17.ゴールデンウィークの予定
明日からゴールデンウィークだ。
学校も休みだし、新聞配達のあとはゆっくり過ごそうかなと思っていると、呼び鈴が鳴った。
ピンポーン。
「はーい」
ドアを開ける。
そこに立っていたのは、大家さんの水森しずくだった。
「おはよう、あやめちゃん」
「おはようございます、しずくさん」
しずくは、いつものおっとりした笑顔で聞いてきた。
「あやめちゃん、ゴールデンウィークは休み取れるの?」
私は少し考える。
「新聞配達は週四日なので、週末の金土日はだいたい休みですよ」
「そうなのね」
しずくは嬉しそうに頷いた。
「じゃあ」
少し身を乗り出して言う。
「金土日のスケジュールで温泉に行きましょう!」
「温泉?」
思わず聞き返す。
しずくはうんうんと頷いた。
「知り合いがやってる宿があるの」
「知り合い?」
「ええ」
しずくはさらっと言った。
「妖精」
「妖精」
私は一瞬だけ沈黙した。
……最近、その単語を聞いてもあまり驚かなくなってきた自分がちょっと怖い。
しずくは気にせず続ける。
「ちょっと山の中の隠れた宿らしいの」
「すごくいい温泉よ」
「しかも」
人差し指を立てる。
「宿泊費とか気にしなくていいわよ」
「え?」
「羽を休めに行きましょう」
しずくはにこっと笑った。
私は少し考える。
温泉。
旅行。
しかも宿泊費なし。
……魅力的すぎる。
「行きます」
即答した。
しずくがくすっと笑う。
「即決ね」
「温泉ですから」
私も真面目に答える。
「それはそうね」
しずくは満足そうに頷いた。
「じゃあ、他のみんなにも声かけておくわね」
「金曜日の朝に出発しましょう」
「はい」
しずくは「楽しみにしてるわね」と言って、自分の部屋へ戻っていった。
ドアを閉めて、私は部屋に戻る。
「温泉か……」
久しぶりの旅行だ。
両親が生きていた頃は、年に一回くらい家族旅行に行っていた。
でも、あれからはそんな余裕もなかった。
だから。
ちょっと楽しみだ。
私はカレンダーを見る。
金曜日。
土曜日。
日曜日。
三日間。
「温泉」
思わず笑った。
「楽しみだな」
ちょっと山の中の隠れた宿らしい。
ゴールデンウィークの旅行。
久しぶりの遠出だ。
温泉。
旅館のご飯。
それに――
温泉卓球とか、あるのかな。
私はそんなことを考えながら、次の日の新聞配達の目覚ましをセットした。
少しだけ、わくわくしていた。




