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バベルの翻訳家〜就活生は異世界で出会ったモフモフと仕事探しの旅を満喫中!〜  作者: 天壱
Ⅳ.着地

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38.移住者は聞き、


「おーおー起きたかペット。いつから起きてた?すげぇなお前異世界転移者なんだって??」


部屋の大きさは一人暮らし程度の小さな部屋だった。

部屋の向こうから開けっぱなしの扉の先でまだバタバタ音が聞こえるからどこかの一室といったところだろうか。

椅子に逆向きに座りながらニヤニヤと私へ最初に呼びかけてきたのは、やっぱりあの時の性悪エルフだ。


流石エルフで、おじさんも周囲のエルフも皆全員顔は整っているけれどもうその性根の悪さは隠せていない。特に私に笑いかけてきた性悪エルフは初対面の作ったにこやかスマイルでもない、もう口の悪さに比例したネッチャリした笑顔を向けていた。

さっきまで慌てていたくせに、今は逆に売れるとわかったからかまるでずっと余裕でしたといわんばかりの笑顔なのが腹が立つ。遠目でもわかるくらい額から汗が光っているのを指摘してやりたい気持ちをぐっと堪え睨み付ける。

何も言わないで睨む私に性悪エルフが「そう怒るなよ」と両手の平をひらひら見せてきた。こんな縛られて怒らない人間なんかいないし!!!


「ッ一緒にいた二人はどこですか?!別の部屋にいるんですか?!」

「二人??……あーー、お前の飼い主と狐だろ?あんな売れなさそうなのは置いてきたぜ。あの兄さんは高く売れそうだったが、相手にすると面倒そうだったからな」

嘘つけ!!サウロに勝てないからでしょ!!

二人が攫われてないことはほっとしつつ、どこまでも格好付ける男に言い返したくて舌がうずく。パッと見、椅子に座っているのも彼だけだし彼がリーダー格なのか。他のエルフ達が「本当に喋ったぜ」と後ろで言い合う中、のんびりこっちを向いて話しているのは彼だけだ。

もうこうなったら少しでも今の状況を確認するしかない。二人が無事なら余計に、ここで私一人が逃げれば済む話だ。

エルフのおじさんがそそくさと私から離れて部屋の壁際まで下がってしまう中、廊下からも何人かエルフ達が物珍しさからか顔を覗かせてきた。エルフの言葉を話す私をまるで珍獣扱いだ。その丸い目が無償に気分が悪い。


「私をどうするつもりですか!!今〝城〟って聞こえましたけど!!」

「そうそう城だよお城。良かったな~奴隷として売られるのに最高の買い口だぜ?異世界転移者ならそりゃあ貴重に扱われる。給金も出るだろうぜ。奴隷に給金だぜ??好待遇だな」

「私は奴隷じゃありません!!貴方達が攫ったんでしょ!?」

「そんなの誰が信じるんだよ??証拠は??奴隷ってみぃ~んなそういう言い逃れするんだよなぁ?嫌になっちゃうぜ全く」

コ・イ・ツ!!!

ケラケラヘラヘラと笑い捨てながら最後には傍にいる仲間とも顔を合わせて嘲笑をするエルフ達に、頭が沸騰するほど血が遡る。

私が何語を喋れても関係ない。全部奴隷の嘘で通すつもりだ。もう話し方が詐欺師みたいな白々しさにそれだけで胸焼けみたいに気分が悪くなる。怒りに任せて手足をバタつかせたけど、ただ縛られた部分が痛くなるだけだった。今すぐあの無駄に綺麗な顔を殴ってやりたい!!


あの時にやっぱりルベンとサウロにボッコボコにしてもらうんだったと後悔する。あの時は綺麗な顔だったけど、今は最低なくらいに汚く歪んでいる。エルフってみんな綺麗で格好良いイメージがあったけど、こいつらは正反対だ。サンドラさん達に紹介してもらったゴブリンさん達の方がずっと紳士的だった。

でも今は怒ってばかりもいられない。最悪城に引き渡されたとしても、話が通じる人だっているかもしれない。どの種族でも私は会話できるんだから、事情を話して助けて貰えるかもしれない。少なくとも攫われたってわかってもらえれれば、…………もらえれば。



〝中には珍しいスキル過ぎて、王様に召し抱えられた人も歴史上はわりと多い〟



「…………。あの、具体的に城ではどういうことを異世界転移者はさせられるのでしょうか………ひゃ、百年前とか……」

この世界にきた当初、サンドラさんから聞いたことを思い出す。カラッとさっきまで血が上っていた感覚が嘘みたいに喉も頭も空っぽになった。


こんな奴らに敬語なんか話したくないけど、あまり刺激しないようにとなるべく言葉は選ぶ。ルベンもサウロも凄い長寿だし、見かけ若いエルフ達には百年前も最近かもしれない。


今まで奴隷として献上された異世界転移者なんてサンドラさん達からも聞いたことはない。少なくともサンドラさんは城で働くこと自体は良いことみたいに言っていた。でも、……奴隷で良い扱いって何??

私の言い方に勢いがなくなったのが意外だったのか、エルフ達も一度口が自然に閉じた。互いに顔を見合わせる様子は、誰もまさか答えも知らないのかと思う。さっき好待遇なんて言ったくせに具体的にどうなるかまでは知らないの??


でも、そりゃそうだ。この人達は私のことを想って城に売るわけじゃないんだから。売った後の私がどうなろうとしったこっちゃないに決まっている。

次第に、わからないとも言いたくないのか、私との会話なんてなかったかのように「枷は?」「良いから誰か一人買いに行けよ」とエルフ同士のやりとりを始めてしまう。

彼らが無視をしてくる間にと、私もなんとか縛られた手足のまま少しずつだけと身体を起こす。肘や膝を使ってずるずるとバランスを取りながら起きるのは、思ったよりもはるかに難しいししんどい。縛られたままだからか、私が身体を起こし始めたことに気付いたエルフも横目で見てはくるけど、起きるなとまでは言わない。

ぐしゃぐしゃに絡まった髪が口に数本入って、首ごと左右に思いきり振る。ブンブンと振る度に風を切る音が耳にかかった。なんとか上体を起こすことはできたけど、それでも窓の向こうはよく見えない。明るい青空がぽっかり見えるだけで、建物すら何も見えなかった。


「転移者は城に囲われれば奴隷でもまず悪くは扱われやしねぇ」


ふと、低い声が喧噪から耳へと滑り込む。

聞き違いかとも思ったけれど、顔ごと向ければ壁際だった。さっき私のスキル鑑定をしたエルフのおじさんだ。性悪エルフ達と比べたら丸くなった背中と姿勢に皺の顔が目立つけど、それでも整った顔立ちで私を見る。腕を組み、壁に寄り掛かるようにしながら上から下まで私を品定めするように目だけが動いていた。

なんだじいさん知ってんのかと、他のエルフ達も興味があるように尋ねる中でおじさんはわずかに顎を上げた。


「王都で生きてきて今まで四人は知ってるが……。噂じゃあむしろ俺達なんかより良い暮らしだ。城から一生出されねぇって意味では王族のペットと一緒だが、それ以上何不自由ねぇ暮らしだ。美味い飯にも困らず欲しいものは大概なんでも手に入る、保護生物だから痛めつけられることもねぇし寧ろ護衛もつけられて関係者との接触でも最低限だ。王族ならお前のスキルを誰よりも上手く使ってくれるだろうよ」

すげぇな、良い暮らしじゃねぇか、俺が変わりたいくらいだぜと。そんな、エルフ達が大盛り上がりする中まるで空き缶を蹴り飛ばしたような音が頭に響く。……なにそれ。


ぐらりと頭の中が大きくうねって心臓の音が今日一番大きく聞こえた。

吐き気が込み上げるのに血の気が引いて、鏡を見たらきっと今の顔色は真っ青だろう。これが今何か悪夢で目が覚めないかなと三回思ってわざと痛くなるまで手足を引っ張る。締め付けられた手首からドクドクと血の流れる感触だけが際立って感じた。


説明はしてくれても助けてくれない達観した偉そうなおじさんも勝手に羨ましがるエルフ達にも、ふつふつと怒りとも違う感情が湧き上がる。なに、なにそれ。そんなののどこが良いの???この世界の価値観そこまで狂ってんの??


自分の顔色はわかってもどんな表情かわからない。椅子に座った性悪エルフがひときわ楽しそうなニヤニヤ笑みを広げたからきっとそういう顔をしてるんだろう。視界が急に白と黒になる。瞬きを十回以上繰り返してやっとまともな色になったけど、今度は少し赤みがかっていた。無理。そんな生活私は絶対無理。


逃げないと。目が覚めて何度も思っていたことを、また改めて強く思う。

今も逃げるのは難しいとわかっているけど、城の人間に見つかるくらいならこのチンピラエルフ達から逃げる方がマシだ。本当に城の人に見つかって私の存在を知られたらそれこそ逃げ切れるかわからないし、逃げられても一生追われる身になるかもしれない。王様が住む強固な城よりもチンピラエルフのアジトの方がずっと難易度は低いに決まってる!!

きっと殺されまではしない。だって私が高額だってわかったなら傷つけるわけにいかない筈だ。そう思いながらぐっと床を蹴る踵に力を込める。

窓がある壁にはエルフ達がずらりと並んでいるから難しいけれど、とにかく死角を作るべくどこでも良いから壁へと背中から後退る要領でにじり寄ろうとしたその時。




「ッソーーーーーーーーーー!!!どこだぁああああああああ!!!?」




ガッシャーン!!!

「ッうるせぇぞ!!なにやった?!!」

突然廊下の向こうから聞こえた大きな物音に、火を吐くような勢いで性悪エルフが怒鳴る。

何か割ったのか、大きな物音と一緒に硝子のような音も混じっていた。もともと廊下は騒がしかったけれど、今は更にぎゃあぎゃあと騒いでいる。彼らが廊下へ注意を向ける中、私だけが窓の向こうに耳を澄ます。今、絶対知っている声がした。


物音のする直前に、大声で呼ばれた。妙に遠い声だけど、ルベンだ。

あんなに大声だったのに、エルフ達はみんな気にしないように廊下の方にばっかり注意を向けている。何人かが騒ぎながら廊下へ飛びだしていく中、もう会話が耳に入らない。そんなことよりも窓の向こうでまた「ソーーーー!!」と呼ぶ声に今度こそルベンだと確信する。来てくれたんだ。

なんでエルフ達は反応しないんだろうと思えば、彼らはルベンの声が聞き取れないんだと気付く。私の耳には何と呼ばれているか理解できるけど、意味がわからなければ本当にただの遠吠えだ。

それならと、手足の違って自由な口を大きく開き肺まで吸い上げ声を張る。


「『ルベン!!ここ!!エルフ達に捕まってる!!!』」


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