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第16話 街の統治と治安維持

自治評議会設立から二週間。

わたくしは、また新たな問題に直面しておりましたわ。


「オズワルド、これは一体……?」

机の上には、街の住民からの苦情の山。


「隣の家の鶏が煩い」

「店の営業時間が長すぎる」

「子供たちが道で遊んで危険」

「ゴミの処理がいい加減」


「……頭が痛いですわ」


ぴぎぃ……

ピギィも疲れた様子で、机の下で丸まっています。


「クラリッサ様、これは避けられない問題です」

オズワルドさんが冷静に言いました。

「街が発展すれば、人が増える。人が増えれば、トラブルも増える」


「分かっておりますわ。でも、一つ一つ対応していては、時間がいくらあっても足りませんわ」

「その通りです。だからこそ――」


オズワルドさんが新しい書類を取り出しました。


「《アーシェ街条例》を制定しましょう」


「条例、ですの?」

「はい。街のルールを明文化し、全住民に周知する。そうすれば、トラブルも減ります」


「なるほど……」

わたくしは少し考えました。


「けれど、どんな条例を作れば良いのでしょうか?」


「既に草案を作成してあります」

オズワルドさんが分厚い書類を――。


「ちょっと待ってくださいまし!その厚さは何ですの!?」

「全百二十三条です」


「多すぎますわ!」


わたくしは思わず叫んでしまいましたわ。


「もっと簡潔にできませんの?」

「……善処します」


───


その日の午後。


《治安委員会》の会議が開かれましたわ。


委員長は、元盗賊団団長のグレゴール。

メンバーは、元盗賊たちで構成された護衛隊。


「グレゴール、最近の治安状況はいかがですの?」

「はい、クラリッサ様」


グレゴールさんが報告書を読み上げます。


「全体的には良好です。盗賊の襲撃はゼロ、魔物の侵入も激減しました」

「素晴らしいですわね」


「ただし――」


グレゴールさんが困った顔になりました。


「街の中でのトラブルが急増しています」

「トラブル、といいますと?」


「喧嘩、口論、商売上の争い、それに――」


彼は書類の一枚を指差しました。


「酔っ払いの冒険者が、《ぷにぷに喫茶》で暴れた事件が三件」

「まあ、そんなことが!」


ぴぎぃ!?

ピギィが怒ったように跳ね上がりました。


「誰ですの、わたくしの大切なお店で暴れたのは!」


「ガルドという冒険者と――」

「ガルドさん!?」


あの試験官のガルドさんが!?


「はい。酔っ払って、『紅茶戦隊クラリッサ隊、最高ー!』と叫びながら暴れたそうです」

「……」


わたくしは頭を抱えましたわ。


「他には?」


「ガルガさんが、ミルクティーのおかわりを要求して――」

「ガルガさん!?」


ガオォン!?

当のガルガさんが、会議室の隅で耳を伏せています。


「お、俺様は悪くねぇ!ただ、もう一杯欲しかっただけで――」

「脅したでしょう、ガルガさん」


リーナさんが呆れた顔。


「『おかわりをよこせ、さもないと噛みつくぞ』って」


「そ、それは冗談で――」

「冗談になっておりませんわ!」


わたくしは立ち上がりました。


「皆様、これは重大な問題ですわ。このままでは、街の治安が――」


その時、扉が勢いよく開きました。


「クラリッサ様ー!大変です!」

駆け込んできたのは、護衛隊の一人。


「市場で、大乱闘が起きてます!」

「大乱闘!?」


───


市場へ急行すると――。


そこには、信じられない光景が広がっておりましたわ。

冒険者たちが、取っ組み合いの喧嘩。


「《アーシェ・ブレンド》は俺が先に注文したんだ!」

「いや、俺だ!」

「何だと!?」


ドガッ!バキッ!

殴り合い。


別の場所では――。


「ピギィちゃんは俺の嫁だ!」

「何を言う、俺の嫁だ!」


ぴぎぃぃぃ!?

ピギィが困惑して逃げ回っています。


「ちょ、ちょっと待ってくださいまし!」


わたくしは魔法で水を出し、喧嘩している冒険者たちに――。


《アクア・スパイラル》!


ザバァァァ!


冒険者たちが、ずぶ濡れになって吹き飛ばされました。


「い、痛ぇ……」

「な、何だ……?」


「わたくしですわ」


わたくしは冷たい声で言いました。


「皆様、一体何をなさっているのですの?」

「あ、クラリッサ様……」


冒険者たちが、バツが悪そうに目を逸らします。


「紅茶の取り合いで喧嘩?ピギィを嫁にする争い?恥を知りなさい!」


ぴぎぃぃぃ!

ピギィも怒って、小さな炎を吐きました。


「ひいい!」

「すみません!」


冒険者たちが土下座。


「……はぁ」

わたくしはため息をつきました。


「皆様、このままでは街が無法地帯になってしまいますわ」


───


その夜。

緊急会議が開かれました。


「さて、皆様。本日の騒動を受けて――」


わたくしは宣言しました。


「《アーシェ街条例》を、明日より施行いたしますわ」


「クラリッサ様、条例の内容は?」

グレゴールさんが尋ねます。


「オズワルド、簡潔版をお願いしますわ」

「はい」


オズワルドさんが書類を読み上げます。


「《アーシェ街条例》、全二十条――」


「第一条:街中での喧嘩、暴力行為を禁ずる。違反者は罰金銀貨十枚」


「第二条:公共の場での泥酔を禁ずる。違反者は一日の牢屋入り」


「第三条:営業時間は日の出から夜十時まで。違反者は警告」


「第四条:ゴミは指定の場所に捨てること。違反者は清掃作業一週間」


「第五条:《ぷにぷに喫茶》での暴れ行為は厳罰。違反者は紅茶禁止一ヶ月――」


「ちょっと待て」

ガルガさんが手を挙げました。


「紅茶禁止一ヶ月って、死刑宣告じゃねぇか!」


「それだけ重い罪ですわ」

わたくしは冷たく言いました。


「わたくしの大切なお店を荒らすなど、許せませんもの」


かぷぎぃ!

ピギィも賛同するように跳ねます。


「続けますわ、オズワルド」

「はい。第六条:ピギィへの求婚行為を禁ずる――」


ぴぎぃぃぃ!

ピギィが全力で賛成。


「違反者は、紅茶禁止三ヶ月」

「三ヶ月!?」


冒険者たちが悲鳴を上げました。


「厳しすぎませんか、クラリッサ様!」

「厳しくありませんわ。ピギィは大切な仲間ですもの」


かぷぎぃぃぃ!


「……他の条例も、似たようなものですね」

オズワルドさんが苦笑しながら言いました。


「基本的に、違反者への罰は『紅茶禁止』が基本です」

「紅茶禁止……」


冒険者たちが青ざめています。


「そ、それだけは勘弁してください!」

「だったら、ルールを守ることですわ」


わたくしは微笑みました。


「ふふ、簡単でしょう?」


───


翌日。


街の各所に、条例の看板が立てられました。


そして――。


「《治安維持隊》、結成ですわ!」

わたくしは広場で宣言しました。


「グレゴール、あなたが隊長。元盗賊の皆様が隊員ですわ」

「了解しました、クラリッサ様」


グレゴールさんと護衛隊が整列します。


「それと――」

わたくしは冒険者ギルドの方を見ました。


「冒険者の皆様にも、協力をお願いしますわ」

「協力?」


ガルドさんが首を傾げます。


「ええ。《治安維持協力員》として、街のパトロールをお願いしたいのですわ」


「パトロールかぁ……」

「報酬は、一回につき銀貨五枚。それと――」


わたくしは微笑みました。


「《ぷにぷに喫茶》での紅茶、半額サービスですわ」


「やります!」


冒険者たちが即答。


「紅茶半額なら、喜んで!」

「俺も協力する!」

「ピギィちゃんにも会えるし!」


ぴぎぃ!?


「ただし、条例を破った者は除外いたしますわよ?」

「「「承知しました!」」」


冒険者たちが真剣な顔。


「よろしい。では、本日より《アーシェ治安維持体制》、始動いたしますわ!」


わああああ!


民衆から拍手。


───


それから一週間。

街の治安は、劇的に改善されましたわ。


「クラリッサ様、報告です」


グレゴールさんが満足そうに言いました。


「喧嘩の件数、先週比で九割減です」

「素晴らしいですわね」


「泥酔者もゼロ、ゴミのポイ捨てもゼロ」

「完璧ですわ」


「それに――」


グレゴールさんが笑いました。


「冒険者たちが、積極的にパトロールに参加しています」

「ふふ、紅茶半額の効果ですわね」


かぷぎぃ!


「ただ――」


グレゴールさんが少し困った顔。


「条例違反者が三名出ました」

「まあ、誰ですの?」


「ガルドさん、それに冒険者二名」

「何をしたんですの?」


「《ぷにぷに喫茶》で、酔ってピギィちゃんに求婚しようとしたそうです」


「……」


わたくしは立ち上がりました。


「では、罰則を執行いたしますわ。紅茶禁止三ヶ月」


「ひいいい!」

ガルドさんの悲鳴が、ギルドから聞こえてきましたわ。


───


その夜。

《ぷにぷに喫茶》にて。

わたくしたちは、治安維持体制の成功を祝って乾杯しておりましたわ。


「条例、予想以上に効果的だったな」

ガルガさんがミルクティーを飲みながら言いました。


「ええ、紅茶の力は偉大ですわ」


ぴぎぃ!


「でも、クラリッサさん」

リーナさんが心配そうに言いました。


「紅茶禁止の罰則、本当に効果的なんですか?」


「効果的どころか、絶大ですわ」


わたくしは微笑みました。


「この街の人々にとって、紅茶は生活の一部。それを奪われることは、何よりも辛いのですわ」

「なるほど……」


「恐ろしい統治法ですね」


オズワルドさんが苦笑しました。


「紅茶で街を支配する領主、ですか」

「支配だなんて。ただの愛ですわ」


かぷぎぃぃぃ!

ピギィが賛同するように跳ねます。


「さて、これで街の治安も安定しましたわね」


わたくしは窓の外を眺めました。

夜のアーシェ。

街灯が灯り、人々が安心して歩いている。


「次は、何をするんだ?」

ガルガさんが尋ねます。


「決まっておりますわ。農業改革と工業育成ですわ」


「……お前、休む気ないのか?」

「休んでいる暇はありませんわ。やることは山積みですもの」


ぴぎぃ……

ピギィが疲れた様子。


「でも、今日はゆっくり休みましょう。明日からまた頑張りますわ」

「そうだな」


ガルガさんが尻尾を振ります。


「たまには、ゆっくり紅茶を楽しむのもいいかもな」

「ええ、その通りですわ」


わたくしは紅茶を一口飲みました。


温かい。

優しい味。


「ふふ、やはり紅茶は最高ですわね」


かぷぎぃ!


――《茶の香る街アーシェ》は、今日も平和。

紅茶と条例と、少しの厳しさで統治される、不思議な街。


けれども、そこに住む人々は皆、幸せそうですわ。

わたくしの夢は、着実に実現しつつありますの。


――つづく――


「あ、そうだ。オズワルド」

「はい?」


「次の条例に『毎日紅茶を飲むこと』を追加してはどうでしょう?」

「それは流石に独裁ですよ、クラリッサ様」


「そうですの?」


ぴぎぃぃぃ!

ピギィは大賛成のようですわ。


夜の《ぷにぷに喫茶》。

今日も、紅茶の香りが優しく漂っておりましたの。

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