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弥助の過去

帰港の残り火


璃月港の復興作業は熱気に満ちていた。戦火で煤けた建物は洗い清められ、損壊した道は修復され、埠頭に山積みされた軍需物資は整然と倉庫へ運ばれるか、困窮する民に配られている。港の上空に立ち込めていた戦煙は晴れ、代わりに秋の澄んだ空と、慌ただしくも秩序だった活気が広がっていた。


弥助(やすけ)は再開した「三碗過ぎ港」の二階テラスに立ち、眼下の光景を見下ろしていた。この黒人武士は織田軍の赤備え鎧を脱ぎ捨て、璃月風の濃い青い胴丸を身にまとっている——夜蘭が特別に仕立てたもので、武士装束のさばきやすさを保ちつつ璃月の意匠が織り込まれている。だが衣装が変わっても過去の傷跡は消えない。彼の瞳は依然刃のように鋭いが、生まれ変わりつつあるこの港を眺める時だけ、稀に柔らかな色が宿る。


「弥助殿!」階下から若い璃月の作業員の声が響く。「西埠頭の片付けが終わりました。得体の知れない木箱が出てきたので、見に来ていただけますか?」


弥助は肯き、腰に差した新しい刀に片手を添え——空が贈った璃月の鍛冶師が打った刀で、鞘には風と岩の紋様が彫られている——足早に階段を下りた。二ヶ月に渡る共闘の日々で、彼は璃月軍の兵士たちから尊敬を集め、この地の言葉も少しずつ覚えていた。


西埠頭はかつて豊臣軍の臨時倉庫として使われており、今は分類待ちの物資で埋め尽くされている。作業員たちは油布に覆われた木箱の山を囲んでおり、弥助が来ると道を開けて譲った。


「これらの箱は隠し場所が巧妙でした」整理担当の小隊長が説明する。「崩れた足場の下に埋もれていたので、丹念に捜索しなければ見逃すところでした」


弥助はしゃがみ、刀の鞘で油布の一角をめくる。木箱には奇妙な紋章が焼き押されていた——日本戦国のどの大名の家紋でもなければ、璃月やテイワット他国の記号でもない。眉をひそめ、作業員に箱をこじ開けるよう合図する。


蓋が開くと、周囲から驚きの囁きが上がった。中には精巧な火縄銃が整然と並べられ、銃床には同じ紋章と一行の外国文字が刻まれている。


「これは……」弥助の瞳が一瞬にして収縮する。この銃の姿、そして紋章の意味を彼は知っている——ポルトガル王室の紋章だ。


「ポルトガル人?」背後から夜蘭の声が届く。彼女はいつの間にか埠頭まで来ており、あの象徴的な薄紫の糸を手首に巻いていた。「豊臣軍が撤退したというのに、なぜ欧州勢力がこの港に残っているの?」


弥助は答えず、銃の列に視線を釘付け、無意識に柄を強く握り締める。記憶が潮のように押し寄せる——塩辛い海風、狭い船室、鎖の擦れる音、母が臨終の際に弱々しく差し出した手……


「弥助?」夜蘭は彼の様子の異変に気づく。


その瞬間、埠頭の反対側から喧騒と短い絶叫が響き、続いて火縄銃の発砲音が轟いた!


「敵襲!」警戒兵が叫ぶ。


弥助は記憶の渦から一気に引き戻され、刀を抜いて音のする方へ駆け出す。夜蘭もその後を追い、糸が生き物のように手首で踊り回る。


東埠頭では、奇妙な装束の外国兵たちが璃月の守備兵と交戦していた。三十人余りの彼らは欧州式の胴鎧と兜を身に着け、火縄銃と長剣を手に、規則だった連携で戦う——傭兵ではなく正規軍であることは一目で分かる。さらに目を引くのは、彼らに囲まれた指揮官だ。背の高い痩せた白人の男で、金髪に碧眼、華美な外交官服を身にまとい、腰に細い突剣を差している。


「銃を下ろせ!我々は戦いを望まない!」その特使は訛りの強い璃月語で叫び、配下に発砲を止めるよう合図する。「残された物資を回収しに来ただけだ!」


璃月の兵士たちは警戒を緩めず、武器を構えたまま対峙する。刻晴と甘雨も報を聞いて駆けつけ、速やかに部隊に包囲陣形を組ませる。


「ポルトガル人か?」刻晴は冷ややかな声で問う。「豊臣秀吉はすでに軍を引き上げた。なぜまだ璃月港に居座る?」


特使は優雅に一礼する。「私はポルトガル王国特使、ジョアン・デ・カストロである。我々は豊臣秀吉殿と協力協定を結んでいたが、これら——」西埠頭の方を指す「は我が王国の財産であり、必ず持ち帰らねばならない」


「璃月の公的許可なしに、いかなる外国軍人も武器を携えて港内に立ち入ることは許されない」甘雨の声は穏やかだが譲れない威厳に満ちている。「武器を捨て、検査を受けよ」


ポルトガル兵たちは顔を見合わせ、次々と武器に手をかける。空気が一気に張り詰める。


その時、弥助が人垣を押し分け前に出る。一歩一歩太鼓の音のように重く、全ての兵士を飛び越え、視線をポルトガル特使に向け——そして逸らす。


違う、彼ではない。


弥助の視線はさらに奥へと移り、特使の背後に控える副官に止まった。屈強な中年の男で、額から顎まで切り裂く凄惨な刀傷が走り、左耳は半分欠けている——多年前の奴隷暴動でついた傷だ。


時が一瞬止まったかのように静まり返る。


「ヌーノ…メンデス」弥助はポルトガル語でその名をつぶやく、その声は深淵から響く低い響きだ。


傷跡の副官は勢いよく顔を上げ、弥助の瞳と視線が交わった瞬間、顔の血がすっかり失せる。思わず一歩後退し、震える手で腰の火縄銃に手を伸ばす。


「お前…まだ生きていたのか?」ヌーノ・メンデスの声は恐怖で歪む。「あの黒い奴隷の小僧が…」


「黙れ!」ポルトガル特使が厳しく叱るが、手遅れだ。


弥助の瞳に燃え盛る怒りの火が宿る。長年埋めようとした過去、夜ごと彼を苦しめた記憶が一気に押し寄せる——


十五年前、西アフリカの海岸。幼い弥助は母と部族の者たちと共に、ポルトガルの奴隷商人に捕らわれた。率いていた男こそヌーノ・メンデス、残忍で悪名高い奴隷船長だった。


大洋を渡る航海は地獄そのものだ。狭く臭い船室、疫病、絶え間ない虐待……母はインドのゴアに着く前夜に息を引き取った。臨終の力を振り絞り、息子の手を握りしめて言った。「生きろ……自由に……生き続けろ……」


だが自由は遥か遠い夢だった。彼らはマカオに転売され、再びヌーノ・メンデスの船に乗せられ、目的地は日本だった。輸送費を抑えるため、虚弱や病にかかった奴隷は海へ投げ捨てられた。弥助は若く力強かったため生き残ったが、同胞たちが次々と海に消える様を目の当たりにした。


日本に到着後、彼らは海外の技術と兵力を求めていた織田信長に売り渡された。最初は荻花洲と帰離原の工事現場で雑役として働かされ、石を運び、基礎を掘り、少しの過ちでも殴られ、食料も満足に与えられなかった。あの冬、三人の仲間が帰離原の冷たい風の中で凍死し、簡単に土に埋められ、標すら立てられなかった光景を弥助は忘れられない。


転機は奴隷の暴動で訪れた。弥助は監督の虐待に反発して仲間を率いて立ち上がった。鎮圧されはしたが、その勇猛さが織田信長の目に留まる。信長はこの「黒人」を買い取り、武士の身分と名前を与えた——弥助、「従者」を意味する名だ。


身分がどれほど変わろうと、記憶は消えなかった。母の最期の眼差し、海に投げ捨てられた同胞の絶叫、帰離原の凍土に埋もれた名も無き墓……そしてヌーノ・メンデスの嘲笑う顔。


「弥助?」夜蘭が柔らかく呼びかけ、彼の瞳に渦巻く殺気に気づく。


刻晴も異変を察する。「この人たち、知り合いなのか?」


弥助は答えず、全ての意識をヌーノ・メンデスに集中させていた。母を奪い、同胞を殺し、自分の少年時代を全て奪った悪魔が、今目の前にいる。


ヌーノ・メンデスも弥助を見分けた。恐怖が過ぎると、腹立たしい怒りに変わる。「下等な混血め!海に捨てておくべきだった!」


勢いよく火縄銃を掲げ、弥助に狙いを定める。だが夜蘭の糸の方が速い——薄紫の糸が銃身に巻き付き、一引きで銃を弾き飛ばす。


「璃月港で武器を振るうとは」夜蘭は冷たく言う。「その結果を覚悟しておけ」


ポルトガル特使は顔を青くする。「誤解だ!ヌーノ、武器を捨てろ!」


だがヌーノ・メンデスは理性を失っていた。剣を抜き、怒鳴りながら弥助に突進する。「黒い獣め、死ね!」


弥助が動く。


華美な構えも、武士の決闘の礼儀も一切ない。単純かつ直接的に前に踏み出し、刀を抜き、一撃を下ろす。刀光が閃光のように空を切る。


「カーン!」


金属が激しくぶつかる轟音が響き渡る。ヌーノの西洋剣は一刀で真っ二つに折れ、折れた刃が回転して木箱に突き刺さる。弥助の刀勢は止まらず、刃はヌーノの喉元一寸手前で静止する。


現場は完全に静まり返る。ポルトガル兵たちは反応する間もなく固まっていた。


ヌーノ・メンデスは身動き一つ取れず、額から冷や汗が滴り落ちる。刃の冷たさが肌に伝わり、弥助の瞳に宿る底知れぬ憎しみを見つめる。


「なぜ……」ヌーノはしわがれた声で呟く。「なぜお前は生きている……こんなに立派に生きているのか……」


弥助の刀が少し前に進み、ヌーノの首筋に細い血筋を引く。「誓ったからだ。生き続ける、お前のような人間が……報いを受ける姿を見届けるために」


「十分だ」ポルトガル特使が一歩前に出る。顔は蒼白だが、外交官としての威厳を保とうと努める。「武士殿、配下の無礼を謝する。だが聞いてほしい、ヌーノ・メンデス船長はポルトガル王国の軍人であり、王国法に守られている。彼に傷をつければ、それはポルトガル王国への挑戦とみなされる」


「挑戦?」弥助はついに特使に視線を向け、瞳に温度がない。「人を売り渡し、奴隷を虐待し、侵略者を支援していた時、テイワット、傷つけられた全ての人々への挑戦だと思わなかったのか?」


特使は言葉を失い、黙り込む。


刻晴が弥助の隣に立つ。「璃月の律法によれば、奴隷売買は最重罪にあたる。さらに層岩巨淵の戦後、連合国が共同で締結した『テイワット反侵略条約』によれば、侵略者を支援した一切の行為は裁判にかけられる」


甘雨が補足する。「言うまでもなく、許可なしに武装した兵を璃月港に進入させたこともある。これらの罪状だけで、全員を拘留するに十分だ」


ポルトガル兵たちは動揺し始める。三十人に満たない彼らの周囲には、武装した数百の璃月軍が包囲している。


特使は歯を食いしばる。「外交紛争を引き起こしたいのか?ポルトガル王国は極東に強大な艦隊を保有している……」


「それがどうした?」夜蘭が軽く笑い、糸を空中で大きな網に織り上げる。「ここはテイワットだ。貴国が我が物顔で好き勝手できる場所ではない」


膠着したその時、空と申鶴が駆けつける。簡単な報告を聞いた後、空は弥助に問う。「この男がお前の仇か?」


弥助は肯き、刀は依然揺るぎなくヌーノの喉元に突きつけられている。


空はしばらく黙り、ポルトガル特使に話しかける。「二つの選択肢を与える。一つ目は、全ての武器と物資、そしてこの男を残し——」ヌーノを指す「璃月港を立ち去り、二度とテイワットの地を踏まないこと」


「二つ目は?」特使の声は乾ききっている。


「二つ目」申鶴が言葉を引き継ぎ、周囲に氷の力が漂う。「戦犯と奴隷売買の罪で、貴殿たち全員を逮捕し、公開裁判にかける」


特使の顔色は青から赤へ、赤から灰色へと変わる。包囲された配下、ヌーノの首に突きつけられた刀、四方に構える璃月軍を順に眺める。


最終的に肩を落として打ちひしがれる。「我々……一つ目の選択を選ぶ」


「殿!」ヌーノが恐怖で叫ぶ。「私を見捨ててはならない!二十年間王国に尽くしてきたのに!」


「黙れ!」特使は厳しく喝破する。「お前の身勝手な行動が、ポルトガルの利益を大きく損なった!」空に向き直る。「武器と物資、この男を全て残す。我々の無事な出港を保証してほしい」


空は肯く。「構わない。だがテイワットで行った全ての違法行為を認め、二度と戻らないことを誓う文書に署名してもらう」


協定は速やかに成立する。ポルトガル兵たちは武器と鎧を脱ぎ、璃月軍の監視の下、埠頭に係留された補給船へ向かう——彼らを乗せて逃れる唯一の船だ。


ヌーノ・メンデスは特殊な鉄鎖で縛られる——夜蘭が璃月の仙術を織り込んだ糸で作った拘束具で、もがけばもがくほど締まる。彼は総務司の地下牢へ護送され、正式な裁判を待つことになる。


ポルトガル人の船が水平線の彼方へ消える時、弥助は埠頭に立ち、遠ざかる帆影を眺め続けていた。夕日が海面を金紅に染め、複雑な思いが宿る彼の顔を照らす。


「どう扱うつもり?」夜蘭がそばに寄り、柔らかく問う。


「裁判だ」弥助は拙いが鮮明な璃月語で答える。「公開の裁判。全ての人に奴隷売買の罪を知らしめる。全ての人に……正義が届く様を見せる」


空が彼の肩を叩く。「最善の弁護士を手配し、公正な裁判にする。だがその前に……休め。十五年も追い続けた過去の亡霊は捕らえた。今こそ、本当に手放す時だ」


弥助はゆっくり首を振る。「手放すためではない。記憶するためだ。声を上げられなくなった人々、忘れ去られた苦しみを覚えておく。そして……前に進む」


彼は振り返り、復興途中の璃月港、自分に新しい生を与えてくれたこの街に向き直る。


「俺は弥助。かつて織田信長の武士、今は璃月の戦士だ」仲間たちに、そして自分自身に囁く。「俺の戦いは……まだ終わらない」


その通りだ。帰離原には最後の決戦が残っており、武田勝頼が頑強に抵抗している。平和はまだ完全に訪れていない。


だが少なくとも今日、十五年続いた悪夢に終止符が打たれた。新しい夜明けが海の彼方から昇ろうとしている。


夜が璃月港を包み、街のあちこちに灯火が次々と灯る。総務司の文書庫では、ポルトガル勢力のテイワットでの活動を詳しく記した報告書が作成されている。埠頭の工事現場では、作業員たちが歌を歌いながら片付けを続ける。地下牢の奥では、ヌーノ・メンデスが隅にうずくまり、自らの運命を待ちわびている。


埠頭に立つ弥助は最後に星空を眺め、それから待機する仲間たちの元へ歩き出す。


これからも戦いは待ち受けている。だが今回、彼は憎しみのためではなく、自分を受け入れてくれたこの土地を守るため、大切な人々を守るため、より公正な世界を作るために剣を取る。


帰港に残る戦火の余り火の中、新しい誓いが生まれた。

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