シーン2 第一証拠 ― 日記
レティシアが掲げた手帳。
それは華美な装飾のない、落ち着いた革装丁の一冊だった。
だが、その存在だけで舞踏ホールの空気は変わる。
「日誌……?」
「ただの手帳ではないのか?」
貴族たちがざわめく。
レティシアはゆっくりと手帳を開いた。
紙の擦れる音が、静まり返ったホールに小さく響く。
彼女は言う。
「これは私の社交日誌です」
落ち着いた声。
まるで当然のことを説明するように。
「公爵家の令嬢は」
レティシアはページをめくりながら続ける。
「日々の行動を記録します」
数人の貴族が頷く。
古い家の人間なら知っている。
それは貴族教育の一つだった。
時間管理。
行動記録。
社交の履歴。
すべてを書き残す。
レティシアは一つのページで手を止めた。
「ここには」
彼女は指で行をなぞる。
「授業時間」
「面会」
「移動」
「訪問」
淡々と読み上げる。
そこには細かく、整然と文字が並んでいた。
まるで帳簿のような正確さだった。
「学園での一日は」
「すべて記録されています」
レティシアは顔を上げる。
そして、カイルを見る。
「カイル様」
彼女は静かに言った。
「あなたは先ほど」
「私がリリア様へ暴言を吐いたと証言しましたね」
カイルが頷く。
「そうだ」
レティシアは日誌を軽く持ち上げた。
「その日」
「その時間」
彼女はページを示す。
「私は図書塔の授業に出席していました」
ざわっ――
舞踏ホールが揺れる。
レティシアは続ける。
「魔法史の講義」
「担当教師――エルドリック教授」
彼女はページの端を指した。
そこには、小さな署名があった。
授業出席の確認印。
教師の署名。
つまり。
公的な記録。
「証明はここにあります」
静かな声。
だがその言葉は重かった。
暴言があったとされる時間。
その時。
レティシアは
別の場所にいた。
それも、
教師の証明付きで。
ざわざわと貴族たちが騒ぎ始める。
「待て……」
「では暴言は?」
「時間が合わない……」
令嬢の一人が呟く。
「証言と……違う」
舞踏ホールの空気が、大きく揺れ始めていた。




