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二度目の人生では妃候補になりません  作者: 秋月 もみじ


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第25話 戻らない返事


王宮へ戻れるという知らせを受けても、私の心は少しも軽くならなかった。


白樺小邸の机には、二通の文書が並んでいた。


一通は、告発に根拠がなかったことを記した嫌疑撤回通知。もう一通は、王妃府からの薬務補佐任用の打診状である。後者は金糸で綴じられ、王宮にふさわしい厚い紙で作られていた。薬材安全の知識を宮中で役立ててほしい、と丁寧に記されている。


前の人生の私がこれを受け取っていたなら、泣いて喜んだかもしれない。汚名を雪ぐためには、再び王宮で認められることこそ必要だと思っただろう。


今の私は、封筒を開いたまま、窓の外の薬草園ばかり見ていた。


初秋の庭では、月白草の葉が夏の終わりの光を受け、少し硬く色づき始めている。母が残した畝の間には、私が小邸へ移ってから植えた若い株がある。風が吹けば、葉の裏が一斉に白く返った。


「お嬢様、お茶をお入れしました」


ミナがカップを置き、金糸の文書へ目を向けた。


「王宮からのお招きですか」


「薬務補佐として働かないか、という打診よ」


「それは……おめでとうございます、と申し上げるものなのでしょうか」


ミナが迷った顔をするので、私は少し笑った。


「世間では、きっと」


「お嬢様にとっては?」


彼女は、この頃、私が決める前に喜ばなくなった。その変化に気づいていることを口にすれば、また彼女を泣かせてしまいそうで、私は茶へ目を落とす。


「まだ、分からないわ。ただ、王宮へ戻れることが嬉しいとは思えないの」


茶は温かく、香りも穏やかだった。飲むかどうかを考えず、自然に一口飲めたことに、後から気づく。


「お嬢様が王宮へ行かれるなら、私はお支度をいたします。こちらで働かれるなら、泥の付いた靴を磨きます」


ミナは茶菓子の皿を机へ寄せた。


「どちらであっても、お嬢様がお決めになった後で、私は喜びます」


以前なら、そんな言葉を気遣いと受け取りながらも、先に皆を喜ばせる道を探しただろう。今の私は、決めるまで待ってくれることに甘えるのではなく、正直に迷えるようになっていた。



昼過ぎ、父が小邸を訪ねた。


嫌疑撤回の日以来、父は何度か来てくれたが、私の仕事に口を出すことは控えていた。今日は王宮の打診を知り、どうしても話したかったのだろう。机の文書を見て、父は安堵を隠しきれない顔になった。


「王妃府が君の働きを認めたのだね。これで、あらぬ噂を口にする者もいなくなるだろう」


「名誉を回復していただけたことは、ありがたく思っています」


「薬務補佐なら、母上の知識も生かせる。候補としてではなく、職務で王宮へ入るのなら、以前とは違うはずだ」


父の言葉は正しい部分もあった。候補居館へ管理されるのではなく、任用される職務としてなら、報告経路も別になるだろう。私が王宮で働きたいなら、恐怖だけで避ける必要はない。


だからこそ、問いは一つだった。


私は、本当に王宮で働きたいのか。


「お父様。私が王宮で働かなければ、私の名誉は戻らないのでしょうか」


父の顔から、喜びの色が引いた。


「そのような意味で言ったのではない。もちろん、裁定で君の名は既に」


「分かっています。けれど私自身が、また王宮に必要とされれば正しかったと証明できるように思いかけていました」


打診状の金糸に指を沿わせる。美しい紙だが、私はもう、紙の美しさで道を選びたくない。


「私は、施療所へ安全な薬が届く仕組みを作りたいのです。母の庭を使って、温浸確認を学べる小さな分室を開き、王都の施療所の薬師や見習いが通える場所にしたい」


父はしばらく何も言わなかった。窓の外では庭師が畝の端を直し、落ちた葉を籠へ入れている。


「宮中の補佐より、町の庭にある分室を選ぶのか」


「高い場所から制度を整える方も必要です。ですが、私が続けたいのは、届いた箱を見て、薬を作る人と一緒に手順を学ぶ仕事です」


父の目が、母の薬草帳へ向く。


「リリアーナなら、何と言うだろうな」


「きっと、棚の高さと水はけを先に確かめると思います」


思わず答えると、父は驚いた後、肩を揺らして笑った。その笑いは短く、少し寂しかった。


「そうだね。あの人は王家の話より先に、土が乾きすぎていると言う人だった」


父は打診状を私へ返した。


「君の名誉は、君がどこで働いても損なわれない。分室の計画に、公爵家として必要な支援ができるなら相談してくれ。ただし、君が望む形で」


「ありがとうございます」


私は胸の内に残っていた固い結び目が、ゆっくりほどけるのを感じた。



翌日、薬草院の院長室で、王宮への返答と分室案を提出した。


王妃府への返答は、任用の打診に感謝しつつ、現職と地域薬務教育に力を尽くしたいとして辞退する簡潔な文書にした。王妃や法務官への批判ではない。恐怖から逃げるためだけの言葉でもない。


セルヴァン院長は返答書を読み、口元を上げた。


「王宮へ行かない選択が、ようやく王宮への拒絶だけではなくなりましたね」


「はい。行きたい場所を、考えられるようになりました」


分室案には、白樺小邸の薬草園と作業室を研修に用いること、月白草を中心とする解熱薬材の温浸確認を教えること、施療所との調薬連携、必要な設備費と収支の見込みを記した。


院長は設備の頁を開き、遠慮なく赤い印を入れた。


「湯釜を一つで回すのは無理があります。研修と鑑定が重なれば、確認を急ぐことになる。二台分の費用を出しなさい」


「ですが、設立費が増えます」


「確認を省いて起きた事件から始まる分室で、初めから設備を惜しんでどうします」


返す言葉がなく、私は赤い印の隣へ修正と書いた。王宮の打診を断って望みを語れば終わりではない。望んだ仕事には、厳しい費用計算と、現実的な不足が待っている。


ノエルは、研修受入れ人数の欄を指した。


「初年度は多くても八人までに絞る方がよいでしょう。あなたが全てを教える必要はありません。リュシーや施療所の薬師を講師として組み込めば、継続できます」


「私の分室なのに、私が教えない日があってもよいのでしょうか」


「あなた一人がいなければ止まる場所を作るのですか」


あまりに正しくて、私は黙った。母の帳面を一冊だけ頼みにしないことを学んだのに、今度は自分自身を一冊の帳面にしようとしていたのかもしれない。


「講師分担の欄を加えます」


院長が満足そうに頷いた。


ノエルは計画書を読み、評価のための質問をいくつかした。


「研修に来る薬師の数が増えた場合、試験紙と標準見本の費用はどう確保しますか」


「施療所からの研修契約費と、薬草院予算を合わせます。小邸の園で育てる月白草のうち、教材用の分は管理益へ入れず、分室費へ回したいと考えています」


「公爵家からの援助は」


「受けるなら貸付契約にします。返済できる計画を整えてからです」


院長は、私の答えを聞きながら、満足そうにペンを置いた。


「責任者欄が空白です」


差し戻された計画書を見る。そこには確かに、分室責任者候補の欄が白く残っていた。


「院長が決めてくださるものかと」


「採用の決定は私がします。けれど、あなたが自分で担いたいと申し出なければ、推薦できません。候補にされるのと、自分で職を望むのは違うでしょう」


空白の欄は、検品免除申請書にあったものとは違う。あちらは、命の責任を曖昧な名誉で背負わせるための欄だった。こちらは、私が選びたい仕事を示す欄だ。


私はペンを取り、オフィーリア・ラングフォードと書いた。


ノエルは、その署名を黙って見届けた。


その後、彼が書類を受け取る時、指が一瞬近づいた。触れるほどではない距離で、彼はすぐに手を引く。まだ監督官と助手であることを、彼自身が忘れないためなのだろう。


私はその慎重さを、寂しいと思ってしまった。仕事を尊重されることが嬉しいのに、もう少し近くにいてほしいと感じる自分がいる。その矛盾を、今はまだ声にできなかった。


帰り際、院長が私へ新たな書類の束を渡す。


「認可には設備確認と収支審査が必要です。忙しくなりますよ」


「望むところです」


窓の外の庭には、母の畝を秋へ向けてひらく日差しが落ちていた。


金糸の打診状は、王妃府への返答封筒へ収めた。代わりに私の鞄へ入ったのは、設備費を増やすよう赤い印を付けられた分室計画書だった。重かったが、持ち帰りたい重さだった。

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