第5章 論破シーン1 証拠の宣言
舞踏ホールは、張り詰めた沈黙に包まれていた。
数百人の貴族が見守る中、レティシア・アルヴェルンは静かに立っている。
断罪された悪役令嬢。
そのはずだった。
だが今、この場の空気は完全に変わりつつある。
その中心にいるのは――
彼女だ。
レティシアはゆっくりと口を開いた。
「証拠を出します」
その言葉が落ちた瞬間。
ざわっ――
舞踏ホールが大きく揺れた。
「証拠だと?」
「何を言っている?」
「そんなものがあるのか?」
貴族たちの囁きが広がる。
アルフォンスが鋭く言った。
「証拠だと?」
王太子の声には、明らかな警戒が混じっていた。
レティシアはその視線を正面から受け止める。
そして、落ち着いた声で答えた。
「ええ」
短い返答。
しかし、その声には揺らぎがない。
「私が」
彼女は静かに言う。
「“やっていない”証拠です」
その言葉に、再びざわめきが広がる。
無実の証明。
それはつまり、
この断罪劇そのものを覆す可能性を意味していた。
アルフォンスの眉がわずかに動く。
「……何を出すつもりだ」
だがレティシアは答えない。
代わりに、ほんの少しだけ視線を横へ動かした。
そして。
小さく頷く。
それは合図だった。
ホールの端に控えていた人物が、一歩前へ出る。
黒い服を着た女性。
公爵家の使用人。
彼女は恭しく頭を下げると、
両手で一冊の本を持って歩み寄った。
舞踏ホールの中央。
レティシアの前まで来ると、
静かにその本を差し出す。
革装丁の手帳。
分厚く、
丁寧に使い込まれた記録帳だった。
レティシアはそれを受け取る。
そしてゆっくりと掲げた。
「これは」
彼女は言う。
「私の日誌です」
その一言に、
舞踏ホールの空気が再び揺れた。




