フォンテーヌ市奪還戦
バラは咲き、鉄の門は開かれる
フォンテーヌ市の下水道システムは地下深くに張り巡らされた暗闇の蜘蛛の巣であり、その複雑さは地上の街路さえ凌駕する。百年もの間、蒸気、汚水、機械の廃棄物が縦横に走る配管の中を流れ、独特で息苦しい生態系を形作ってきた。だが今夜、この汚れた地に湧き上がるのは廃水ではない。長く抑え込まれた怒りだ。
スピーナ・ディ・ロズラ会長ナヴィアは比較的乾いた点検用足場に立ち、特製の防爆ガス灯を手に提げている。その薄暗い黄色い光輪が、彼女の顔の剛毅な輪郭と復讐の炎を燃やす瞳を照らし出す。トレードマークだったドレスのロングガウンは動きやすい濃い青の作業服に着替えられ、腰に差した細剣「正義の心」が灯りの下で冷たく光る。彼女の背後には、スピーナ・ディ・ロズラ最忠実な構成員三百人、各地から集まったフォンテーヌ抵抗軍の戦士たち——総勢約二千人が控えている。
「諸君」
閉ざされた空間にナヴィアの声が響き渡る、澄んで力強く。「我々はこの光の届かぬ闇の中に長く隠れ、敵の足下でネズミのように生き延びてきた。彼らが我々の街路を踏みつけ、同胞を虐殺し、我が故郷を穢すのを見続けてきた」
彼女は一瞬言葉を切り、一人一人の顔を見渡す——そこには怒り、恐怖、そして何より長く抑圧された決意が刻まれていた。
「シャヴォレ隊長が犠牲になった時、私はすぐ近くの屋上から見ていた。クロリンデ様が戦死した時、彼女の最後の叫びさえ聞こえた」ナヴィアの声がわずかに震えるが、すぐに強い響きを取り戻す。「我々はあまりに多くの人を失った。ヌヴィレット様は囚われ、フリーナ様は行方不明。フォンテーヌ市の石板一枚一枚に、同胞の血が染み込んでいる」
彼女は「正義の心」を抜き、剣先を上方に突き上げる。「だが今夜、我々はもう隠れない。今夜、侵略者たちに知らしめよう——フォンテーヌの背骨は折れていない!スピーナ・ディ・ロズラのバラは、血と火の中で再び咲き誇る!」
「フォンテーヌのために!」
抑え込まれた雄叫びが群衆から上がる。
「シャヴォレのために!クロリンデのために!」
さらに多くの声が加わる。
ナヴィアは肯き、傍らの老執事に向き直る。「シルヴァ、城門側の準備は整ったか?」
三十年間スピーナ・ディ・ロズラに仕える老執事シルヴァは、今夜は戦闘装束に身を包んでいた。恭しく腰を曲げる。「お嬢様。計画通り、北門の下水道出口に火薬を仕掛けてあります。合図さえ上がれば出口を爆破し、門衛室へ直通する道が開けます」
「マイルスの方は?」
スピーナ・ディ・ロズラ護衛隊長マイルス——無口だが武術に長けた屈強な漢——重い声で答える。「精鋭三百人が配置完了、いつでも門衛を急襲できます」
ナヴィアは深く息を吸い、手の懐中時計を見る。これは生前シャヴォレが贈ってくれた品、文字盤には前回の襲撃でついた亀裂が走っている。
「午前三時、上杉軍の交代時間だ」時計を閉じる。「あと二十分。全員、最後に装備を点検せよ」
地下に緊張した静けさが訪れ、水滴の音と抑えた呼吸だけが響く。戦士たちは手の武器を確かめる——大半は自作の火縄銃、狩猟刀、鋼管を改造した槍。正規の小銃を持つ者はごくわずかだ。だが彼らの瞳には退く兆しなどない、爆発寸前の闘志だけが宿る。
時刻は一分一秒過ぎていく。
午前二時五十九分、ナヴィアが手を挙げる。
三時ちょうど。彼女は勢いよく手を振り下ろす。「行け!」
フォンテーヌ市北門。鉄と歯車で築かれた荘厳な建造物は、かつてフォンテーヌ工学の誇りだった。今は「毘」の字を染めた上杉軍の旗に穢されている。門衛室では直江兼続が夜間巡回の報告を聞いていた。
「兼続様、異状なしです」門衛隊長が報告する。「城壁には十二の歩哨、各二人で一時間ごとに交代。門には守備兵五百、機動部隊千人が兵舎で待機しております」
直江兼続は肯く。知謀に名高いこの将の顔には疲労が浮かんでいた。柔灯港が陥落し、水利施設が破壊されて以来、上杉軍のフォンテーヌでの情勢は急転直下した。今や璃月の大軍が迫り、層岩巨淵での決戦が迫る。後方拠点であるフォンテーヌ市だけは失うわけにはいかない。
「警戒を強めろ、特に下水道の出口だ」直江兼続が命じる。「ナヴィアと彼女のスピーナ・ディ・ロズラのネズミどもは地下に潜みすぎた。肝心な時に……」
言葉はそこで途切れた。
足下から激しい揺れが走り、続いて耳をつんざく爆発音が響いた。一発ではない、連鎖して——まるで地底に眠る巨竜が目覚め、頭で地面を叩きつけているかのように。
「何事だ!?」直江兼続は窓際に駆け寄る。
門の内側の地面が突然陥没し、巨大な黒い穴が姿を現す。濃い煙の中から数百の人影が潮のように押し寄せる。服はぼろぼろだが目つきは凶悪、あらゆる武器を振り回し、天を突くような叫びを上げる。
「フォンテーヌのために!」
「侵略者を殲滅せよ!」
スピーナ・ディ・ロズラと抵抗軍だ!
「敵襲!総員迎撃せよ!」直江兼続は刀を抜いて怒鳴るが、混乱はすでに始まっていた。
ナヴィアは真っ先に突撃する。「正義の心」は彼女の手の中で銀の稲妻となり、通り過ぎる先で上杉兵が麦藁のようになぎ倒される。彼女の剣術は優雅でありながら致命的——一太刀一太刀が敵の喉か心臓を的確に貫き、無駄な動作は一切ない。
「マイルス!兵を率いて門制御室を奪取せよ!」戦いながら彼女は叫ぶ。
「了解!」マイルスは精鋭の一隊を率いて門の制御室へ突進する。
だが上杉軍の反応は速い。鬼小岛弥太郎と宇佐美定満の二人の将が急いで兵を率いて駆けつけ、抵抗軍の突撃を食い止めようとする。
「慌てるな!数は多くない!」宇佐美定満が叫ぶ。「弓兵、放て!」
矢の雨が降り注ぎ、抵抗軍に死傷者が出る。だがナヴィアには策があった。
「盾隊、前に出よ!」
数十人の抵抗兵が急造の鉄板盾を掲げ、移動する壁を作る。粗末な代物だが、大半の矢を防ぐには十分だ。
「鉄砲隊、反撃せよ!」
盾の陰に隠れた鉄砲兵が発砲する。これらの銃は大半が敵の死体から奪ったもの、あるいはスピーナ・ディ・ロズラの秘密工房で模造したもので威力は低いが数が揃っている。一斉射撃で上杉の弓兵が一斉になぎ倒される。
「突撃!」ナヴィアは隙を見て部隊を率いて猛進する。
門内で凄惨な白兵戦が展開する。抵抗軍は装備で劣るが、死を覚悟した闘志で恐れ知らずに戦う。それ以上に重要なのは、彼らがこの土地の一寸先まで知り尽くしていること——ここは彼らの街、彼らの故郷だ。
鬼小岛弥太郎が自らナヴィアと相まみえる。上杉家の「鬼将」と恐れられる猛将は大斧を手に、一振り一振り大地を裂く力を宿す。
「スピーナ・ディ・ロズラの小娘が反逆を起こすとは?」鬼小岛弥太郎は冷笑し、大斧を振り下ろす。
ナヴィアは軽やかに横に躱し、剣先が毒蛇のように相手の手首を突く。「これは反逆ではない。解放だ」
二人は激闘を繰り広げる。鬼小岛弥太郎は怪力無双だが、ナヴィアは猫のように身のこなしが軽やか、致命的な一撃を寸前で躱し、隙が生まれた瞬間に反撃を加える。
十合交わした後、鬼小岛弥太郎の体には数本の傷が増えていた。怒りに狂い、斧の捌きが乱れ始める。ナヴィアは隙を捉え、膝裏の関節に剣を突き刺す。
「ぐあっ!」鬼小岛弥太郎は膝をつく。
ナヴィアに息をつかせる隙は与えない。二撃目が彼の喉を貫く。
鬼小岛弥太郎、討ち取られた。
一方、宇佐美定満はマイルスと激闘していた。この老将は経験豊かで刀法が穏やかだ。マイルスは勇猛だが次第に劣勢に立たされる。
「シルヴァ!」ナヴィアは叫ぶ。
老執事シルヴァは懐から特製の装置を取り出す——スピーナ・ディ・ロズラ工務部が開発した「音波共振器」だ。ボタンを押すと、装置から耳障りな高周波音が響き渡る。
宇佐美定満と周囲の上杉兵はたちまち目眩に襲われ、動きが鈍る。マイルスは隙を突いて斧を振り下ろす。宇佐美はやっとのことで刀で受け止めるが力が抜け、何度も後退させられる。
「今だ!」ナヴィアが駆け寄り、マイルスと挟み撃ちにする。
両面から攻め立てられた宇佐美定満の守りはついに崩れる。ナヴィアの「正義の心」が彼の胸を貫く。
「貴様たち……」宇佐美定満は目を見開き、ゆっくりと崩れ落ちる。
宇佐美定満、討ち取られた。
二人の将が戦死し、上杉軍の防衛線が揺らぎ始める。その時、マイルスは部隊を率いて門制御室を占拠した。
「お嬢様!制御室を押さえました!」高台から彼が叫ぶ。
「門を開け!信号弾を上げよ!」ナヴィアが命じる。
巨大な歯車が回り出し、鉄の門がゆっくり内側へ開く。同時に三発の赤い信号弾が櫓から打ち上げられ、夜空で燃えるバラのように咲き開く。
これは城外の璃月軍への合図だ。
フォンテーヌ市の五里外、璃月軍陣営。
李如松は望楼に立ち、夜空に咲いた三つの紅い花を見ると、直ちに命令を下す。「全軍進撃!計画通りフォンテーヌ市へ攻め入れ!」
待機していた璃月軍と明軍が進軍を始める。その最前線を進むのは特殊な部隊——フリーナが率いる「メロピデ砦劇団」と、柔灯港に上陸した後集まったフォンテーヌ抵抗軍だ。
「フリーナ様のために!」
「フォンテーヌのために!」
囚人、抵抗兵、庶民が入り混じったこの部隊は装備はばらばらだが士気は高い。フリーナに率いられ、上杉軍の防衛線を突き破る鋭い刃となる。
城門下ではナヴィアの部隊が援軍を待ちつつ死守していた。だが上杉軍の反撃は猛烈だ。直江兼続が自ら陣頭に立ち、後退する兵を数名斬り捨てて陣形を保つ。
「踏ん張れ!援軍は間もなく来る!」兼続が叫ぶ。「あの金髪の女を討ち取った者に千金を与える!」
さらなる上杉兵がナヴィアに押し寄せる。彼女の側の戦士は一人また一人と倒れ、防衛の輪は薄くなる一方だ。
「お嬢様、退きましょう!」シルヴァが焦って叫ぶ。
「退かない!」ナヴィアは断固として言う。「門は開いた、璃月軍は外にいる!我々は持ちこたえねばならない!」
彼女の視線は高台に立つ直江兼続に釘付けになる。この男こそ、シャヴォレが犠牲になった戦いを指揮した張本人。この男こそ、無数のフォンテーヌ抵抗者の処刑を命じた。
憎しみがマグマのように胸に煮えたぎる。
「マイルス、援護せよ!」ナヴィアが突然告げる。
「お嬢様、あなたは……」
「私が自らこの男を討つ。」
マイルスが答える暇もなく、ナヴィアは突進した。乱戦の中を駆け抜け、剣光の届く先で敵が次々と倒れる。直江兼続は彼女を見て刀を抜いて迎え撃つ。
「ナヴィア・ド・フォンテーヌ、スピーナ・ディ・ロズラ会長」直江兼続は冷ややかに言う。「早くお前を捕らえて殺しておくべきだった」
「今からでも遅くはない」ナヴィアは剣を構える。「貴様にその力があればな」
燃え盛る門の下で二人の決闘が始まる。直江兼続の刀法は円熟して周到、一太刀一太刀が攻め守り両方を備える。ナヴィアの剣術はより流動的——棘を持つバラのように美しく、致命的だ。
「誰に剣を学んだ?」攻防の隙間に兼続が問う。
「シャヴォレだ」ナヴィアは答え、左肩を突く。
兼続は受け流すが、ナヴィアは急に軌道を変え、剣先を上に跳ね上げ、彼の頬に血痕を刻む。
「この一太刀は、クロリンデ様のために。」
彼女は攻撃を続け、剣の嵐が襲いかかる。直江兼続は次第に劣勢になる。見た目華奢な貴族の娘にこれほどの武芸と執念が宿っているとは思わなかった。
「貴様……いったい何者だ?」息を切らして彼は問う。
「フォンテーヌの娘だ。」ナヴィアは最後の一突きを繰り出し、直江兼続の胸を貫く。「この一太刀は、貴様の手に死んだすべての同胞のために。」
直江兼続は目を見開き、何か言おうとするが血の泡が溢れるだけ。ゆっくりと崩れ落ちる。上杉謙信が最も信頼した軍師、知将は、最後まで軽んじていた女の剣下に倒れた。
直江兼続、討ち取られた。
主将が戦死し、上杉軍は完全に崩壊する。その時、璃月軍の先鋒が城門に押し寄せてきた。
「援軍が来た!」抵抗軍は天を衝く歓声を上げる。
李如松、フリーナ、行秋、重雲……諸部隊が潮のようにフォンテーヌ市へなだれ込む。上杉軍は後退を重ね、武器を捨てて降伏する者も多く、四散して逃げる者もさらに多い。
フォンテーヌ中央広場で、上杉謙信がこの光景を青ざめた顔で眺めていた。側に残る親衛隊は千人に満たない。
「殿、撤退しましょう!」副将が勧める。「巡軌船埠頭から逃げれば間に合います!」
上杉謙信は燃える街、歓喜するフォンテーヌの民、押し寄せる璃月の旗を眺め、最後に力なく肯く。
「撤退せよ。」
数ヶ月占拠しながら真に征服することのなかったこの街を最後に一瞥し、埠頭へと歩を進める。
フォンテーヌ市、奪回された。
夜明けが完全に訪れた時、ナヴィアとフリーナは中央広場で出会う。フォンテーヌの二人の女性——貴族ギルド会長と元アイドル——戦いで血にまみれながら、互いに笑い合う。
「フリーナ様。お戻りなさいましたね。」ナヴィアは礼をする。
「ナヴィア会長。あなたは私以上に立派なことを成し遂げました」フリーナは彼女を起こし、瞳に涙をたたえる。「フォンテーヌ……ついに自由になった。」
二人は肩を並べて広場に立ち、上がるフォンテーヌの旗を見つめる。周囲には歓声、抱き合う親族、喜びの涙を流す同胞たちが溢れる。
だが歓声の中、ナヴィアの視線は東、層岩巨淵の方角へ向けられる。
「戦争はまだ終わらない」彼女は静かに呟く。
フリーナは肯く。「だが少なくとも、我々は故郷を取り戻した。今は同盟者を助け、この戦争を終わらせる時だ。」
フォンテーヌ市の奪回は一つの都市を解放しただけではない。上杉謙信と織田信長主力の連絡路を断ち切り、層岩巨淵での最終決戦に有利な状況を作り出した。
遠く層岩巨淵で織田信長は、フォンテーヌ市陥落、上杉謙信退却の報せを受けると、ただ穏やかに茶を啜った。
「来るべきものは、必ず来る」浅井長政に言う。「最後の決戦に備えよ。フォンテーヌは失った。だが層岩巨淵で……ここですべてに決着をつける。」
碁盤は終盤に差し掛かり、最後の駒が落ちようとしている。
テイワットの運命は、層岩巨淵の岩壁の間で、最終的な裁きを受ける。




