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バベルの翻訳家〜就活生は異世界で出会ったモフモフと仕事探しの旅を満喫中!〜  作者: 天壱
Ⅳ.着地

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39.移住者は詰める。


「サウロ!こっちだ!!真っ直ぐ!!」

「真っ直ぐだな……?!」


見た目はエルフの男が大通りを横切っても頭の上に狐を乗せていても、殆どのエルフは気にしなかった。

その衣服から田舎者かとはわかっても、もともと異種族も外部の仲間の入れ替わりも多い城下の街では目で追うほどのものではない。誰かに追われている様子もなければ余計にだ。


ルベンとサウロがソーの帰りを待つまで、十分も保たなかった。

いつまで経っても戻ってこない、ソーを連れていったエルフも戻ってこない中ルベンが様子を見に行くと言えばサウロも同行した。

もともと慣れない場所で、いくら歓迎されようと干渉されずにいようと、ソー不在では落ち着くわけもない。


突然揃って歩き出した客に、店員もお待ちくださいと待ったをかけたがエルフ族でもない二人はまったく意に返さなかった。

常識が通じた女性客と共に急遽担当交代を名乗り出た担当スタッフが消えていることに気付いた店員達も、裏で状況を整理している時だった。


彼女は賭博に最近はまっているようだった、お金に困っている様子だったと示し合わせれば、大金を持っている様子だった女性客を攫ったのではないかと結論に辿り付くのも時間はかからない。そうなれば、一番バレてはいけないのが彼女と行動を共にしている二人組だ。

店員が客を攫って行方をくらますなど、店としても最悪の事態だった。しかも連れの二人組も片方は自分達と同種のエルフだと思えば、誤魔化しきれるものではない。

大口のオーダーメイド服を今日この場で着ていく客を前に職人も、そして他の客の相手で店員も気付くのが遅れたとはいえ最悪のスキャンダルだ。どうにか穏便に、今衛兵を呼びますと言われても二人はずんずんとソーの匂いを追っていった。


ソーが去って行った匂いをルベンが辿れば、着替え部屋ではない従業員用裏口でパタリと匂いが途切れていた。

扉を開けてみれば、外に通じているだけで誰もいない。ただ馬車の後が残っていたところで、ルベンもサウロも迷わず飛びだした。ソーの匂いが出て行ったことが間違いない以上、残す可能性は自分達が置いて行かれたかもしくは攫われたかのどちらかしかありえない。

そしてソーに置いて行かれることこそ二人の中では絶対有り得ない。ならば残すは誰かに攫われたと考えるのが当然だった。

サウロの頭に乗りソーの匂いを道案内するルベンと、サウロの足でソーの匂いが薄まる前に追う。


辿り付けばそこは、エルフの集落でも大通りからは外れた高層ビルのような構造の集合住宅だった。

大きな湖を囲うように、木製の高層住宅がいくつも連なっている。自然の水を好むエルフ達が都会で大勢、そして安く住めるようにと湖の回りに挙って建てられた建造物だ。港町になれたルベンの目にも山育ちのサウロの目にも珍しいものだったが、今は観光を楽しむどころではない。

ソーの匂いを所狭しと並んでいる集合住宅の一つに絞ることはできても、巨大な建物のどこにいるのかまでは外からルベンの鼻でもわからなかった。


「おいなんだお前!!ここは俺らの縄張りだぞ出てけ!!」

「なんだこのでけぇの!?」

正面入口から一つ一つ部屋を確認するしかないと入ろうとするサウロをエルフ達は不審がって追い出そうとしたがサウロも微動だにしない。

ぞろぞろと出てくるエルフ達からソーの匂いはしないかと確認してみたが、ルベンほど確信は持てなかった。外からスキルを使って風でソーの匂いを集めてみたルベンも、うっすら匂いはするとわかってもやはりどこの部屋にいるかまで特定は難しい。

十階建てはあるだろう建物に、高い位置になればなるほどに風を使っても匂いは掴みにくい。自分達のいる入口側だけでなく、正反対の湖側にも窓はある。湖の匂いと混ざられると余計に探しにくかった。

匂いを探っている間にも、建物からはわらわらとエルフ達がサウロを押し返そうとに群がってくる。次第に湖の匂いにソーの匂いが飲まれていく感覚に、苛立ちと共にルベンが声を張った時だった。



「『ルベン!!』」



ここにいる、捕まっていると。そう叫ぶソーの遠吠えは最上階から降ってきたが、狐族のルベンとオーク族のサウロにははっきりと聞き取れた。

眷属同士の会話だ。狐族の言葉を発しても、サウロにもはっきりとそれがソーの言葉として理解できた。ソーの居場所さえ理解できれば、もう迷う二人でもない。


「今行く!」と答えたルベンが返事をするよりも先に、サウロが巨大な身体をエルフの群がる正面入口へとねじ込んだ。

人間よりは体格もすらりと高いエルフ族の住処でも、集合住宅の廊下はサウロが腰を曲げないと通れない幅だった。サウロ一人が通れば、廊下の上も下も右も左も残りの幅がなくなりみっちりと詰まる。サウロの肩の上に飛び移ったルベンは、なんとか隙間に収まったがそれでもクロスボウを構える以外の動きは難しい。


最初こそ武器も持たない、ただエルフ語で喚いて手足で押し出そうとするだけのエルフ達だったが、次第にナイフを持ち出してくればルベンも容赦しない。

オークの固い皮膚にナイフはいくら勢い良く振り下ろしても刺さらないが、それでもナイフを持ち出してきたエルフには迷わずクロスボウを打ち放つ。そしてその間、サウロは武器を構えるどころかナイフ相手に出されたところで足を止めることもしなかった。

ドスドスドスドスドスドスと、ただひたすらにソーの声がした階に辿りつくまで廊下を歩き、階段を見つけては登り続ける。


サウロを同種族だと思い込んでいるエルフ達は狐さえなんとかできればと思ったが、その狐までナイフでは手が届かない。

高身長のサウロの肩の上にいるのに手が届く前にサウロの長い腕に突っぱねられ押し飛ばされた。まるでハエや蚊のように簡単に払いのけられ、逃げ帰ってきたエルフ達が最上階へ報告に辿り付いた時にはすぐ背後にサウロもいた。

これ以上先に階段がなくなったまま逃げ帰る彼らを逆に追えば、ルベンだけでなくサウロの鼻にも掴めるほどソーの匂いが鼻に引っかかる。


「ッソー‼︎」


歯を食い縛り、それでも我慢できずに呼び掛ければ予想よりも早くその声は返ってきた。

サウロ、と聞きたかった声で返されたところで、彼の限界は越えた。


ルベンが「ソーだ」と言うより先、エルフ達がソーの口を塞ぐよりも前にサウロの腕が動いた。

背負っていた斧へ腕を回し持ち上げれば、カタンとケースが開く。わざわざ肩から下ろすまでもなく鞘のように引き抜けた。

初めて使う違和感のない使い勝手に驚く間もなく、太い腕でぐるりと斧を薙ぎさせる。斧に届く範囲だけではない、振り回された範囲が綺麗に斜め一線に切り裂かれた。進むのにもソーの姿を確認するにも、邪魔な天井をひと振りで薙ぎ払う。


凄まじい轟音響かせながら建物の屋根ごと天井が切断面を滑るようにして崩れ落ちた。


太陽の光がそのまま直接、ソー達へと降り注ぐ。

唖然と口を開いたエルフ達は、自分達の状況を飲み込むのにも時間がかかった。最上階にいた筈の自分達が外の空気に晒され、天井をなくした今扉も意味を成さない。扉の〝上〟から、顔を覗かせるようにして背筋を伸ばしたサウロと、そしてサウロの肩に乗ったルベンが二本足で立ってソーのいる方向を見下ろした。


「いた!」

ルベンが指を差した先は当然サウロの視界にも捉えられた。

大勢のエルフ達がひしめき合う部屋の中、一人縛られたまま遅れて口を塞がれたソーの姿にサウロの目が大きく見開かれる。

ルビーのような目がギラリと光り、斧が再び振り上げられた。ルベンの矢の照準もまた同じ男に向けて合わせられたことに、ソーは瞬きを繰り返し目を泳がせる。このままでは自分までサウロに真っ二つにされてしまうのではないかと顔色を青くした。

口を塞がれ言葉が出ない分、なんとかエルフから離れようと思うが逆に盾にするように肩から引きよせられる。


「やってみろよ!!」と挑発気味に叫び唾を飛ばすエルフは、その言葉に反し顔色はソーよりも更に青かった。彼らが狙っているのが自分だと、武器も、眼光も、そしてあふれ出る殺気も全てが物語っている。

自分の味方となる手下達も、天井ごと建物を破壊した相手に立ち尽くすまま動けない。もともとソーを捕まえて鑑定する為だけの部屋には、まともな武器など置いていなかった。武器庫に向かおうにももう自分達のいる部屋の扉は侵入者に塞がれ自分達には取りに行くこともできない。


ここに辿り付くまで充分武装した仲間達がどうしようもなかった相手に、今ある手持ちの武器だけで叶うと思うほど楽観者はどこにもいなかった。


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