シーン5 レティシアの驚き
赤い文字が、
静止した世界の中で浮かんでいる。
SYSTEM ERROR
WORLD CODE FAILURE
不気味な光。
まるで、
この世界とは別の何かが
無理やり表示されたかのようだった。
レティシアはそれを見つめる。
呼吸がわずかに浅くなる。
これまで彼女は、
どんな状況でも冷静だった。
舞踏会の断罪。
貴族たちの非難。
王太子の婚約破棄。
すべてに対して、
論理で対応してきた。
だが今、
その彼女の表情が
ほんのわずかだけ揺れる。
「……?」
小さな声が漏れた。
自分でも気づかないほどの、
かすかな動揺。
視界に浮かぶ文字。
赤い光。
理解できる意味。
だが、
理解できない存在。
レティシアはゆっくりと手を上げる。
指先が、
空中の文字へ近づいていく。
慎重に。
確かめるように。
そして――
触れた。
触れたはずだった。
だが。
指先は、
何も感じない。
抵抗も、
温度も、
感触もない。
ただ、
空気があるだけ。
文字はそこにある。
はっきり見える。
しかし、
存在していないかのようだった。
レティシアの指は、
そのまま赤い文字をすり抜ける。
彼女は手を止めた。
静止した世界の中で、
ただ一人動きながら、
空中を見つめる。
赤い文字は、
変わらずそこに浮かんでいる。
消えない。
触れられない。
まるで――
世界の裏側から投影されている表示のように。




