シーン10
リリアの肩が震えていた。
すべての視線が自分に向いている。
王太子。
貴族たち。
そして――
レティシア。
少女の唇が小さく動く。
「わ、私は……」
声が出ない。
言葉が続かない。
細い指が震える。
瞳が潤み、
次の瞬間、
ぽろり、と涙が落ちた。
だが。
それだけだった。
答えはない。
肯定も。
否定も。
ただ沈黙。
舞踏ホールは完全に静まり返る。
数百人の貴族が、
その沈黙の意味を考え始めていた。
(……見ていない?)
(まさか)
(では――)
その時。
「そう」
静かな声が落ちた。
レティシアだった。
彼女は小さく頷く。
まるで、予想通りの答えを聞いたかのように。
そして。
ほんの少し微笑んだ。
その笑みは、先ほどよりもはっきりしている。
余裕。
確信。
舞台の流れを完全に掴んだ者の顔。
レティシアはゆっくりと視線を上げる。
王太子。
証人たち。
そして社交界。
全員を見渡してから、静かに言った。
「では次に――」
短い沈黙。
舞踏ホールの空気が張り詰める。
そして。
レティシアははっきりと告げた。
「証拠を出しましょう」
その瞬間。
会場が凍りついた。
ざわめきすら起きない。
証拠。
今まで一度も出ていないもの。
そして、
この断罪劇を根底から覆す可能性のあるもの。
アルフォンスの目が見開かれる。
カイルが息を呑む。
レオンが顔を上げる。
リリアの涙が止まる。
レティシアは静かに立っている。
断罪された悪役令嬢。
だが今。
その姿は、
まるで裁判の主導権を握る検察官のようだった。
――反撃が始まる。




