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第五十七話《秋の便り》



 もうリライナたちが寝静まった後、ハーケンのもとに伝書鳩がやってきた。ずいぶん長いあいだ、こうして手紙が届くことがなかったので、彼はひどく嬉しかった。


 手紙は何枚かに分けて書かれていた。


 親愛なるハーケンへ


 今朝、窓辺に赤いカエデの葉が迷い込んできたの。もうすっかり秋らしいのね。私は外に出ていないから、貴方ほど知るすべがないの。それを思うと、久しく手紙を書いていないのが嘘のようだわ。だって、こんなに一人でいるんですもの。もうコッツウォーまでは来ているのかしら? 貴方も可愛い可愛いお弟子さんばかりに気を配らずに、自分から手紙を出してくださればよろしいのに。でもそうね。頼んだのは私。そして貴方も、そうするのが恩返しのつもりでいるのよね? それが自然なことだもの。貴方を私のもとに連れてきたのがあの子で、今のお弟子さんが、あの子――パトリシアの子ども。これはカエ・サンクで聞かせたわね。ハーケン、いつになったら私は、その子の耳にリライナと呼びかけられるのかしら? 急かすつもりはないの。急かしてもいいのだけれど、待っているのも気持ちがいいから。会う前に、もう少し発音も練習しておきたい。リライナ、リライナ、リライナ。こうして綴るだけでも、まったくその文字だけが浮かびあがって見える。今にも踊りだしそうな綴りよ。ハーケン、貴方は機密主義だから、きっとこれについては何も触れていないのよね。あら、そういえば私ったら、貴方に予言めいたことをしたわね。それは私の魔法じゃないの。パトリシアが言ったことを、私が覚えていただけなの。あの子の魔法は、私のより理解が遠い場所にある。風との対話だけじゃ、的確じゃないのかもしれないの。ずっと、教えてくれなかったけれど。ねえハーケン、その子を大切にして。あの子の夢が詰まった子だから。それと同時に、貴方も私の夢を実現するはずの人であることを、どうかお忘れなきように。

 ミレーニア・アレキサンドロヴナより


 彼は自分がどれほどの夢の中途に立たされているのか考えずにいなかった。わけて彼の中であるときふいにやってきた気まぐれが、自分の恩人の子どもに夢を見させたことが、なにより気がかりだった。むろん、二ヵ月ほど前にカエ・サンクに出向くまで、リライナが、その母親がそうであるとは少しも考えなかった。だがそうと知った後、彼がどれほど言葉すら届かない場所にある感覚に興奮したことだろう。しかしこの興奮はもう醒めてしまった。通例、興奮の二番手は不安である。彼は不安になり、自分の仕草や発言に弟子がどのような影響を受けるのか、また与えるのかに注意した。結果としてこれが、放任主義を確立するに至ってしまったけれど、弟子は多く人に恵まれる性質であるらしかったし、自分が介入する余地もないと卑屈的な想念も自然とできあがった。


 彼は先日までリライナが夢中で描いていたメリルの目をしばらく眺める。


 そうしてすぐに、目を窓のほうへ投げてしまった。寂しそうな顔で。


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