第二十五話:世界初のお化け屋敷
学園祭二日目。
飲食屋台で胃袋を掴まれた来賓たちを待ち受けていたのは、本祭の目玉――セラフィナ・プロデュース、アラリック施工による最恐アトラクション『魔法監獄お化け屋敷』だった。
会場となる旧校舎の地下室前には、昨日まで鼻で笑っていた他国のエリート学生や、屈強な聖騎士たちが列をなしている。
「ふん、たかが学生の催し物。暗闇で驚かせる程度のことが、我ら戦士の心胆を練ることなどできんよ」
「その通りだ。帝国の若手エースである我々に恥をかかせぬよう、精々頑張ってもらいたいものだな」
彼らの言葉に、受付に立つセラフィナは、優雅で残酷な笑みを浮かべた。
「ええ。皆様のような『勇敢な』方々にこそ、是非とも王国の最新魔法技術(とパパの悪ノリ)を体験していただきたくて。……どうぞ、奥へ。生きて戻られましたら、感想を聞かせてくださいませ」
その言葉の意味を、彼らはすぐに知ることになる。
◆
監獄の内部。
そこは、レベル88のアラリックが放つ【虚無の領域】。
一歩踏み込めば、魔力感知は遮断され、方向感覚は狂い、ただ「最も見たくないもの」だけが具現化する精神的迷宮だ。
「……な、何だ、この嫌な空気は……。おい、誰かいないのか!?」
先陣を切った帝国のエリートたちが、震える声で闇を睨む。
――ズズ……ズズ……。
背後から響く、重い足音。
振り向けば、そこにはアラリックが魔力を込めて作り上げた、超リアルな『トマトの魔神』が、血を滴らせながら迫っていた。
「ひ……ひぃぃぃぃぃぃっ!? なんだこれ!? 攻撃が通らない! 魔法が、魔法が吸い込まれるぅぅぅ!!」
「嫌だ! ママぁ! おうちに帰るぅぅぅぅ!!」
絶叫。
阿鼻叫喚。
アラリックが演出する「恐怖」は、単なる驚かしではない。
相手のトラウマを魔力で引き出し、それを実体化させるという、もはや軍事転用可能な精神破壊そのものだった。
◆
会場の外。
出口から飛び出してきた他国のエースたちは、全員が腰を抜かして四つん這いになり、あるいは涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにして地面を這っていた。
「……あ、あ、あり得ん……。王国の魔法技術は……ここまで、ここまで進化しているのか……。あれは……あれはもはや、地獄の門だ……」
聖騎士団の団長までもが、震える手で十字を切っている。
それを見ていた王国の重鎮や、陰で警備を担当していた父バルガスは、冷や汗を流して俺を見た。
「……アラリック。お前、流石にやりすぎではないか? 隣国の精鋭たちが、揃いも揃って幼児のように泣いているぞ」
「父上。……これは娯楽です。……それに、セラフィナの監修はもっと厳しかったのですよ? 『パパが世界で1番恐ろしいと思う幻影(闇堕ち聖女)』を入れるべきだって言うので、流石にそれは全員の心が折れるから却下しましたが」
「……お前たちの絆が、一番の恐怖だな」
バルガスは呆れ顔で溜息をついた。
◆
「パパ。……大成功ね」
恐怖の絶叫が響き渡る会場の影で、美緒が俺の腕に寄り添い、満足げに微笑んだ。
「ああ。……これで他国のVIPたちは、『王国の学園を怒らせたら、精神を壊される』と、深層心理に刻み込まれたはずだ。……セラフィナ、お前のアイデア、完璧だったぞ」
「ふふ、ありがとうパパ。……パパに褒められるのが、私にとって一番のご褒美よ」
俺は、彼女の頭を優しく撫でた。
「……さて。怖がらせる仕事は終わった。……次は、お前が一番輝く番だ。……ミスコンの準備、できているか?」
「任せて。……世界一のパパに育てられた私が、どれだけ完璧か……。あのアリシアに毒された人たちの目を、パパへの愛の輝きで浄化してあげるわ」
セラフィナの瞳が、自信と愛で強く輝く。
周囲では、『見守る会』のメンバーたちが、絶叫して倒れる他国のエースたちを背景に、「……恐怖の後に、お二人の愛という名の光。……究極のツンデレ演出ですわぁぁ!!」と拝んでいた。
――平和だな。
俺は、阿鼻叫喚の『お化け屋敷』の前で、誇らしげに胸を張る愛娘をエスコートし、次なる決戦の場――ミスコンの特設ステージへと向かった。
大陸中の視線が集まる中、俺たちの「最強の親子愛」が、いよいよ世界に向けて公認される瞬間が近づいていた。




