Episode 14
「あら、いらっしゃい!」
たまたま出くわしたお母さんが、目を丸くした後に満面の笑顔を見せる。
「っ⋯こんばんは⋯お邪魔します⋯」
「肩が濡れちゃってるじゃない!今すぐお風呂の準備するわね!」
「えっ⋯!?いえ、お風呂まで貸していただくわけには⋯」
「いいのよ!遠慮しないで!」
お母さんの勢いに圧倒されて、顔を見合わせて困ったように笑い合う。
「⋯じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます⋯」
慧さんが、我が家のお風呂に入っている。
不思議な感覚がむず痒い。
「美夜が人を連れてくるなんて、初めてじゃない?」
「⋯そうだね⋯」
「⋯彼が、前に話してくれた人?」
「⋯うん⋯」
「凄く優しそうな人ね⋯」
照れくさくなって、思わず俯く。
「⋯彼には、話したの?」
「っ⋯!⋯言えてない⋯言うつもりもないよ⋯」
「⋯そう⋯彼なら、受け止めてくれそうだけど⋯」
「⋯今の関係を壊したくないから⋯」
逃げるように、キッチンへ行く。
「お父さん、出張から帰ったら残念がるわよ」
リビングから聞こえる明るい声に、微笑みがこぼれた。
「⋯お風呂、ありがとうございました⋯服まで借りてしまって⋯」
「気にしないでいいのよ!お父さんの服、ちょうど良かったみたいね」
「はい⋯ありがとうございます⋯」
「今日は家に泊まっていって!客室にお布団あるから」
「っ⋯いえ、そこまでは⋯」
「⋯迷惑?」
「いえ、迷惑なんて⋯そんな⋯!」
「じゃあ、決まりね!美夜の部屋でゆっくりしてて!その間に、布団敷いておくから」
お母さんの言葉に押されるように、部屋へと入る。
「⋯ごめんなさい⋯お母さん、強引で⋯」
「そんな事ないよ⋯良いお母さんだね」
「⋯私が人を連れてくるの、初めてだから⋯嬉しいんだと思います⋯」
「⋯そっか⋯初めてなんだ⋯」
嬉しそうに微笑む姿に、胸が高鳴る。
俯いた私の頬に、優しく手が触れた。
「美夜ちゃん⋯」
「っ⋯慧さん⋯」
優しく唇が触れ合う。
「っ⋯!」
急に感じた血の味に、慌てて身体を離す。
「⋯どうしたの?」
「っ⋯血の味が⋯」
思わずこぼした言葉に、口を塞ぐ。
「⋯?血の味⋯?」
「あっ⋯唇が、切れて⋯」
不思議そうな彼に、手鏡とティッシュを渡す。
「っ⋯ホントだ⋯いつの間に⋯」
唇を拭う彼を見つめながら、自分の中の衝動を必死に押さえつける。
「⋯ごめんね、美夜ちゃん⋯血の味なんて、気持ち悪かったよね⋯」
「っ⋯大丈夫、です⋯」
「っ⋯!?美夜ちゃん、凄い汗⋯!大丈夫!?具合悪い!?」
そっと伸びてきた手を、振り払ってしまう。
「っ⋯ごめんなさい⋯」
慌てて見上げた顔は、傷付いているように見えた。




