『格の違い』
『ノレッジワールドオンライン』
参加二人/現在三百四十四名
-STAGE1-
【シンボルエンカウント】
浮かび上がる文字の前に転送される二人は、まず互いの調子を確認し合う。
現実ではない世界で身体を動かすのは初めてだった二人だが、問題無く正常に機能する手足。
「...これが、バーチャル世界」
西円寺はこの世界を見渡す。
建造物が一つもない真っさらなフィールドには三メートル感覚でマス目が無数に存在していて、各間隔に配置されいるモンスターらしきものが規則的に行動していた。
そのモンスターを視認すると同時に、頭の中に浮かんでくる問題文。
この不思議な感覚に、西円寺はテンションを上げる。
「...刺激、的ッ」
「開発途中のバーチャルシステムだが、さすがに圧巻だねぇ」
そう言いながら咲島は周りを見る。
数百もの学生達は皆疲労していて、無気力にただただ座っている。
絶望の表情まで伺えるところ、状況は最悪なのだろう。
「西円寺君、ではでは行きますか」
「...ん」
「ちょっと待ってくれ!」
後方から現れたのは一人の男子生徒。
制服を見るに才人高校の生徒だろう。
その生徒は、空間に何らかのデータを表示させると拡大させる。
「いま俺達が持っているこのゲームの情報だ。これで少しは楽になるはず」
ステージ5まであるこのゲームの情報、攻略本を受け渡そうとの事だった。
この人数で挑み、未だステージ3を突破出来ないほどの難易度なのだから、この行為は当然であった。
「このゲームに参加してしまった全員がすでにこのフロアで足を止めている。もうあなた達しか頼れる人がいないんです」
そう言って頭を下げる男子生徒は、全てをこの二人に託した___
だがしかし、
「いや、いらん」
「え?」
あっさりと断る咲島。
西円寺も同様に、要らないと目を細め首を横に振る。
「いやぁ、ゲームは基本的に攻略本を見ない主義なのだよ〜」
「...横に、同意」
唖然とする男子生徒を横目に、ゲームを始めようと歩き出す二人。
「私は何もしない。君がこのゲームを終わらせるんだ」
「...いいの?」
「あぁ、存分に力を試してくれ」
我にかえり、男子生徒は二人を止めようと慌てて前に出る。
「ちょっと待っ___」
バチッ
「へ?」
しかし、突如発生した静電気と共に少女の方を見失う男子生徒。
何が起きたのかと視界を広げると、ありえない速度でモンスターに接近していく少女を目撃する。
「嘘だろ?」
このゲームは簡単に言うと、ライフをゼロにしないでゴールに到着すればいいゲームだ。
モンスターの規則的な動きを予想し避けていけば無傷で突破する事が出来る。
もちろんモンスターを倒してもいい。
モンスターが視界に入ると、設定された問題文が頭に直接伝わるようになっている。
それを頭の中で解くと、"解答速度に応じて"身体が勝手にモンスターを倒してくれるようになっている。
そう、だから、驚愕するしかない。
見失うほどの速度に。
「何者なんだ?あの子は...」
「まっ、と言うわけで心配無用だ。攻略は私らに任せてくれよ」
「いやしかし、自分からモンスターに挑むなんて...」
間違えたり解答が遅れたりすれば攻撃を喰らいダメージを受ける。
ダメージを受ければ次のステージに響いてしまう。
だから、このステージは無傷で行くのが最低条件なのだ。
「そんなの、時間の無駄だろ...」
「おやぁ?君は少し勘違いしているみたいだねぇ。それでも才人高校の生徒かい?」
呆れつつも煽るように言葉を返す咲島は、西円寺を追い歩き出す。
そもそも、敵を避けて進行できるRPGなんてあるわけがないのだ。
出来たとしても詰まるのがオチ。
現在、ステージ3で詰まってしまっている現状のように。
「問題があるのに解かないなんて、テストじゃ0点だよ?少年」
それを理解しているであろう西円寺は端から順に打ち崩していく。
視界に入った瞬間に移動しては撃破し、次を捉える。
次第に物足りなくなってきたのか、イメージを膨らませ両手に刀を出現させた。
「...駆逐、して...あげる」
そう言ってニヤリと口角を上げる西円寺は再び加速する。
心なしか、モンスター達が少し震えている。
____ 数十分後、思う存分無双を続けた西円寺が、最後の一体を撃破する。
ノーダメージで突破していく二人を見ていた生徒達は、言葉を失っていた。
問題文は毎回ランダムで変更されるため、情報は常に真っさらな状態だ。
だから、正面から挑み無傷でいた者なんていなかった。
才人高校の生徒が解けない問題がいくつかあったのだ。
決して簡単な難易度ではない。
それを無傷で、いとも容易く。
全員が微かな期待を、帰れる期待を抱き、そして無自覚に、
彼らは自信を消失させたのだった。
◯
「面白いのが来たみたいだねっ」
電柱のような柱が密集し、足場となっている場所で、足をぶらつかせながら座る一人の少年は笑う。
空間に映し出されているのはステージ2の映像で、西円寺達を映していた。
ステージ1を完璧に、しかも初見で攻略した西円寺に好奇心を止められない。
「早く来ないかな早く来ないかなー」
立ち上がり、ルンルンと鼻歌まじりに柱から柱へとトントンと渡る。
そして、映し出されるもう一人の存在を視界に入れニヤリと笑った。
「オリジナルも、早く来なよ___ 」
一方その頃、
「本当はもう会いたくねぇんだが...」
成宮は、隣駅へと来ていた。




