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璃月港大虐殺

原神:璃月の血の夜


武田信玄、織田信長、豊臣秀吉の鉄蹄は璃月港を踏み砕き、

凄惨極まりない虐殺によって、栄華を極めた港は地獄へと変わり果てた。

十八万の民が港湾に血を染め、生き残った者は数少ない。


逃亡の途上、空は敵軍に左肩を斬られた。

彼が仲間たちと共に天衡山の側峰まで逃れ、振り返ると——

璃月港全体はもはや処刑場と化し、

敵将たちは楼閣の上で酒を酌み交わし談笑し、

誰が多く「異界の夷狄」を討ち取ったかを競い合っていた……




火が、最初に視界に飛び込んできた。

立ち込める煙はまるで撒き散らした汚れた墨のように、璃月港の蒼く澄んだ空を絶望の灰黒に汚し尽くす。かつて軒先が連なり朱塗りの柱が美しかった建物の多くは、今や廃墟となり、炎の中で苦しむように歪み、崩れ落ちていく。かつて千舟万船が停泊した港湾には、砕けた板材や見分けのつかぬ残骸が浮かび、海水は不吉な赭褐色に染まり、岸辺に積み上がった……屍体を幾度も洗い流していた。


空気には複雑で悍ましい臭いが充満している。硝煙の刺激臭、木や石が焼ける焦げ臭さを覆い隠すように、吐き気を催すほど濃厚な鉄錆の血の臭いが立ち込める。それは流れて河となり、大地に染み込んだ血のにおいだ。そこには肉と皮が焼ける悪臭、遠くから微かに聞こえる人ならざる哄笑と泣き叫び声が混ざり合っていた。


空は歯を食いしばり、左肩は引き裂かれるような激痛に襲われる。その一撃は唐突だった。炎に包まれた路地から具足をまとった兵士が飛び出し、兜の下には殺戮と欲望に歪んだ顔が覗き、理解不能な言葉を吼えていた。急所は辛うじて避けたものの、刃は深く肉に食い込んだ。温かい血が瞬く間に袖を濡らし、押さえた指の隙間からねっとりと溢れ出し続ける。呼吸するたび、傷口が鈍く疼きを増す。


「空!もう少し頑張って!」

雲菫の声が耳に響き、慌ただしい喘ぎと隠しきれぬ震えが宿っている。華やかだった戯服は煤と飛び散った血痕にまみれ、袖口は裂けていた。彼女は片手で空の右腕を支え、もう片方の手で倒れた兵士から奪った長槍を強く握り、穂先は微かに震え、槍の飾り紐は血汚れで固まっている。


八重神子は少し前を進む。普段一筋の塵も寄せ付けぬ巫女服も埃にまみれ、裾は幾箇所も裂けていた。彼女は珍しく黙り込み、いつも戯れの笑みを湛えていた紫の瞳は氷のように冷め、前方の危険が潜む隅々を鋭く見渡している。手には微かな光を放つ呪符を握り、いつでも発動できる態勢だ。辛炎は最後尾を守り、愛する楽器は行方不明となり、代わりに戦利品らしい重たい大剣を手にしている。顔には擦り傷が残り、ロック歌手らしい飄々とした雰囲気は抑えきれぬ怒りに塗り替えられ、絶望の地獄と化した港を振り返るたび、歯を食いしばっていた。


四人は狼狽と絶望に暮れる逃亡者たちに紛れ、天衡山の険しく曲がりくねった小道を這い上がっていく。この道は普段人通りが少なく、茨が生い茂り砂利が転がっている。一歩踏み出すたびに左肩は刺すように痛み、冷や汗が額の髪を濡らし、視界は時折霞む。


背後、璃月港の方角の喧騒は遠ざからない。金属が激しくぶつかる音、家屋が崩れ落ちる轟音、そして勝者たちが獣のように歓喜して吠える声、臨終の者の哀鳴りが入り混じり、息苦しい大きな網となって逃亡者一人ひとりの心を締め付ける。


焼け焦げた竹林を抜けると、真っ黒に焼けた竹の柱は空に突き上げられた絶望の指のように立っていた。女の切ない泣き声が風に乗って漂ってくるが、束の間で途絶え、代わりに一層増長した哄笑が響いた。辛炎の体は一瞬硬直し、剣の柄を握る指の関節は白く浮き、今にも引き返そうとしたところを八重神子に手首を押さえられた。神子は言葉を発さず、ただ首を横に振り、かつてない重々しい眼差しを向けた。


目立たぬ洞窟の入り口を通り過ぎると、中から子供の押し殺した泣き声が微かに漏れてくる。老人が洞口の陰にうずくまり、胸には凄惨な血の穴が開き既に息絶え、濁った瞳は灰色の空を虚しく見つめていた。雲菫は顔を背け、肩を小さく震わせた。


空の足元が突然滑り、砂利がザアザアと山下へ崩れ落ちる。急な動きで左肩の傷口が強く引きつり、彼は呻き声を上げ目の前が暗くなり、崩れ落ちそうになる。雲菫と辛炎が同時に支え起こした。


「もう……もう少しで山頂だわ」

雲菫は喘ぎながら、泣き声を堪えて言葉を紡ぐ。


いくら這い上がったか分からぬ頃、道はようやく緩やかになった。低い藪を抜けると視界が開け——ここは天衡山側峰の頂上、大きくせり出した岩の台地だ。


空は二人の支えを振り払い、ふらつきながら前に進み、崖っぷちに立つ。


そして、彼は目にした。


璃月港の全景が、遮るものなく足下に広がっていた。


かつて栄華を極め、七国の行商人が集い、船頭の歌声と街の喧騒が絶えない不夜城は、今や炎に包まれ血と業火が流れる地獄絵巻と化していた。


港のあらゆる場所が燃え盛り、黒煙が立ち込め、火の竜は街路を蹂躙し、燃えるものを全て飲み込んでいく。見慣れた玉京台、吃虎岩、緋雲坡……大半は面影もなく、炎の中に儚く残骸を揺らがせている。埠頭で、かつてパイモンとカモメに餌をやった場所には、数え切れぬ屍体が折り重なり、捨て置かれた荷物のように街路を埋め、川を塞いでいた。


異なる甲冑をまとった兵士たちが蟻のように街の残骸を行き交い、太刀や長槍を振るい、動く璃月の民を追い詰める。刀光が閃くたび、命は芥のように地に倒れる。錦の着物を着た商人が炎の店から逃げ出すと、たちまち足軽たちに囲まれ、四方から槍で貫かれる。兵士たちは民家の扉を打ち破り、絶叫する少女を引きずり出し、衣を引き裂く様子も目に入った。


略奪は白日の下で横行している。モラの箱、金銀の器、精巧な磁器、骨董や書画が店や民家から運び出され、街頭に積み上げられ、それぞれ紋様の封が押される。璃月千年の歴史を紡いだ文物、職人の心血が込もった芸術品は、無造作に戦利品のレッテルを貼られていた。


そして最も目を覆いたくなるのは、損傷は受けてもなお雄大な天守阁の最上階だ。


もともと璃月七星が議事を行い、璃月最高の権威を象徴する場所に、今は灯火がともり人影が揺れている。華やかな大铠をまとった風格ある将軍たちが欄干に凭れ、足下の血塗られた虐殺場を眺め談笑している。そして……杯を掲げる姿も見受けられた。


煙と血の臭いを含んだ山風が崖に吹き上げ、下から千切れて漂ってくる哄笑が届く。


「……信玄公……既に百七十三……討ち取った……」


「……はは……信長様は百八十九……あの老人もカウントだ……」


「……秀吉殿は先ほど……二人の童子……合わせて二百に達した……」


殺し……競争だと?


空の胸は激しく込み上げ吐き気に襲われた。肩の痛みではない。骨の髄まで凍える寒気が足元から一気に頭頂まで駆け上がり、全身の血が一瞬固まったかのようだ。十八万の璃月の民……生き残ったのは百人余り……冷たい数字が、眼前の屍山血河、耳に響く悪魔のカウントと激しく重なり合う。


「彼らは……こんな……」

雲菫も声を聞き、顔から血の気が完全に失せ、唇を震わせ言葉もままならない。ふらつき後ろに下がり、瞳の輝きは絶望と信じ難さに塗り替えられ、握りしめていた長槍はガチャリと岩の上に落ちた。


辛炎は傷ついた獣のような低い唸りを上げ、手にした大剣を脇の岩壁に強く振り下ろし、火花が飛び散る。「畜生!この悪党どもめ!」

彼女の怒号は崖間に響き渡り、無力さと憤りに満ちている。


八重神子は静かに佇み、山風が埃にまみれた髪と裂けた衣の裾をなびかせる。足下の地獄を見ようともせず、煙に覆われた重たい空を仰ぎ見た。横顔の輪郭は強く張りつめ、紫の瞳にはあらゆる感情が沈殿し、嵐を秘めた冷徹な静寂だけが残る。彼女は低く穏やかな声を紡ぐ、その響きはどんな怒号よりも心を凍らせる。


「どうやら……『神』が長くこの地を離れすぎたせいで、璃月の大地を守ってきた力を、忘れてしまった者も出てきたようね」


空は足下の炎と悲鳴に包まれた街、天守阁の憎らしい人影を見つめ続ける。左肩の傷は依然疼くが、その痛みはもっと深く熱い何かに覆い、飲み込まれていく。


それは悲しみでも恐怖でも、単なる怒りでもない。


それは刻み込まれた烙印だ。


血で洗い流し、業火で償わせねばならない烙印。


彼は怪我をしていない右手をゆっくり挙げ、強く握り締める。爪は掌に食い込み肉を裂き血が滲むが、彼はまるで気づかない。


金色の瞳の奥に炎が激しく揺らめき、自身を育んだ今は滅びゆく大地を映し出していた。


風が再び丘を泣くように渡り、灰を巻き上げ、安らぎを得られぬ無数の亡霊のように、彼らの周囲を旋回し泣き叫んでいた。

本編には史実を基にしたモデルがある。舞台は1937年に日本軍が南京を占領した後の出来事である。入城後、日本軍は街中で放火、殺害、略奪の暴虐行為を繰り返した。30万人を超える中国人が命を落とし、日本軍は老人や子供さえも容赦なく虐殺した。

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