276列車 有無
あれからすぐに大阪に戻った。結局はやらなきゃいけないんだって思って。でも、そうは思っていても、なかなか外に出る気にはなれなかった。そういうことはいつまでも思っていても仕方がない。戻ってから1週間くらい経ったとき、学校に行った。まだ就活はするってだけ言いに。
クラスの就職は百済が介護関係の仕事に、内山がJR四国に、羽犬塚は空港の荷物監視関係に就職が決まっていた。クラスはもう半分ぐらいは就職が決まったことになる。まぁ、どうでもいいけど。教務室にいる難波先生に挨拶をしてから、その先にある就職指導室・・・いや、パソコン室に向かった。パソコンをつけるとすぐに先生からメールが来た。報告ってことだった。
「おはよう。久しぶりだねぇ。」
「・・・はい。」
答えは重苦しいものだった。とてもじゃないけど、今は明るくふるまうことなんて無理だってことはある。だいたい、夏休みのほとんどの時間就活をしなかったんだ。
「夏休みってみんな学校に来ていたから、みんなの就活の状況が分かるんだけど、永島君学校に来なかったからさ、どういう状況になっているのかわからなくて。」
「・・・。」
分からないのは当然かぁ・・・。夏休み何もしなかったって言うのが事実だ。ウソを言ってもしょうがない。それを言うと、この先どうするみたいな話になっていった。でも、この先だって鉄道を狙っていくしかないんだ。僕がやりたいのは運転士だけだ。それ以外は目的がない。ここに来た理由の根底にあるのはそれだけだから。
「これからも、鉄道会社で募集をかけているんでしたら、それを受けていきたいと思っていますが。」
「・・・ってことはこれからも一般企業を受けていくってことは考えていないってこと。」
難波さんは確認したようだった。それに頷いて答える。
「じゃあ、今まで交通サービスとか、京成電鉄とか募集かけてたけど、何で受けなかったの。」
「・・・。」
受けなかった理由・・・。それにしっかりとした答えがあるわけじゃない。多分、あるんだとしたら怖いだけだと思う。落ちたくないから。
そこから話の発展はなかった。僕はこの先も鉄道会社で受けていくだけ。でも、現実っていうのはそうじゃない。鉄道会社はもう二次募集とかそういうものだけで、狭き門がさらに狭き門へと刻一刻と変わってきている状態。この先鉄道だけで行くのはかなり厳しくなっている。でも、僕にはそういう気になれない。この先一般企業を受けるってことが苦痛なんだ。目的がなくなるんだ。そして、それが一番怖いんだ。やりたいなんて思わないから。どんなのがあっているかなんて考えないから。・・・それはアルバイトを今まで一度もしていないのつけか・・・。まぁ、それはいい。
「じゃあ、なんでそこまで鉄道なの。」
先生は聞き方を変えてきた。なんで・・・。それって聞くことなのか・・・。一瞬思う。鉄道学科に来ている人っていうのは鉄道に行きたいからここに来たんじゃないの。あえて聞くことでもない気しかしないけど。鉄道で働きたいからここに来たが皆の根底にあるんじゃないの。それってふつうじゃない。この感情はふつうじゃないの。
じゃあ、何で鉄道かって聞かれると、その答えはない。昔から好きだから鉄道なんだし、やりたいからなるんだし。それ以外に答えはないし。ただ、面接じゃあないけど、それだけで採るっていうのはない。答えを見つけようとしても、黙るしかない。その沈黙がかなりの時間続いた。難波さんはその間も何回か話しかけてきた。
「はぁ。なぁ、黙ってれば、いつか私が怒るだろうとかって思ってない。」
(へっ・・・。)
「そういうことしてれば、いつかイライラしてくるだろうって思ってるでしょ。」
(はっ・・・。)
「思ってたんでしょ。ほら、永島君の思うとおりになったでしょ。今すっごくイライラしてるし、怒りもしたよ。思い通りになったんなら答えなさいよ。」
声に出して反論はしない。何言っても無駄って思える。じっと先生の目を見つめるだけである。
「夏休みの間何もせずに、それでも鉄道を受けたいって言って。それはさぁ、よく言えばゆるぎない信念があるっていうふうに見えるけど、何もしてないんでしょ。」
「・・・。」
「どれだけの時間無駄にしてるかわかるでしょ。」
「・・・。」
「いや、そうも思ってないでしょうね。夏休みほとんど無駄にしたんだから。」
そうだろうね。そういうことにしておくか・・・。
「もう1時間ぐらいそのままだよ。ねぇ、まだ就活してるのは君だけじゃないんだよ。この間に何人かエントリーシートのチェックできるよねぇ。面接の練習とかできるよねぇ。永島君。今、その人たちの時間無駄にしてるって思わないわけ。」
人がどうなろうと関係はない。
「ねぇ、この時間どっちに割いたほうがいいと思う。」
どういう意味・・・。
「君のために寄り添っててほしい。それか今頑張ってる人のために使ってほしい。今頑張っている人のために使ってほしいなら、ここで就活を終わらせるってことでいいんじゃないの。そうすれば、今永島君にのしかかってる重みっていうのは全部外れるんじゃない。そういうふうにしてほしいって思ってるなら、私はそれでもいいけど。あなたの両親が就職はもういいから、学校だけは卒業させてって言うなら、私はそういうふうにするけど。それに、そうなったら私とかかわらなくてよくなるよ。」
「・・・。」
そういうことか。確かに。時間は僕のために使ってるんじゃあ、何分あっても足りないだろうね。じゃあ、他人のために使ってほしいって僕だったら考えるかなぁ。
「他人の・・・ために使ってください。」
僕はそう答えた。
「そう。そういう考えの人がいるって思わなかった。残念です。」
残念・・・ね。ていうか、何しにここに来た。まだ就活するって言いに来たんじゃなかったっけ。それが結局どうなってこうなったんだよ。そして、今何してるんだよ。
そういうことはすぐに先生からお母さんに伝えられたみたいで、すぐに電話がかかってきた。そして、お父さんがこっちに来ることになった。
翌日、再び先生のところに行った。昨日話したような内容を先生はお父さんにも話した。
「なぁ、お前はどうしたいって思ってるんだ。」
お父さんは全部話を黙って聞いてから、そう言った。
「・・・どうしたいって。」
「まだ、鉄道で行く気か。もうそんなことも言ってられないぞ。」
「・・・。」
(さすが、私の息子というべきか・・・。)
「他人のことは言えないけど、それは子供みたいにだだこねてるだけじゃないのか。」
そんなことはないとは言えないかぁ・・・。でも、それに僕が答えることはなかった。
「まぁ、なんにしろ、就活をするにはデータが無きゃダメだろう。先生は今までもたくさんデータをくれたんじゃないのか。それだったら、自分だけでやるっていうのは厳しいだろう。違うか。」
「・・・。」
答えはしなかったけど、そうだと思う。このまま何もしないのだったら情報提供はなくてもいい。でも、僕はまだ鉄道会社の就職をあきらめてるわけじゃない。だったら、データっていうのは必要になってくる。
就活を続ける。それには先生の協力がいるってことでこれは決着した。同日、僕は今まで受けることのなかった一般企業も考えながら、就活を続けていくとした。もちろん、一般企業に就職が決まったところで、それに納得するつもりは、あるはずもない。
9月に入り、最初の月曜日。今日から夏休み明けの授業がスタートする。その日から本格的に就活を再開させよう。もう一度鉄道会社にアプローチするためである。月曜日には先生が担当する授業がまだある。
「はい、夏休み前の出席率が出ています。」
先生はそう言ってから、出席率が出ている紙を個人個人に渡していった。僕はもらうと一番下のパーセンテージが100パーセントでないことに気付いた。これは、どこ授業かと探す。すると該当するものがあった。先生の授業だ。
(あとで言っとかなきゃ。これからのことも・・・。)
授業が終了すると教務室に行ってこれからのことを話した。先生はそれを黙って聞いてはいたけど、全部話し終わると、
「それを決めたのはいつ。」
と聞いてきた。
「・・・先週の金曜日ですけど。」
「じゃあ、週末からやってきたことを報告してくれる。」
「・・・そ・・・それは。」
「はぁ、先週に決めて、何もしないでここに来たの。手ぶらでここに来るのはやめてくれる。」
(あっ・・・。)
「永島君がいくらこれから一般企業も受けていきますって言っても、実績が無かったら信じようがないじゃん。だから、一般企業どこにエントリーするのかっていうこととか全部考えてきて。そうしてから、ここに来てくれない。」
「はい。」
先生の言うことはあってるか・・・。すぐに教務室を出た。教務室に行った目的の一つは消化したか・・・。でも、出席率のことは・・・。いや、言えないか。今この状態で出席率を訂正してくれなんて・・・。言う資格は僕にはないか・・・。じゃあ、これはこのままでもいい。なんかのハンデとしてとっておこうか・・・。そうしよう。
月曜日の授業が終了すると、僕はパソコン室に行った。一般企業を調べるためである。どういうところが僕にあっているのかっていうことは知るはずがない。そういうやつでも少しは方法があると思う。僕が使ってる就活情報サイトっていうのは、登録したときに適性検査みたいなのをした。その中でこういう仕事に適性があるっていう、あくまで(・・・・)もそういう傾向を持つ人のデータの集計から出た仕事のジャンルの中で比率の高いものから探した。いろいろある、飲食店とか、警備会社とか。その中で専門学校生が応募できるものを探す。何社かピックアップしたけど、足りない気がして、なかなかいけない。
「ナガシィ。」
話しかけられた。
「萌。」
「どう。何か見つかった。」
「うん。こんな感じだよ。」
萌は書いているものに目を通した。それを見終わったと思ったら、萌はクリアファイルを見た。さっきの出席率が出ている紙が一番上になっている。
「・・・えっ。」
「いいよ、それ。」
「えっ。今まで100パーセントで来たじゃん。休んだ授業って。」
「いいよ。訂正してくださいって言えないから、このまんま取っとこうと思うんだ。」
「せっかく皆勤賞になるのに。」
「皆勤なんてそもそも狙ってないし、狙って成るものでもないし。どうでもいいよ。」
「そう・・・。」
「あと、言わないでよ。それ。」
「・・・。」
どういう仕事が一般企業の中であっているかなんて知らない。知らないなら、僕は鉄道会社に入るしかない。それが一番いい。
さぁ、どうなるのかなぁ・・・。




