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美少女が家族になった話  作者:


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七海の部活②

「……悠くん、少しだけ待っててくれる? 今日の練習、あと片付けだけだから」


七海が身を乗り出し、期待に満ちた瞳で俺を見つめる。その真っ直ぐな視線に、俺の心臓は再び大きく跳ねた。彼女の方からそんなふうに頼まれるなんて、予想外すぎて心拍数が収まらない。


「……ああ、わかった。入り口のところで待ってるよ」


俺が応じると、彼女はホッとしたように微笑み、自分の楽器の片付けへと戻っていった。その足取りが先ほどまでよりもずっと軽やかで、思わず顔が緩む。


俺は顧問の先生に会釈をしてから、音楽室近くの廊下で待つことにした。しかし、片付けを終えてぞろぞろと出てきた部員たちが、俺の姿を見つけるなり次々と足を止める。


「あ、さっきのOBの方ですよね! お疲れ様です!」


一人、また一人と人が増え、やがて小さな輪ができた。会話の流れで俺の卒業年度を伝えると、後輩たちは「ええっ!じゃあ東関東大会初めて行った代ですか!?」と一気に騒がしくなる。俺たちが初めて東関東大会出場を決めたあの年は、この部にとって歴史の転換点だったらしい。


「す、すごい……! その代の先輩だったんですね!」


尊敬の眼差しを向けられる中、一人の女子部員がニヤニヤとした笑みを浮かべ、不意打ちの質問を投げかけてきた。


「あの……さっき七海ちゃんと話してましたよね? 」


「ああ……ただの挨拶だよ」


俺が狼狽えて否定すると、別の部員も被せるように追い打ちをかけてくる。


「うそー! 七海ちゃん、あの時すっごい顔真っ赤にしてましたよ!」


「そうそう! 私たち七海ちゃんのあんな顔、見たことないです! いつもはクールというか、どこか儚げな感じなのに、先輩と話す時だけ別人のみたいで」


「ねえ、絶対何かあるでしょ! 先輩、七海ちゃんのことどう思ってるんですか?」


矢継ぎ早の質問攻めに、俺はたじろぎながらも、正直に答えることにした。あまりにはぐらかし続けると、かえって変な噂が広がりかねないからだ。


「……いや、そんな大したことじゃないんだ。ただ、俺たちの親同士が昔から仲が良くてね。それで知ってるだけだよ」


その言葉を聞いた瞬間、部員たちの目がパッと輝いた。


「待って、それって……もしかして親公認ってことですか!?」


部員たちが声を揃えて叫んだ、まさにその時だった。音楽室の扉が開き、楽器ケースを背負った七海が姿を現した。

俺と後輩たちの輪、そして何より「親公認」という際どい言葉が耳に入ったのだろう。七海は一瞬きょとんとした後、俺の顔と後輩たちのニヤニヤした表情を交互に見て、みるみるうちに耳の先まで真っ赤に染め上げた。


「……っ!? ……みんな、変なこと言わないでってば!」


七海が必死に抗議するが、後輩たちは「えー、だって本当のことでしょ?」「お似合いじゃないですか!」と、ここぞとばかりに囃し立てる。そんな彼女の慌てぶりを目の当たりにして、部員たちはますます楽しそうに笑い声を上げていた。


彼女は高校3年生だ。大学付属ということもあり、一般受験のプレッシャーこそないが、コンクールという大きな目標に向かって日々忙しく過ごしているはずだ。少しピリピリすることもあるこの時期だが、部員の仲は良さそうで安心した。


(こういう無邪気な表情も可愛いな)


部員たちに囲まれ、顔を赤くして困っている七海。その姿は、普段見せる表情とはまた違ってひどく眩しかった。


「七海がこうして楽しそうに笑い合っている姿を見られて、本当によかった」


俺が思わずそう口にすると、七海の顔はさらに赤く染まり、その身体が小さく震え始めた。

彼女のそんな反応の可愛さに、自分でも気づかないうちに、俺の手は彼女の髪へと伸びていた。柔らかな髪の感触を指先に感じて、自分が今、彼女の頭を優しく撫でていることに気づき、俺自身も少しだけ動揺する。



「……っ!?」



七海が驚いたようにこちらを見上げる。

周囲の後輩たちが、さらに「ひゅー!」「やばい!」「見せつけられたー!」と騒ぎ立てる声が聞こえるが、今の俺にはそんなことはどうでもよかった。


(……あ、やってしまった)


我に返り、慌てて手を離そうとした。後輩たちの前で、これは少しやりすぎだったかもしれない。

だが、俺が手を引こうとしたその瞬間。

七海が「あ……」と小さく声を漏らし、ほんの少しだけ残念そうに、名残惜しげな表情を浮かべたのが視界に入った。彼女は自分の頭から離れていく俺の手先を、どこか寂しげに見つめている。

その表情を目の当たりにして、俺の中でブレーキが外れた。


「……ごめん。驚かせたか?」


そう言いながら、俺はあえて手を離すのをやめ、もう一度だけ、今度は先ほどよりも少しだけ優しく、彼女の髪をそっと撫でた。


「……ううん。……驚いたけど、その……」


七海は俯いてしまったけれど、その声は先ほどまでの「変なこと言わないで!」という拒絶とはまるで違っていた。髪に触れる感触を通じて、彼女の体温が伝わってくる。



「行こうか、七海」


俺は彼女の髪からゆっくりと手を離し、今度は自然と彼女の隣へと歩き出した。

七海はまだ耳まで真っ赤だったけれど、俺の隣で少しだけ安心したように笑みを浮かべ、楽器ケースを抱え直した。

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