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二度目の人生では妃候補になりません  作者: 秋月 もみじ


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第17話 母が拒んだ箱


母の薬草棚には、使われなかった明礬紙がまだ乾いたまま残っていた。


正式監査へ移った翌日、アマーリエから、私が用いた鑑定手順の由来を示せる資料があれば提出してほしいと連絡があった。私が灰紫根を見抜いたことは、二件の封印検体と実演で確かめられる。だが、侯爵夫人側は、公爵令嬢が事件後に都合よく覚えた方法ではないかと疑う余地を残そうとしているらしい。


「疑うのは向こうの自由です。ただ、私が母から学んだことを、母の名だけで証明したくはありません」


白樺小邸の作業室で、私は鍵を持ったまま言った。


同行したノエルは、棚へ近づかずに頷く。


「原本はあなたの所有物です。提出に必要なのは、該当箇所の確認と認証写しで足ります。探すのを今日にするかどうかも、ご自身で決めてください」


母の部屋へ調査のために入る。その響きが少し嫌だった。ここは母が生きていた場所で、事件の証拠庫ではない。


けれど、母に教わったことを私が仕事に用いた以上、どのように学んだかを自分で示すことも、母の教えを大切にする一つの方法だろう。


「今日、探します。私とミナで棚を開けますので、監督官は必要な頁が見つかった後に確認していただけますか」


「承知しました」


ノエルは作業室を出て、開け放した戸口の外にある居間で待った。その距離がありがたい。


ミナと二人で、乾燥棚の下段から順に箱を出す。母の筆記具、薬匙を包んだ布、使いかけの札束。棚の奥には細長い木箱があり、蓋にリリアーナの字で「試験紙・湿気厳禁」と書かれていた。


蓋を開けると、明礬紙が束になって収められている。何年も経っているため実用には向かないだろう。それでも、紙の間に挟まれた小さな帳面を見つけた時、私は座り込むように作業台の椅子へ腰を下ろした。


箱の底には、子ども用の小さな薬匙も一本入っていた。柄の端に青い糸が巻かれている。母が私用の印として結んでくれたものだ。幼い私は大人と同じ匙が使えないのが不満で、青い糸の匙を棚へ隠したことがある。母は怒らず、薬の量を誤ると誰の身体が困るのかを、庭の枯れた苗を前に説明した。


あの頃の私は、薬は母と過ごす午後の匂いだと思っていた。白塔でそれを恐怖へ変えられたとしても、母から受け取った時間まで失ったわけではない。


帳面には、母が私へ薬草を教えた日付と、扱った材料が記されていた。


オフィーリア、月白草と灰紫根の判別。乾粉のみで決めず、温浸後の紙縁を見ること。匂いのみで判断しないこと。


母の端正な文字の下に、幼い私の歪んだ字で「きめつけない」とある。試験室で思い出した頁は、本当にここにあった。


「お嬢様、よろしければ少しお休みになりますか」


「ありがとう。少し水をいただくわ。それから続きを探します」


ミナは私の呼び名も、扱いも、邸を移る前から変えなかった。職を得て住居を持ったからといって、急に立派な女主人になったわけではない。机に積もる埃を見落とし、水を飲むのさえ促される私には、その変わらなさがかえって救いだった。


水杯を受け取る前に、私は自分で水差しの蓋を開けた。何の異常もない冷たい水が、日の当たるガラスの中で揺れる。ミナはそれを止めも急かしもせず、傍らで待っていた。


「毎回、このように確かめてもよいかしら」


「もちろんです。お嬢様が飲み物を安心して召し上がれるまで、私も急がせません」


何を恐れるのかを、まだ全て説明してはいない。それでも、暮らしの中で私の判断を待ってくれる人がいる。


ミナが水を用意している間に、私は帳面の後半をめくった。教育記録の他に、納入品の試験記録が綴じられている。母は薬草園で育てるものだけでなく、慈善用に寄付する単材の仕入れも確認していたらしい。


ある頁で、ベレス薬材商会の名が目に入った。


七年前の初夏、月白草粉末の見本品を受け取り、温浸時の色変化を理由に不適格として返品。以後、当家の薬草寄付には同商会の調合粉末を用いない。


返品票の控えが、頁の間に貼り付けられていた。供給番号の先頭二桁は、今回止めた箱の系列番号と一致している。


「監督官」


戸口へ声を掛けると、ノエルはすぐに入ってきたが、私が示すまで帳面へ触れなかった。


「母の教育記録と、ベレス商会への返品記録がありました。ご確認ください」


彼は私が開いた頁だけを読み、静かに言った。


「技能の由来を示す資料になります。また、商会への以前からの懸念は示せますが、現在の汚染や基金の責任をこれだけで断じることはできません」


「分かっています。母が見ていたから有罪だとしたいのではありません」


その言葉が自分の口から出たことに、少し安堵した。母を傷つけた商会が憎いと思っても、母の記録を復讐の道具にしたくはなかった。



午後、父を小邸へ呼んだ。


父は帳面の頁を見ると、椅子へ腰を下ろしたまま長く黙った。母がベレス商会からの品を拒んでいたことを、彼は知らなかったのだという。家の寄付薬材の細部は、母の裁量に任せていた。


「私が知ろうとしていれば、もっと早く何か分かっただろうか」


父の声は低かった。


「母が当時見つけたのは、一つの見本品の不適格です。今の基金の不正まで分かったとは限りません」


慰めのためではなく、事実として言った。父の後悔を裁いたところで、今必要な帳簿は出てこない。


「原本は小邸で保管します。公爵家印で認証した写しを、法務官へ提出することを認めてください」


父はすぐに頷いた。


「もちろんだ。リリアーナが残したものを、今度は失わせない」


「お父様を責めたいのではありません」


父が目を伏せているのを見て、私は続けた。


「私も、母がここまで細かく残していたことを今日知りました。知らなかったことを悔やむより、これをどう守り、どう使うかを一緒に決めてください」


父はしばらく帳面を見つめた後、遺言管理の書類を家令へ求めた。母の資料に関する所有者が私であること、認証写しの提出は私の同意によることを、提出状へ明記するという。


前の人生の私は、自分の帳面を委員会へ渡し、返されなかった。母の帳面は、私の同意と保管場所を記した上で外へ写しが出る。その違いが、紙の上に現れていた。


家令が呼ばれ、認証写しの作成が始まった。帳面を押しつぶさないよう、頁を開く重石には柔らかな布が巻かれる。青い糸のしおりが綴じ目から少しほどけていることに気づき、私はそれを結び直さず、その状態も記録へ記してもらった。


ノエルは写しが封じられるまで待ち、提出状へ一文を加えた。


本資料は技術習得の由来および過去の返品事実を示す補助資料であり、現供給品に関する判断は封印検体および帳簿調査による。


「これでよろしいですか」


「はい。母の記録が言っていないことまで、言わせずに済みます」


帰り際、アマーリエからの使者が新たな命令書を運んできた。


認証写しを入れた封筒は、父の公爵印だけでなく、所有者としての私の署名と、写しを作成した家令の確認印を持った。母の文字を外へ出すことが寂しくないわけではない。けれど原本は棚へ戻り、青い糸のしおりも、私が閉じた頁の内側へ残る。


母の返品票と今回の供給番号が関連することを受け、法務室はベレス商会へ、公式帳簿および在庫記録の提出を命じたという。


母が拒んだ箱は、長い年月を越えて誰かを断罪するのではない。ただ、今調べるべき扉を、静かに指し示していた。


私は作業室の戸棚へ鍵を掛け、鍵束を自分の腰の小袋へ戻した。母の資料を差し出すことと、手放すことは違う。写しが法務室へ向かう間も、原本の頁を守る責任は私にある。


小袋の革紐が、歩くたびにドレスの脇でかすかな音を立てた。

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