34. 褪せた花の日々
三話ほど視点が飛びます。
つん、と鼻をつく独特の香りの満ちる小部屋の中に、ゴリゴリ、かちゃかちゃという二種類の音が響いている。
薬研を押し転がす中年の女が、まくった袖を額に押し当てて滲んだ汗を拭った。
女は側に居る少女にチラリと目を向けて、聞こえないように小さくため息をついた。
少女の熱中している作業に片が付いた頃合いを見計らう。
「ニナ様、そろそろ水をお飲みなさいな。身体がやられちまうよ」
細口の瓶を掴もうとしていたニナは、それを聞いてピクリと肩を跳ねさせた。
「朝の早い時間から手伝ってくれるのは嬉しいことだけどね、それでニナ様が身体を壊しちまったら私が族長に合わせる顔がないよ」
「……わかった」
ニナは一度手に持った小瓶を床に並べて、納屋からは少し離れたところにある台所へ湯冷ましの水を汲みに向かった。
納屋の出入り口から踏み出すと、中庭がよく見える。あるところを見れば紫色の花を付けたシュルムの蔓がこれでもかと積み上げられていて、またあるところを見れば大きな黄色の花と実を付けたスランカが紐で束ねられて山のようになっている。迷宮から産出された草花が並んでいる色とりどりの海の中を人がせわしく歩き回っているその様は、ここ最近の族長屋敷では最早日常となった光景であった。
ニナは積まれた花を踏み潰さないように気をつけながら、細い通路のように見える地面を辿った。
一つ一つの植物に視線をやりながら、いろんな人の話を盗み聞きして覚えたことを頭に思い浮かべる。
シュルムは肩や首の強ばりに効く貼り薬を作るためのもの、ボタンは頭痛腰痛や月のものに関わる辛さを和らげるもの、青のラルムは……ええと……
ラルムの効能を思い出すことができずに、ニナは唇を噛んだ。一昨日、島の外からやってくる行商人に必死にせがんで教えてもらったというのに、もう頭から抜け落ちてしまったらしい。
誰に聞けば教えてくれるだろうか。母様はきっといつものように、「貴女には別の仕事があるでしょう、花の事など気にしている暇があるのなら少しでも身体を鍛えなさい」とにべもなく突き返してくるだろうし、母様に睨まれながらも渋々仕事を与えてくれるライラにこれ以上負担をかけるわけにもいかない。
結論を得られないままに、ニナはどこか鼻の奥を刺してくるような香りの漂う中庭を抜けて、母屋の中に辿り着いてしまった。
台所に向けて足を進めていると、近くの部屋から大人たちの言い争う声が聞こえてきた。
「これ以上に薬の生産量を上げるなど、到底無理だ! ただでさえ食糧も少なくなってきたというのに、男も女も一日中働いているんだぞ。せめて我らの迷宮の主を倒すようにすればどうだ、これでは我らはむしり取られる一方ではないか!」
「無理な相談だな。迷宮の活性化のためにどこの島でも資源採集量ががた落ちしている現状、麦と鉄と金を重点的に回収して交易での収入を確保しなければ国全体が先細っていく一方とはお前達も理解しているだろう。我々の明日のために毎日のように命をかけて戦っている族長たちの戦団に少しでもいいから協力してくれと言っている」
「だが、魔導士を全て拠出しろといったのはそちらだろう……っ! 働き盛りの年頃の人夫を奪っておいて、尚のこと協力しろとはどの口がほざくのだ!」
「〈カルトゥール〉の迷宮踏破のために必要な人間を拠出するというのは何もお前達花の部族に限った話ではない、そのような当然の知識すら抜け落ちたのか? 花のザグよ、お前は改めて己の立場を理解するべきだ。ニラギは花なしでもやっていけるが、お前達花の部族はニラギなしではすぐに飢える。私は麦の代表としてわざわざお前達のためにこうして食い扶持を繋いでやっているのだぞ。いいか、薬は花の島が生み出せる唯一の価値なのだ。それを欠いてはお前達はいよいよ能なしの烙印を押されるだけだ……分かったなら首を縦に振れ」
「っ、く」
いたたまれなくなって、戸の隙間からのぞき見をしていたニナは足音をたてないようそっとその場を離れた。
勘定処の長をしている叔父のザグが麦の部族の使者の理不尽な要求に屈するところを見るのは、もう何度目になるか知れたものではない。
七つの密集した島からなる旧国ニラギでは、それぞれの島の迷宮から産出される資源を名の由来とする七つの部族が支え合って暮らしている。
麦、鉄、金、鳥、木、石、そして花。
互いの資源を互いに融通し合い、得られる交易収入を元手に不足する品を買い集めて分け合う、という形で、七つの部族は長い間慎ましくも不足のない暮らしを送ってきた。
───というのが、花の族長の娘として生まれたニナが教わった歴史である。
歴史は現在に繋がらない。
「不足のない暮らし」が実現している場面は、花の部族の中には存在しない。少なくとも、ニナが見てきたこの十年と少しの間には。
花の島の迷宮から産出される唯一の資源、つまり花には、薬にするか、それか観賞用の飾り物にするくらいしか使い道がない。薬にするといっても医術や治癒魔導という遙かに便利な魔導がある以上、大きな需要など存在しない。海を運ぶ間に生花は枯れてしまうから、美術品としての価値を遠くまで売り出すことも難しい。
花を扱うよりも漁を中心として生計を立てる人間の方が多いほどで、それだけに花の部族は生まれの島に対して誇りを持つニラギの各部族から軽蔑されている節があった。
今ああしてザグを追い詰めるのは、実質的に国を治める麦の部族の一人だ。多くの人間が毎日のように食する麦は常に国内外から求められる物資であり、そのため自然にニラギの中で最も重要な資源として数えられている。「麦こそニラギの君主」という自負を隠さない麦の部族は、花の部族に対してとても当たりが強い。
かつて、ニナは偽らざる思いを父親に吐き出したことがある。
たまたま麦の島に生まれたからって、そんなに偉いのか。私たちは花の島に生まれたからいけなかったのか。
花の族長はとても悲しそうな笑顔を浮かべてこう答えた。
「そういうものなんだよ、ニナ。どうして、と思ってはいけない。とにかく、そういうものなんだ」
その表情の裏側にありありと見て取れた長年の葛藤と諦観の重なりは、幼いニナの口からいとも容易く反論の端緒を奪い去っていった。
それからしばらく経って、ニナは国のしきたりに従い、父と同じように他の部族の人間と交流するようになった。
麦の島の港町にはニナが花の島では一度も見たことのないほどの活気がある。小麦粉や鶏肉で作った食事を提供する屋台には沢山の人が並んでいるし、異国から交易のためにやってくるのであろう見慣れぬ風貌の行商人がそこかしこをせわしく行き交っている。
他の島、例えば金や石の島からものを運んできて売っているらしい店もそれなりの数があって、繁盛しているとまでは言わないまでも店主の身なりをみれば十分な稼ぎを得られていることは明らかだった。
花の島の特産である薬の店は街の路地の方に追いやられるように位置していて、彼らの苦労を思うと、「ニナ様」と嬉しそうに声をかけてくれる店主らに対して笑顔で挨拶を返すのは、ニナにはとても心苦しかった。
花はこの国に必要ないんだ。
ニナの心に、父と同じ諦観が染みつき始めたのは、無理もないことだった。
台所に辿り着いたニナは、戸棚から小さな杯を取り出して、竈の側に置かれた大きな釜に沈めた。水が溜まったのを手で感じつつ引き上げて、口を付けて飲んだ。
ライラが心配していたようにニナの身体は水を欲していたようで、喉を潤す冷たい流れが渇きを癒やすのをしっかりと感じられた。
一息ついて、ニナはまた手伝いに戻ろうと台所の出入り口に足を向けた。
そこに、背後から声がかけられた。
「どこへ向かおうとしているの」
「……げ」
声の主が誰かは考えるまでもない。
「ニナ、手をお出し」
つかつかと近寄ってきたニナの母は、おそるおそる振り返ったニナの両手をつかみ、おもむろにその匂いを嗅いだ。
「やっぱり。また薬の仕事をしていたのね」
「別に、薬を作ってるわけじゃないし」
「屁理屈を並べ立てても無駄よ。手からすり潰された草の汁の香りがするのだから」
「母様の鼻がおかしくなっちゃったんじゃない? ほら、だって、庭にあんなに並んでるし」
「私が今更クオルの汁の香りを間違えると思う? ライラったら、あれほど言いつけたのに……」
弁解の隙を与えることなく、母は乱暴にニナの手を引いた。
「私が見てないとろくに弓も握らないのね」
「だって、今は薬を沢山作らないと」
「口答えする暇があるなら一射でも多く矢を射なさい。それだけがお前の取り柄なのだから」
言葉で頬をひっぱたかれた気分になって、ニナはきゅっと唇を結んだ。
ニナのために屋敷の奥隅にあつらえられた弓の練習場は、ライラの仕事場である納屋や花の積まれた中庭からすると屋敷の反対側にある。
つかつかと歩く母に引きずられるように進んでいく間にも、僅かに聞こえていた花を運ぶ大人たちのかけ声が遠のいていく。
「せめて魔導の一つでも使えれば良かったのだけど……どうしてこんな」
漏れ聞こえる小言は、きっと普段の鬱憤を晴らすためにわざと聞かせているのだとニナにもよく分かっている。
ニラギのしきたりの一つに、それぞれの族長に初めに生まれた子どもを必ず次の族長とするというものがある。彼ら彼女らは受け答えがはっきりできる程の年になると一所に集められ、迷宮の中で戦うための技を叩き込まれる。
どうしてこのようなしきたりが存在するかといえば、それはこの国の迷宮が持つ珍しい特徴のためだ。
この国にある七つの迷宮においては、迷宮の最奥に座する主を倒すことで、一般の迷宮であれば踏破報酬が出現するところ、それに加えて他の魔物がしばらくの間著しく弱体化する。
迷宮から産出される資源に頼って暮らすニラギの民は、常に魔物の脅威にさらされながら生活している。だから、族長たちは長たる者の責任として、人々が魔物の脅威を気にせずに花や麦を集められるよう、定期的に七つの迷宮に潜っては主を倒す。
そんな族長たちの戦団は、決まって麦の族長を頂点として構成される。なぜなら、麦の族長には、唯一無二の強力な魔導を扱う力が宿るからだ。
魔闘術と呼ばれるその魔導は、かつてニラギを邪なる神の魔の手から守るために戦った戦士に創世の神々から授けられた、戦うための力である。戦士はその力で、ニラギを七つの島に引き裂いた邪神を逆に引き裂き返したのだ、という逸話が伝わる。一度離散したニラギの民は再び寄り集まり、優れた戦いの技を持つ救国の勇士を中心として新たな国のかたちを作り上げた。それが今のニラギであり、〈カルトゥール〉なのであった。
花の族長の長女として生まれたニナも、当然次代の〈カルトゥール〉としての任を果たすために、厳しい修練にその身を捧げてきた。蔑まれがちな花の部族がこの国の中での地位を保つためにも、族長は周りから一目置かれるだけの存在でなければならない。
しかし、ニナに戦いの才能はなかった。
どんな魔導を使おうとしても手応えはなく、生まれつきのものなのか、いくら鍛えても女らしい細腕はただ日に赤く焼けるだけだった。
「器用さを生かせるから」と半ば無理矢理弓をあてがわれてからはずっと弓の扱いに習熟しようと努力をしているものの、父のような立派な戦士に育つには己の才覚は到底不足していることをニナはよく分かっている。
期待に全く答えられそうにないニナを見るときに、部族の皆や家族、特に母は落胆の感情を隠そうともしない。
ニナはそれが嫌で仕方が無かった。
───叶うことなら、私も母様や妹弟と同じように日がな一日薬を作っていたい。好きで武器を手に取っているわけでもないのに、どうして私ばかりが責められなければならないのか。
しかし、不満を言葉にするだけの勇気など、鬱屈したニナの心の中から湧いてくるはずもなかった。
昼前に、ニナは合わせの修練に参加するために数人の供を連れて麦の島へと向かった。
栄える港街の奥へと進み、麦の族長屋敷の前庭を横切って現れた門をくぐれば、七つの島の中でも最も大きな戦闘修練場が目の前に開ける。「お待ちしておりました」と恭しく頭を下げる麦の侍女が手にする細帯を受け取って、ニナは背中に垂れる髪を簡単にまとめた。
「……っ」
つきん、と手のマメに布の繊維が食い込んで痛みを発した。塗り込んでもらった軟膏の効き目はあまり良くないようだ。
結局、あの後母がずっとニナの側で薬を煎じていたから、仕事の手伝いにかこつけて弓の練習から逃げ出すことは叶わなかった。
時間をかけるだけで簡単に上達できるわけがないのだ、と説明しても、戦いについてはからっきしな母は理解を示してはくれない。だからニナは得るもののない鍛錬をひたすらに繰り返し、ただ身体をいじめるだけいじめて、そのくたびれた姿をして「努力」の実績とする。
その結果が、一日で一番大事な修練を前にして万全にはほど遠い今の状態なのだった。
痛みを押し殺しつつ従者が持ってきた弓を手に取り、背中に矢筒を背負って、ニナは修練場に足を踏み入れた。
太陽の照りつける白い砂地の上には、ニナと同じか少し年の若いくらいの子どもたちが揃っている。皆、ニナと同じように各部族の長の家に生まれ、生まれながらにして背負わされた役目のために身を捧げてきた者たちだ。
辺りを見回し、本来この場にいるべき人間がいないと気づいたニナは、得物の剣を素振りしている少年に声をかけることにした。
まだあどけなさの残る顔つきに似つかわしくない締まった身体を修練着の合間に覗かせる少年は、ニナが近くに寄ってきたことを察知して剣を振る手を止めた。
「ねえ、カンバ。ドルムの奴はまだ来てないの?」
「まだ来てねえな。もうじき来るんじゃねえの?」
木の子カンバはわずかに肩をすくめて答えた。
「ふーん。別に一生来なくても良いんだけどなぁ」
「こら、聞こえとんで」
そうやって背後から柔らかく突っ込んできたのは、金の娘サクだった。彼女に連れられるようにやってきた他の部族の子どもたちに軽く会釈をしつつ、ニナは別の質問を投げかけた。
「今日の相手は何なのか聞いときたいんだけど、知ってる?」
「荒くれ猪やねぇ。ウチの島の迷宮で大人たちが捕り物しとったわ」
「猪かぁ。狙いにくいんだよね」
「せやんなぁ、ちょこまか動き回るでまあ当てられやん」
「良いんだよ、二人は牽制だけしてくれれば後は俺たち男衆がなんとかするからさ。な」
カンバの投げかけに、背の高さに釣り合わない大盾を持った少年たちが頷いて答えた。ずんぐりした身体をしているのが鉄の子ガカル、背の低いのは六人の中で最も年少の鳥の子パム、利発そうな青みがかったくせ毛が石の子ロドガイだ。
「ほんま助かるわぁ、おおきんな」
「……ごめんね、魔導が使えればもっと」
「謝ることないだろ、ニナ」
ニナの言葉をカンバが遮った。
そのまま、カンバはニナの細腕をつかみ上げる。赤くなって熱を持ち、すり切れる寸前の手のひらが日の光に晒された。
「ニナがこれだけ頑張ってるんだって、俺たちは知ってる」
そうやってカンバが褒めたニナの手は、本当は未熟の証しだ。
弓の名手の手のひらはもっと綺麗で、小さいタコがいくつかの場所にあるだけなのだとニナには分かっている。きっと、カンバにも分かっているはずだ。
それでも、例え本心でなかったとしても、費やした時間を無駄ではないと肯定してくれるカンバの言葉は、ニナの心の濁りを遙か彼方まで拭い去ってくれる。
「あら、ウチにはなんもあらへんの?」
サクがカンバの前に顔を突き出して訊いた。
カンバが固まったのを面白がるように、細い手で「うりうり」と脇腹をつつく。
うっすら笑いながらロドガイがカンバの代わりに返事をした。
「いいじゃないか、サクはニナよりずっと図太いんだしさ」
「なんよ、それが女にかける言葉なん?」
「サクはカンバに同じことを言われたいのかい?」
「うん、気味が悪うてしゃあないな」
「じゃあみんな幸せだ。よかったよかった」
にこやかにサクと話を続けながら、ロドガイは固まったままだったカンバとニナをそっと引き剥がした。
「魔導を使えないのはみんなそうだしね。ニナ一人が僕たち「不作の世代」の責任を全部背負う必要もないよ……さあ、さっさと支度を済ませよう。もうじきドルムが来る」
ガカルが頷いて、ニナの方を見て告げた。
「俺の部族の治癒魔導士を呼んでくる。パム、俺の分の盾持っててくれ」
「いいよ」
パムは小さな身体で二人分の大盾を抱え、まるで甲虫のようだ。
ニナは「ありがとう」とガカルの背中に投げかけて、少し表情をほころばせた。
諦めと嫌味と束縛でできている大人たちの生きる世界とは違って、この場所はとても暖かい。みんながニナと同じようにどこかにやりづらさを感じていて、だからこその確かな仲間意識がある。だれも、花の部族だからといってニナのことを下に見ようとはしない。
とはいえそれは、
「んだよ、折角来てやったのに揃ってねえのかよ」
麦の子ドルムを除けば、の話だが。
何人もの供を連れてどかどかと修練場にやってきたドルムは、ニナの手を治すために魔導士を呼びに走ったガカル以外の五人だけが集まっている様を見て大きく舌打ちした。
「っぱ俺だけで迷宮にいた方が良いじゃねえか、おい」
「ドルム様、集団での戦いは集団で覚えるものですから」
「るっせーな、どうせ俺一人しか使い物にならねえんだから無駄だろって何回言えば分かんだよ」
「アルム様もお若い頃はこうしてお仲間との鍛錬に励まれたのです、どうか」
「ちぇ」
周りの大人たちにも決して劣らない大きな身体を揺らして、ドルムはざくざくと砂を踏みしめ五人の方に歩み寄ってきた。
「ガカルはどうした?」
「……私の手を治すために、治癒魔導士を呼びにいってるの。きっとすぐ戻ってくる」
まさか答えないでガカル一人に責任を押しつけるわけにも行かず、ニナは経緯を説明した。
ドルムは「あっそ」と返し、その後にニナをじろりと見つめた。
「磯臭いだけのお前の手なんか治して何になんだ?」
わっかんねえなー、と薄ら笑いを浮かべて五人に背を向けたドルムに対して、ニナは言い返す言葉を持たない。
言い返しても倍になって戻ってくるか、それか不機嫌になったドルムにこれからの修練で虐められるだけだと分かっている。
だったら、何も言わずに不快を圧し殺す方が余程実益に溢れている。
その時、ニナの横でかちゃりと金属の触れ合う音がした。
「カンバ、見られとんで」
間髪入れずに、サクの鋭い声がニナの耳を揺らした。
見れば、カンバは剣の鞘を固く握りしめていた。サクはそれが背後の大人たちに見えないような場所に立ち、そしてカンバの肩に手を置いていた。
「……くそったれ」
ドルムに聞こえないようにだろう、小さな声でカンバは呟いた。




