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才能ホルダー  作者: 雨宮結愛
第1章
9/18

『学王』



デバイスが起動すると、画面に複数のアイコンが表示される。


「じゃあ早速、脳とリンクさせよう」


咲島は子供のように、楽しそうに説明しながらゲームを進めていく。

それに従いまず、インストールされているソフト『学王』というものを脳内で考え選択。

すると、画面の学王アイコンが選択音と共に回転し拡大される。

《このゲームで遊びますか?【はい】【いいえ】》

と下部に表示されたので、俺は【はい】を選択した。

西円寺も選択が終わったのか、ソフトが起動しゲームがスタートする。

左上端には三台のゲーム機がリンクしている三角形のマークが表示されていた。

画面中央にサイコロと矢印型の針が出現すると、サイコロが二個転がる。

数字の分だけ針が時計まわりして、咲島のところで止まった。


「私が親だな、じゃ行くぞー」

「いや説明しろよ」

「おっと、忘れていた」


そう言って面倒くさそうに渋々説明する。

要するに、学王というゲームは親と子、つまり出題側と解答側で別れ、問題を攻撃として飛ばし相手のライフを削るゲームだ。

出題側はランダムに何千も表示される問題の難易度を見極め、子一人に対し五問選ぶ事が出来る。

今回の場合、俺と西円寺で計十問だ。

子はその問題を設定された制限時間内に解く事でダメージを回避する事が出来る。

そして、解いた時余った時間分がダメージに換算され、親への反撃になりダメージを与えられる。

この時親は回避する事が出来ない。


「大まかな内容はこんな感じだ」

「なるほど分かった、西円寺も大丈夫か?」


西円寺は画面に集中しているのか、何も言わずにコクリと頷く。


「時間はそうだな、一問一分の計十分でいこうか」

「それって難しいのかよ?」

「そうだなぁ、あの才人高校の生徒ならまぁ出来なくはないし、君らでもいける数字だな」

「じゃまぁ大丈夫か...」

「まぁ、親が私の場合、話が違うんだけどもね」

「は?」


それはどうゆう意味なんだと、聞く前に理解する。

咲島の背筋が凍るような視線に圧倒的な威圧感。

ひりつくような空気が実力を物語る。


「んじゃバーチャル化すんぞ」

「あぁ」


壁や物体、空間が半透明に透け、最終的に真っさらな白い空間が出来上がる。

頭上にはゲストという文字が浮いていて、2400と書かれたゲージが青く光っていた。

待った無しで始める咲島は、右の手の平を前にかざし右にスクロールする。

すると、多種多様の問題が表示された画面が現れた。

そして画面を真上にスクロールすると、その流れていく問題を信じられないスピードでタップし選択した。


「簡単に死ぬなよ?」


アルファベットが宙を舞い、文頭からはまっていくように連なっていく。

完成したのは百文字ほどの英文と、これまた英文で記された上の英文に対する質問。

つまり問題だ。

この難易度の問題を、一問一分で解かないとならない。


「これくらいなら...」


俺たちと咲島との間を一分間かけて進む問題文。

これを解いていけばいいはず...いや、何か俺は勘違いしている気が___


「そう、勘違いしてるよ」

「!?」


え?いま心を読ま___

「心を読まれたとか思っているだろう?分かりやすいね君は。まぁ厳密なことを言うと、計十分というのはただ単純に親が十問選べるという意味なんだよ。設定された一分というのは攻撃後のチャージタイムであり、弾数は十発なのさ。つまりどういう事か分かるかい?」


出題の問題とは関係のない問に思考が向いていこうとしていく。

チャージタイム?弾数?

つまりそれは___

と、思考を遮るように、横っ腹に強烈な蹴りが刺さる。

我にかえり西円寺を見ると、悪魔のような表情で出迎えられる。


「何すんだよっ!」

「...集中して」

「あん?」


西円寺に言われ、問題に視線を戻すと、先ほどの英文の問___

だけではなく、横一線に連なる十の問題文が視界に映る。

数学やら国語やら多種多様なうえに難易度の高い問題ばかりが迫ってきていた。

要するに、これを一分間で解かなくてはならないという事か。

奇襲が完全に決まり、動揺が隠せない。


「勝負はすでに始まっているんだよ少年」


まさか説明を簡略し、勝負中に細かいルールを伝達し乱してくるとは思わなかった。

教師のくせにずるい事をする。

気付けばもう時間がほとんど残っていない。


「ヤバい...!!」

「...任せて」


西円寺が思考すると同時に、一つずつ問題文にカーソルが固定されていく。

想像の反映だろうか。

西円寺の視線が各問いを捉えていく。

十個目が固定されると、西円寺は手をかざす。

すると頭上に、銃口が十個連結したロケットランチャーが出現した。


「ぶ、武器!?」

「...解答を、問題文にぶつけるイメージ」


接近中の問題文に対し放たれるロケット。

ほぼ同時に直撃し爆発すると、問題文は弾け、消し飛んで塵になる。


「十問同時解答とは面白いわね〜」


咲島の頭上には『咲島@ティーチャー』とアカウント名が表示されており、下の青いゲージの中の数字が6300から6000に減少する。

全問題三秒前だったからつまり、一秒10のダメージというところか。

ということはつまり、一分設定の問題が解けなかった場合600のダメージを喰らうわけだ。


「ゲージが0で負けか?」

「そう、つまり四問間違えたらゲームオーバーさ」


三問までは間違えられる。

いや、間違えるつもりはさらさらないのだが、この教師のペースで進める訳にはいかない。

四問間違えたらとは言うが、確認はしておく必要がある。


「で、それは二人で何問まで間違えられるんだ?」

「はははー、さすがここの学年トップだ。けど、疑い深い性格は嫌われるよ?」

「早よ答えんかいっ!」


俺の言葉を無視し、咲島は再び画面を展開した。

様々な言葉が画面から飛び出し飛び交いまとまっていく。


「問題は私の意志で標的に飛ばしている。と言えば分かるかな?」


いい性格してやがる。ゲームの続行進行をしながらのルール説明だけではなく、曖昧で、こちらに思考させるような回答。

こうやって考えてしまっている時点で策略は決まってしまっている。

しかし、おおよそ大体のことは分かった。


「西円寺!全問正解は出来るだろうが、ここは効率よくいこう。俺は右の問題から解く」

「...わかった」


すでに数秒は経過してしまっているが、一旦整理しなくては混乱してしまう。

要するに弾数で問題を放つという事は、十問を十分で解くという概念は無くなる。

出題された問題は単体であり、それぞれを一分以内に解かなくてはならない。

それを一瞬で十問選択してくるという事は、つまり一人あたり一分間で五問を解かなくてはいけない。

そして、俺らに対し標的の選択をしているという事はプレイヤーは個別であり、ダメージも標的のみに適用されるという事だ。

一問間違えたからといって二人ともダメージを食らう事はない。


「...あなた、アホなのね」

「ありゃ?」


西円寺の声で我にかえる。


「...結局、私が、全問解いた」

「すまん考え込んでしまった」


太ももに西円寺のフルスイングキックをお見舞いされ、細くなった瞳で睨まれる。

自覚して理解していたのに、まんまと咲島の策略にはまってしまっているのだから何も言えない。


「あっはっは!アホがパートナーだと苦労するね西円寺君。そんじゃ、遊びは終わりにしよっかね」


次に飛び出したのは言語___

ではなく、夥しい数の英数字。

組み上がる数式と英文の問はまるで壁のようだ。

数学とはまた違う物理式と化学式に英文のコラボ。

この問題、中学生に解かせようなんて...この教師本気過ぎる。

こればっかりは時間が無い。

慌てて俺は右手に銃を出現させ構えるが、


「あれ?撃てねぇ」

「...下手くそ」

「えっ?」

「少年は未だ脳内でのイメージが曖昧なのかな?今回はさすがに骨が折れるどころか、粉々に粉砕するレベルだぜ西円寺君?」


これは確かに、西円寺だけでは荷が重すぎる問題ばかりだ。

とにかく一問はまともに撃破しなくてはいけない。

イメージとは一体、具体的にはどんなのだろうか。

聞くも考えるも余裕なんて無い。

試行錯誤して、思考錯誤していくしかない。


「悪い西円寺、持ち堪えられるか?」

「...やれるだけ、やってみる」


ピリッと電気が走ったように感じた。


手には先程のロケットランチャーではなく、一つの複雑なルービックキューブ。

あらゆる計算式が渦巻いて、それに纏わりついていく。

どうやら、西円寺はあの難問を自力で解こうとしているのだ。

詰まらないように、無駄なくその未解明な世界を廻す。

あらゆる角度から、分解し、転がし、繋ぎ合わせる。

それはもはやルービックキューブのそれではなく、二七個の個体として散らばるパズルだ。

縦横無尽に右往左往するそれは、カチリと音を立て完成形に整うと、膨らむように変形し、鍵状の剣に変わった。

西円寺は、流れ出てきた鼻血を親指で拭うと、その剣を持ち走り出した。


「...まず、一問」


物理法則を無視した加速で距離を詰めると、その剣を差し込む。


「さすがだねぇ、西円寺君」

「...別に」


捻ると同時にそのまま崩れ去る数式は、床に散らばり消滅した。

信じられない。

本当に自力で解いてしまうなんて。


「チッ、くそっ、認めてやるよ」


西円寺は、紛れもなく天才だ。

コイツなら、解けない問題など無いと言い切れる。でも___


「...時間が...足りない」


残り時間は五秒を跨いだ。

九問を残しゲームオーバーなんて情けない。

せめて一人だけでも生き残って欲しい。

時間が迫り、問題が二分割された事で分かったのは、今西円寺が解いたのは西円寺の問題だったという事。

現在西円寺はきっと、自分の問題を解こうと思考しているはず。

だから、西円寺を生かすためにはどうしたらいいか。


「せめて一発、一発でいいから...出ろおぉぉぉぉおおおおお!!!!」


西円寺に六問、俺に四問放たれた問題は現在、西円寺に五問、俺は変わらず四問の状態だ。

西円寺が自力でもう一問撃破すると信じ、俺が西円寺の問題を一問撃破すればいい。

そうすれば俺はゲームオーバーでも、西円寺は三問分のダメージのみで生き残る事が出来る。


「りゃああぁぁああああ!!!」


解答をイメージし、それを弾として飛ばすイメージ。

俺は強く引き金を引いた。


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