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霊矩関破壊戦

風魔の影、璃月の悼み




霊矩関の山道に、月の光が清らかに降り注いでいる。


刻晴は関所の高台に立ち、紫の髪が夜風にそよいでいた。その眼光は稲妻のように鋭く、眼下の曲がりくねった山道を見渡している。甘雨はその傍らに立ち、長弓を構え、麒麟の角が月明かりに淡い青き光を放っていた。


「情報は確かなの?」甘雨が憂いを含んだ柔らかな声で問う。


「千岩軍の偵察兵が誤るはずもない」刻晴は指先で柄をなで、「千人を超える敵軍が霊矩関へ進軍している。だがその動きは不気味で、普通の軍勢とは様子が違う」


甘雨はうなずく。「私も感じる……空気に異質な気配が漂っている。まるで……」


「まるで影そのものが動いているようだ」刻晴が言葉を引き継ぎ、眉をひそめる。


その瞬間、遠く山道の果てから、一筋の火矢が夜空を裂いた。


それは進攻の合図ではない——死の予告である。




北条氏康の配下、風魔小太郎は霊矩関の外三里に生える古松の枝先に佇み、その姿は夜の闇に溶け込んでいた。背後には三百人の風魔忍者が影のように従い、音もなく静まり返っている。


「璃月の者たちは大軍が押し寄せると思い込んでいる」風魔の声は古井のように低く沈んでいる。「彼らは千人規模の軍勢に備えた防御態勢を整えている。だが影は城壁を正面から突く必要はない」


彼が合図をすると、三百人の忍者は黒い水の如く四方に散り、霊脊山の影の中に姿を消した。


風魔の目的は明確だ。武田信玄のため、璃月港へ通じる道を開くこと。霊矩関は必経の道だが、強攻すれば犠牲が大きすぎる。北条氏康と武田信玄の同盟には、この勝利が捧げ物として必要であり、風魔一族は最小の犠牲で最大の戦果を得る術に長けている。


「まずは見張り塔を制圧せよ」彼がつぶやく声が消えぬ間に、その姿は既に跡形もなく消えていた。




刻晴は突然、身に染みる寒気を覚えた。


「おかしい」彼女は振り返って甘雨に言う。「静かすぎる。もし大軍が迫っているのなら、鳥獣も反応するはずだ」


甘雨は目を閉じて精神を研ぎ澄ませ、麒麟の感知能力を極限まで広げる。「何者かが……影の中を移動している。数は多いが、一つ一つは小さく、ばらばらに散らばっている……」


言葉が途切れる間もなく、東側の見張り塔から最初の絶叫が響いた。


刻晴の瞳が大きく収縮する。「敵襲!正面攻撃ではない、潜入だ!」


彼女は高台から躍り出て、剣閃が紫の稲妻のように夜を切り裂く。甘雨もすぐ後に続き、矢を弓に番えた。


だが二人が目にした光景は、思わず息を呑むものだった——見張り塔の四人の千岩軍兵士が音もなく倒れ、喉には髪の毛ほど細い血痕が残っている。敵の姿はどこにもなく、ただ夜風がうなりを上げて吹き抜けるだけだ。


「いかなる戦術だ?」甘雨の声に、珍しく驚きが滲む。


刻晴は答えない。目で見るのではなく、武者の殺気を感じる直感で捉えていた。影がうごめき、壁の暗がりがまるで命を宿したかのように蠢いている。


「散れ!」彼女は一声喝し、甘雨を押しのける。


二人が立っていた地面が突然破裂し、黒衣の忍者三人が地中から飛び出し、手裏剣が雨あられと降り注いだ。刻晴は剣を円に舞わせ、金属が激しくぶつかり合う音が絶えない。


「忍術か?これはテイワットには稀な戦い方だ!」甘雨は矢を連続で放ち、氷の矢で忍者二人を封じ込めるも、三人目は煙となって消え去った。


刻晴の思考が瞬く間に巡る。「彼らは正規の軍勢ではなく、専門の暗殺者だ。我々の防御布陣は完全に見誤っていた!」


彼女は緊急の角笛を吹き鳴らすが、時既に遅し。


霊矩関の内部から絶叫が次々と響き渡る。三百人の風魔忍者は疫病のように関内に蔓延し、正面から戦うことを避け、暗殺・破壊・混乱を撒き散らしていく。千岩軍は訓練された精鋭だが、前例のない戦術に為す術もなく、陣形は瞬く間に崩れ落ちた。


「集まれ!背中合わせで防御せよ!」千岩軍の小隊長が大声で呼びかけた次の瞬間、影から伸びた小太刀が彼のアキレス腱を切り裂き、続いて苦無が正確に後頸に突き刺さった。


風魔小太郎自身は幽霊のように戦場を駆け巡る。標的は指揮系統の掌握だ。役人を一人討ち取るごとに、璃月軍の混乱は一層深まっていく。


刻晴の瞳に紫の電光が煌めき、雷の元素力が身の周りに奔流する。「甘雨、援護してくれ!奴らの頭目を探し出す!」


甘雨はうなずき、高所へ跳び上がる。矢の雨が滝のように降り注ぎ、一帯を氷結させて忍者の行動範囲を一時的に封じる。刻晴は紫の稲妻の如く戦場を駆け抜け、剣の下に十数人の忍者が倒れるも、それでは到底追いつかないことを悟っていた。


突然、黒い影が空から舞い落ち、甘雨に襲いかかる。


「気をつけろ!」刻晴は振り返って助けに入るが、別の黒い影が行く手を塞ぐ。


風魔小太郎がついに姿を現した。


体格は大柄ではなく、やや細身だが、全身から質感を持つ殺気が立ち込めている。仮面の奥の瞳は、寒い星のように冷めきっている。


「貴女は凡人ではないな」風魔の声は起伏もなく淡い。「だが暗殺に種族の別は関係ない」


刻晴は余計な言葉を費やさず、雷光を纏った剣で相手の喉元を突く。風魔は身をかわし、三つの幻影に分身し、四方から襲いかかってくる。刻晴は雷の力を爆発させ二つの幻影を打ち散らすも、三つ目は既に目前に迫っていた。


小太刀と長剣が激突し、火花が飛び散る。刻晴は驚きを隠せない。相手の武器には一切の元素力が宿っていないのに、並外れて堅固で、体術も精妙を極め、一挙一動が常に急所を狙っている。


「貴らは何者だ?なぜ璃月に侵攻する?」刻晴は攻防の間に問い質す。


「道を開く、それだけのこと」風魔の答えは極めて簡潔だ。「邪魔者は取り除く」


一方、甘雨は五人の上忍に取り囲まれていた。忍者たちは息の合った連携で、煙・手裏剣・針金を張り巡らせ、逃げ場のない罠を仕掛けている。甘雨は実力は高いものの、相手は距離を取らせてくれない。


「刻晴!奴らの狙いは関所だけではない!」甘雨が猛然と気づく。「防御機構を破壊している!」


まさにその通り。風魔忍者は役割を明確に分担していた。三分の一が混乱を撒き、三分の一が役人を暗殺し、残りの三分の一が霊矩関の弩砲・罠・城門を破壊している。彼らの目的は占拠ではなく、この関所の防御能力を完全に失わせることだ。


刻晴の心は重く沈み、戦術を変えねばならないと悟る。剣で牽制して後ろへ跳び、印を結ぶ。


「天街遊行!」


雷元素の分身が四方に飛び散り、風魔勢を一時的に押し戻す。刻晴は隙を見て関所の最高台へ跳び、戦場全体を見下ろす。


光景は身の毛もよだつものだった——千岩軍は死傷者が続出し、多くの者は敵の姿を見る間もなく倒れている。忍者たちは夜闇と影、霊矩関の複雑な地形を利用し、璃月の数的優位を完全に無にしていた。


「全兵士、中央広場に集結せよ!松明をすべて灯せ!追撃するな!」刻晴の命令は関所全体に澄んで響き渡る。


これが唯一の正しい対応だ。忍者の強みは闇と混乱にあるなら、闇を払い、混乱を抑えればよい。


だが風魔小太郎は、彼女が態勢を立て直す隙を与えはしない。影のように刻晴の背後に現れ、小太刀が背中を突き刺す。


刻晴は辛うじてかわすも、左腕に傷を負う。さらに悪いことに、傷口からしびれる感覚が広がってくる。


「刀に毒が塗られているのか?」彼女は即座に経絡を封じ、雷元素力を傷口に巡らせ、毒の蔓延を食い止める。


風魔は答えず、嵐のように攻め立てる。一挙一動が鍛錬に鍛錬を重ね、無駄な動きが一切ない。刻晴は次第に悟る、この敵の実戦経験は自分をはるかに超えており、その技は勝負のためではなく、無駄なく人を討ち取るためのものだと。


「甘雨!」刻晴が叫ぶ。


一筋の氷矢が飛んできて、風魔はやむなく回避する。甘雨は隙を見て刻晴と合流し、二人は背中合わせに構える。


「私たちは彼らを甘く見ていた」甘雨は息を弾ませて言う。「これは普通の侵入ではない……専門的な軍事作戦だ」


刻晴はうなずく。「頭目を捕らえねばならない。さもなければ軍心は完全に崩壊する」


二人は同時に元素爆発を発動する——雷と氷の力が絡み合い、広範囲に元素反応を引き起こす。超伝導が戦場に広がり、ついに影に隠れていた忍者たちを引きずり出す。


だが代償は甚大だった。元素の光が霊矩関を照らし出した時、目に映るのは敷き詰められた千岩軍の死体だった。千人の守備兵は半数以上を失い、忍者の犠牲はわずかなものに見える。


風魔小太郎は遠くの屋根の上で合図を送る。生き残った忍者たちは整然と撤退を始める。任務は完了した——霊矩関の防御システムは完全に崩壊し、指揮系統は麻痺し、士気は地に落ちた。


「逃がさん!」刻晴は怒りを込めて追撃しようとする。


「刻晴、待て!」甘雨が彼女を引き止める。「罠かもしれない。それに……関所には貴女が必要だ」


刻晴は歯を食いしばって立ち止まる。甘雨の言う通りだと分かっている。璃月七星として、最優先の責務は関所の完全な陥落を防ぐことだ。


風魔小太郎は最後に二人を一瞥した。その瞳には勝利の歓びなどなく、任務を遂げただけの穏やかさが宿っている。そして彼は影に溶け、姿を消した。


夜明け、第一筋の朝日が霊矩関を照らす頃、刻晴と甘雨は損壊した城壁の上に立ち、死傷者を数えていた。


千人の守備兵のうち、六百余人が戦死、二百人が重傷、ほぼ全員が何らかの傷を負っている。敵の死体は四十七体に過ぎず、大半は甘雨の矢に討ち取られたものだ。


「彼らは一体何者なの?」甘雨の声には疲労と戸惑いが滲む。


刻晴は一人の忍者から拾った苦無を手に見つめる。そこには見慣れぬ紋様が刻まれていた——北条家の三鱗紋だ。


「遠き異郷から来た敵だ」彼女はゆっくりと語る。「しかも彼らは先鋒に過ぎない。甘雨、直ちに璃月港に報告せよ。戦争の在り方は……既に変わってしまった」


遠くの山道では、風魔小太郎が片膝をつき、千里隔てた北条氏康に勝報を伝えていた。三百人の忍者は犠牲五十人に満たず、敵千人を殲滅、要衝の関所を破壊した。


任務完了。


だが彼の心に歓びは微塵もない。ただ、並外れた力を持つ二人の女への警戒心だけが残っている——彼女たちが見せた力は、この世界に対する彼の認識を完全に超えていた。


次に相まみえる時、万全の準備を整えねばならない。


霊矩関の月の光は依然として清らかだが、既に血に染まっている。そしてこの血の惨禍は、長き戦争の始まりに過ぎない。

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