぁ…やっぱりリビュエのだと夢中になるわぁ…感触が段違いだよ」
指を下から絞るように食い込ませ、胸を強調するようにして左右から中央に寄せていく愛撫。
「んふぅうっ…ん、ん❤ はぁ、あぁ…やぁ…❤」
むにぃ、むにぃ…と暴力的なまでに柔らかな質感が、繊細な指によって形を歪ませていく。
弟子の少女は切なげに目を閉じ、可愛らしい嬌声とともに身を震わせる。
自分の手の中で盛り上がっていく柔らかなふくらみ、その中央で息づく桜桃のような突起。
クーメイは淫靡な笑みを浮かべると、弟子の少女の乳房に舌を這わせ、朱の唇で味わっていく。
「んくぅ…んぅ…ん、ん、ん…❤」
リビュエは耐えるように瞳と口を閉じるが、切なげな声が漏れ聞こえる。
女は褐色のふくらみに細い指を食い込ませ、盛り上がったを口に含み、音を立てて吸っていく。
「はぁ…あ❤ あぁ…せ、先生…音…立てないでください…あ、あ❤」
タイルの壁を背にして、はぁ…はぁ…と官能的な溜息を吐くリビュエ。
「本当は…リビュエを自分のモノにしようなんて一切考えちゃいけないんだけど――」
自らの柔らかな双丘を、リビュエの「それ」に押し当て、身体を壁に押し付けるように迫るクーメイ。
むにぃい…と白いふくらみと薄褐色のふくらみが押し合いへし合いし、柔らかな質感を互いに強調し合う。
湯に濡れた肌が絡み、妖しい視線で弟子の少女を射抜くクーメイ。
「――自分好みの美少女がこんな顔してくれたら、そりゃ独占欲が生まれちゃうわ」
濡れた眉毛が、青みを帯びた黒い宝石のような瞳が切なげに揺れるのを翳す。
リビュエの瞳が自分を制しているのか、求めているのか――ともかく彼女を欲した女は、その細い指を少女の秘処に伸ばす。
「あ、先生…そこ、は――」
ぬるり…と白く細い指が、褐色の割れ目の中に埋没していく。
はぁ…と官能の吐息を漏らす少女。
「お湯なのか、リビュエのエッチな液体なのかわからないね」
「はぁ、は…あ❤ い、意地悪なこと言わないでくださ…あ❤ あ、あぁ…」
くちゅ、くちゅ…と手慣れた指使いで、弟子の少女を順調に高ぶらせていく女。
「せ、せんせぇ…あ❤ あ❤ あぁ…じょうず…なの…あ❤ 怖い…です…あ、あぁ…ん❤」
人体を壊す方法を学ぶうちに、人体が感じるポイントも覚えてしまったクーメイの指技は、戦い以外でも変な効用があった。
片手の指を薄褐色のふくらみに食い込ませながら円を描き、一方で蜜液に濡れた秘処を指で弄っていく。
すっかり師の指技に蕩けてしまった少女には、いつもの理知的な様子が見られない。
「はぁ❤ はぁ、あ❤ あぁ…ん…❤」
ただでさえ目を掛けている少女の乱れた姿。その痴態が放つ色香に惹かれ、思わず濡れた髪に口づけしていく女。
更に、ぬちゅっ…と一際深く指を挿入し、秘部の奥を擦ると、リビュエが天を仰ぎ、爪先立ちになる。
「は、あ❤ だ、めぇ…せんせぇ…あぁああああ……❤」
切なげな表情で全身を震わせて絶頂する褐色肌の少女。
堪えるように瞳を閉じ、びくん!びくん!と肢体を震わせると、やがて色っぽく吐息を漏らす。
湯に濡れた髪の間から、潤んだ瞳がこちらを見つめる。
その美しさに心震えたクーメイは、少女の頬から髪にかけて両手を添え、ねっとりと唇を重ねていく。
弟子の少女の口の中を味わうように、舌を絡ませていく。
「ふぁ❤ んむぅ…せ、せんせぇ…ふぁ❤ ど、どうして…舌の使い方も…上手なんですか…?」
「……秘密。それよりエッチなことされると、子犬みたいになるリビュエが超可愛い」
「そ、それは…先生が…上手すぎるから……」
赤面し、言い訳じみたことを言いながらうつむく少女。
「……先生。意地悪です」
普段より弱気な抗議をする少女を抱きしめ、慈しむように頬ずりし、髪を撫で付ける――
二人はシャワー室を後にして、寝間着姿になって部屋で寛いでいても、ベッドの上でピタリと寄り添っていた。
厳密に言うと、寝転がったクーメイの身体に、甘えるようにリビュエがくっついていた。
女は石鹸の匂いのする弟子の少女の髪を指で漉きながら、頭を引き寄せる。
「先生は…ミンテを、どうされるつもりですか?」
弟子の質問に、一旦手を止める女。
「……ミンテ自身が望むなら、一緒に暮らす」
「先生は……可愛い女の子を集めたいんですか?」
「…リビュエが嫌なら当然止めるよ。だって私にとっては、リビュエが一番だから」
「……」
朗らかに笑う師の瞳を、真っ直ぐな瞳が覗き込む。
「でも、それは先生じゃないです」
「え。リビュエが一番って言ったことは、スルーなの…?」
ショックを受ける女。
「でもリビュエの言いたいことは分かるわ。私のことをよく分かってるというか…」
「はい。だから…ミンテのことは反対しません。嫉妬はすると思いますが…さっき一番って、改めて言ってくれましたので…」
ほんのり頬を朱に染め、今度は様子を窺うように師の瞳を覗き込む少女。
「可愛い! この娘ったらもう!」
滂沱の涙を流しながら、弟子の額に口づけする女。
しばらくされるがままになるリビュエだが、しばらくして再度質問する。
「先生は、以前『サウガンディカ』と戦い、勝ったんですよね?」
「うん。まあ二人ほどね」
「じゃあ……私でも勝てると思いますか?」
弟子の真っ直ぐな質問。違う意味でも重要なことだった。
「う……うーん。まあ…相手による…としか言いようがないかな?」
クーメイはこと戦いの話題に関しては、問われれば真面目に考え、口にする。特に弟子であるリビュエから問われれば。
この「相手による」という返答は、曖昧で正確な回答をはぐらかしているとも言えるが――
「ごめん。ちゃんとした答えじゃなくて。でも『サウガンディカ』に関しては、そうとしか言いようがないんだよ」
クーメイは、ネダの手足たる『サウガンディカ』と戦った経験はあるが、そのメンバー全員を把握しているわけではない。
「アイツら凶人は、全員がそれぞれ特異な能力を持っている。だから能力によって戦い方は異なるし、相性も出てくる」
ネダの有する怪人の集団。それも彼からは「同志」という扱いを受けている『サウガンディカ』――
「例えば今回イレギュラーで戦うことになった魔将ヴェラ・ミズン。あれも手強かったし、私も一時片腕を失った程度で済んだのは、リビュエが居てくれたから。でしょ?」
含めるようにして説明するクーメイ。
「そんな風に状況次第では苦戦するかしないかも変わってくるから、一概には言えないのよ」
「先生が『サウガンディカ』と戦ったのも、六年前でしたね」
「そうだね。私がリビュエたちと初めて出会った時だよ」
「先生は『サウガンディカ』を二人も相手にしたと聞いてます」
誰が教えた――と脳裏にモグラの男を浮かべながら、クーメイは苦笑する。
「あれも相性だったんだよ」
言い訳じみた言葉で朗らかに答えるが、リビュエの表情は真剣さを増している。
「その時の相手であれば、私は勝てますか?」
「……。……正直厳しいかも」
少し考えて、目を逸らしつつ答えるクーメイ。
「……そうですか」
自分に甘い師が、表現を柔らかめにしても「厳しい」と言ったことを、リビュエは重く受け止める。
「後学のためにも、その時の話ぜひ詳しく聞きたいんですが」
「えー…まあリビュエと出会った時のことだし、話してもいいけどぉ」
脳内の記憶を引っ張り出し、あの日の風景を思い出す女。
(嬉しい再会――は戻りすぎだ。確か吹雪の山中だったなぁ…)
記憶の中。六年前の雪山に殺し屋の意識が飛躍する――




