98.同化
ゾークの魔術無効の鎧に手も足も出ないルミナ。
試行錯誤し攻撃をするルミナだったがゾークにはほとんど効かず、追い詰められる。
絶体絶命に追い込まれたルミナを救ったのは氷葬竜イグナ=へルヴァルの核だった。
『あの勇者の小僧の選択は正しかったようだな』
ルミナは原始竜の試練が始まる前のやり取りを思い出した。
【イグナ=へルヴァルの核はルミナが持っていてくれ。俺はグラウがいるし、リリスも何か竪琴に精霊的なものがいるみたいだし・・・】
ライナはそう言いルミナに核を渡した。
『いつ我を使ってくれるのかずっと待っていたのだがな』
イグナ=へルヴァルは低く唸る。
「ごめんなさい。すっかり忘れてた」
『だろうな』
イグナ=へルヴァルが少し残念そうに答えると、ルミナの周りに氷の結晶を落とす。
体に触れるその結晶は冷たいどころか逆に温かかった。
ルミナの体の傷が癒やされていく。
「身体が・・・」
ルミナがゆっくり立ち上がる。
さっきまで指一本動かすだけで身体が悲鳴を上げるほどの痛みが一切合切消えていた。
『もう少し時間があれば完全治癒できたが、あやつがそれを許してはくれんだろ』
ルミナとイグナ=へルヴァルの視線の先にはゾークが構えていた。
「太古の魔物、氷葬竜イグナ=へルヴァルか・・・。魔術を無効化するこの鎧を突き抜けて尋常ならざる魔力が体に伝わってくる」
ルミナは切迫した表情を浮かべる。
ゾークにあの鎧がある限り魔術は無効。
イグナ=へルヴァルが加わった所で、魔力だけで存在してる竜では勝ち目は薄いと考えていた。
そんな考えを見透かしたかのようにイグナ=へルヴァルは口角を上げた。
『小娘。お主の懸念材料はあの鎧だな?』
ルミナは無言で頷く。
『我を誰と思ってる?氷葬竜ぞ。あの程度の効果の鎧など造作もない』
「本当?」
『ああ。お主たちと戦った時は本来の力の半分も出せてなかったからな』
ルミナは一筋の光明が見えるのを感じた。
鎧の効果を貫く強さを持ってるなら勝てる。
『だが、あの鎧を攻略するためにはお主の力も必要だ』
「私の?」
「うむ。我の核をお主と同化させよ。無論、グラウみたいにお主の体を乗っ取るつもりはさらさらないから、そこは安心しろ。だが、我と同化するという事は、我の魔力も継承するという事。この意味が分かるな?」
ルミナの喉が鳴った。
「イグナ=へルヴァルの膨大な魔力に私の身体が耐えきれなかったから死ぬ」
『その通りだ。どうす・・・』
ルミナはイグナ=へルヴァルが聴き終わる前に核を掴み自分の体に押し込んだ。
「迷ってなんかいられない!!どのみちこのままだと死ぬだけなんだから。少しでも可能性のある方に賭ける!!」
イグナ=へルヴァルの核が眩しく輝きルミナの体の中にゆっくり入り込んでいく。
「何を企んでいるのか知らんが、させんぞ!!」
ゾークが大盾を構え突進してくる。
「あ、あぁ、アァァアアアアアア!!」
ルミナの体から迸る魔力が溢れ出てくる。
溢れ出てくる魔力により発生した暴風にゾークが押し出される。
「私が押し負けてるだと!?」
ゾークは大盾を前に進もうとするがルミナとの距離は縮まらない。
そうしてる間にもルミナは声を苦しそうに上げている。
ルミナの体はあちこち裂け、そこから血と共に魔力が噴き出している。
イグナ=へルヴァルの核はまだルミナの身体に入りきっていない。
入ろうとしていく度にルミナに激痛が走る。
『どうする?今ならまだ引き返せるぞ?だが、拒絶すれば二度と同化はできぬ』
イグナ=へルヴァルはルミナを試すかのように問いかける。
ルミナは返事をしないが、代わりに痛みに耐えながら核を手で押し込んでいく。
その行動にイグナ=へルヴァルはもう何も言わなかった。
「アアアアアアアアアアアアアア!!!!」
ルミナの身体からは更なる魔力が溢れ、目からは血が流れ出す。
ゾークは一度後ろに下がり、戦鎚を構える。
「武技で葬ってやる」
ルミナが目で捉えられなかったゾークの武技【轟閃雷槌】。
その武技で繰り出される速度でルミナに近づき今度こそ息の根を止めるつもりのゾーク。
「近づきさえすれば、我が鎧があの暴れ回る魔力に触れ打ち消す。それと同時に終わりだ。ルミナ・セレフ!!」
轟閃雷槌の構えを取るゾークに、ルミナは苦しみながらも目を開けるがどうする事もできない。
(ゾークの・・・言う・・・通り。今、近・・・づかれ・・・たら、終わ・・・る)
ルミナは必死にイグナ=へルヴァルの核を自分の体に取り込もうとするが気持ちとは裏腹に身体は核を拒絶するかの様になかなか核を取り込まない。
「ゆくぞ!!」
ゾークが後ろに下げた足に力を入れる。
(もう・・・だ・・・め・・・)
【私は逃げない】
試練の時に誓った言葉を思い出す。
(そう、だ・・・。私は三人の中なら弱い。弱いけど二人に追いつくと誓った!!)
(それに私は独りじゃない。二人は私を信じてここを任せてくれた。だから感じる。二人と心が繋がってるのが。私は・・・)
「私は、自分を超える!!」
そう口にするとイグナ=へルヴァルの核がルミナの体にするする入り、完全に入りきった。
入りきった瞬間、ルミナの中からイグナ=へルヴァルの声が聞こえてきた。
『ギリギリだったな。アドゥ=ラグナスも無茶な賭けをする』
(賭け?)
『お主はどうしても他の二人と比べたら一つ二つステージが下になってしまう。それは試練を乗り越えたとて同じだ。だからアドゥ=ラグナスは一計を案じたのだろう』
イグナ=へルヴァルは一呼吸置いて再び語る。
『ルミナ。お主の真の最終試練は今だ。我を託された時に思いついたのであろう。あの試練は我の力に耐えうる力を備えるための心・技・体の準備段階だったのだ。そして今お主の力は開花した。今のお主を止めるのはあの二人でも難儀であろう。だから自信を持って目の前の敵を殲滅するのだ』
ルミナの体から白い魔力がゆっくり溢れ出る。
「イグナ=へルヴァルの魔力を感じる・・・。冷たいけど温かい」
ちょうどその時ゾークも魔力が溜まりきっていた。
「ふむ。弱りきってるところを攻撃するのは騎士道に反すると思い躊躇していたが、これで全力で攻撃できる!!」
ゾークは更に魔力を溜め始める。
「限界の更に向こう側!!今のお前には私の全て以上の力でぶつからねば危険だと直感が告げてる」
「それを私が待つとでも?」
ルミナの冷たい視線がゾークに突き刺さる。
ゾークは全身に悪寒が走った。
これほどまでに恐怖を感じたのはいつ以来だろうか・・・・。
「無駄だ。私にこの鎧がある限り、どんな魔術も・・・」
「じゃあ、あなたは何で今”魔力を溜めれるの”?」
ゾークは驚き体がビクッとする。
「普段は闘気を使って戦ってるんだろうけど、武技?を放つときだけ魔力を集めてる。でもそれっておかしいよね?魔力を打ち消す鎧を全身に纏ってるのに魔力が使えるなんて」
ルミナは少し俯き加減で淡々と話す。
「本当に”鎧の力”なの?」
ルミナの鋭い指摘にゾークはニヤリと笑う。
「さっき騎士道がどうとか言ってたけど、騙し討ちなんて騎士がする事じゃないわ」
ゾークは力を溜めるのをやめない。
「ヒャハハハハ!!!よ〜く見破ったな。いや、轟閃雷槌をモロに喰らって、なお生きていたからこそ見破れたのか・・・。その通りだ。この鎧は、ただのミスリルの鎧。本当の魔術を打ち消す効果を持ってるのは俺自身で〜す!!」
先ほどまでとは打って変わってゲスい声を張り上げるゾーク。
「それがあなたの本性なのね」
「騎士らしくしてれば、相手も正々堂々と馬鹿みたいに真正面から突っ込んできてくれるからな」
ゾークはそう言うと戦鎚と大盾と鎧を脱ぎ捨て、体を伸ばしたり首の骨をポキポキと鳴らした。
鎧の中からは人間で言えば四十代ほどに見える頬がこけた長身のガリガリの男が現れた。
ゾークはルミナを舐め回すようにニタニタしながら見る。
「人前で鎧を脱ぐなんざ、いつぶりだろうな?」
「自分自身が魔術を打ち消す存在なら、魔力を溜め込んでたのもブラフ?でも・・・」
ルミナの問いにゾークは一笑する。
「悪いな・・・」
ゾークは一瞬でルミナの背後に回り込んでいた。
「効力はON・OFFが可能でな、そして魔力はとっくに溜め終わってたんだよ」
ルミナの耳元で囁くゾーク。
振り返ろうとするルミナにゾークは容赦なく背中を手刀で貫く。
ルミナは口から血をこぼす。
「さ〜て、溜めた魔力をこのまま解放させてもらっちゃおうかな〜?そうしたら跡形もなく吹き飛ぶなあ〜」
ニヤニヤ笑いながら弄ぶかのように貫いた腕をぐりぐりと回す。
「痛すぎて声も出ないか?そうか、そうか、ならもう少し魔力はこのままにしておいて遊ぼうか!?」
ゾークがルミナの体を貫通してる腕を抜こうとした時、異変を感じた。
抜けない。
どれだけ力を入れても、びくともしない。
「あ?」
ゾークは魔力を腕に集中させ抜こうとするが魔力が通ってる感じがしない。
ゾークがルミナの顔を覗き込むと冷笑をしているルミナの顔が見えた。
「無策で私に触れるなんてバカね・・・」
ゾークの腕がどんどん凍りついていく。
「な、何だこれ!?離せ!!」
ゾークがルミナに殴りかかるが寸前で氷の壁が張られる。
ゾークは腕を凍り付かせていってるのもそうだが何故魔力で張られた氷が溶けないのか混乱する。
「ちゃんと効果は発動してるわ。でも消された側から瞬時に凍り付かせたり、氷の壁を張ってるのよ」
「だとしても、そんなやり方をすればすぐに魔力が枯渇するだろうが!!」
「魔力は私と同化したイグナ=へルヴァルの核から使用してるから私には何ともないわ」
その話を聞いたゾークはゾッとした。
「さあ、イグナ=へルヴァルの魔力が尽きるのが先かあなたが倒れるのが先か、勝負しましょう」




