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イフリート  作者: 野口プレシオサウルス太郎
第4章 キリ・フラッシュ
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119.氷の竜王①



氷の城、最奥部。


青白い氷に覆われた広間に、二人の男がいた。


氷の竜王、ヘル。


そして、その側近であるスリュム。


二人はテーブルを挟んで向かい合い、トランプで暇を潰していた。


遊んでいるのは大富豪だ。


「……はい。革命」


スリュムが手札を置き、淡々と告げる。


「……あぁ! 反則だろっ!」


ヘルが勢いよく身を乗り出した。


「反則ってなんだよ……」


「うるせぇ! もうやめだ、やめ! 勝てねぇ!」


ヘルは手札を乱暴にテーブルへ放り投げた。


「くかかっ! 何度やっても同じだよ」


スリュムは楽しそうに笑いながら、散らばったカードを集め始める。


そんな、緊張感の欠片もない時間。


ふと、ヘルが笑みを消した。


「…………それにしても」


「……あ?」


「軍の奴ら、まだ来ねぇな…。お前の見込みじゃあ、もう来てもおかしくねぇんだろ?スリュム」


ヘルは頬杖をつき、退屈そうに呟いた。


「くかかっ! 慌てんなよ、ヘル!」


スリュムはカードをまとめながら、余裕たっぷりに答える。


「仮にここまで来れたとしても、どうする? こんなにも寒冷化された国だぜ? 道中で脱落する奴もいるだろうし、城には何人もの部下がいる。おまけに門番には、氷の巨人を置いてあるんだぜ?」


「ふははっ! そりゃそうだ!」


ヘルは再び声を上げて笑った。


「来たって報告が楽しみだな!」




その時だった。


「…………っ!?」


スリュムの笑みが、不意に消えた。


何かを察知したのか、彼は弾かれたように顔を上げる。


視線の先にあるのは、頭上。


「ヘルぅ!! 上だぁ!!!」


「……なに!?」


スリュムは叫ぶと同時に立ち上がり、両腕を大きく振り上げた。


パキパキパキィッ!!


鋭い音が広間に響き渡る。


スリュムの頭上に、氷が瞬く間に集結していく。


それは無数の氷の結晶が折り重なり、ひとつの巨大な盾を形作るようだった。


直後――。


「だらあああああああああああああ!!!!」


頭上から、男の雄叫びが降ってきた。


ダダダダダダダダダダダッ!!!


けたたましい銃声が轟く。


無数の弾丸が、天井側から一斉に降り注いだ。


氷の盾に弾丸が激突し、乾いた破裂音が広間に連続する。


さらに――。


ヒュンッ!!


空気を切り裂くような音が走った。


音の斬撃。


目には見えない鋭い一撃が、銃弾の雨に紛れて氷の盾へと叩きつけられる。


ガギィンッ!!


氷の表面に、深い亀裂が走った。


一本、二本、三本。


ひび割れは瞬く間に広がり、氷の結晶を縫うように伸びていく。


「…………なんだと!?」


スリュムが目を見開いた。


銃撃だけではない。


音の斬撃まで重なり、氷の盾を内側から砕こうとしている。


「まじかよっ……! 誰だっ!?」


ヘルが叫ぶ。


しかし、二人が正体を確かめるよりも早く――。


天井から、一人の男が落下してきた。


男は落下の最中も、氷の盾から目を離さなかった。


狙いは、最初からあの盾。


男は右腕を引き絞る。


拳を握り、肩から腕へと力を込める。


そして――。




ドガアアアアアアアアアアッ!!


凄まじい衝撃音が広間を震わせた。


男の拳が、亀裂の走った氷の盾へと叩き込まれる。


バキィィィンッ!!


氷が砕け散った。


拳を中心に亀裂が一気に広がり、巨大な盾は無数の破片となって弾け飛ぶ。


砕けた氷が、きらきらと光を反射しながら広間へ降り注いだ。


その破片の向こうから、男が姿を現す。


男は空中で体勢を整えると、身をひねり、音もなく床へ着地した。


片膝をつくこともなく、よろめくこともない。


まるで最初から、そこに降り立つことが決まっていたかのように。


男はゆっくりと顔を上げた。


サブ・ストレート。


竜征軍の隊長である。


「…………軍の人間だ」


スリュムが、砕けた氷の破片を見つめながら呟いた。


先ほどまでの余裕は、もう笑みの中にすら残っていない。


「な、なんだと!?」


ヘルも思わず声を上げる。


軍が来ること自体は予想していた。


だが、まさか城の最奥部にまで、こんな形で侵入してくるとは。


二人の視線が、着地した男へと集まった。


一方のサブは、まるで動じていなかった。


目の前にいるのが竜王であろうと、その側近であろうと、関係ない。


サブは静かに立ち上がり、二人を見据えた。


そして、口を開く。


「よう。お初にお目にかかるな……お二人さん」


声は落ち着いていた。


奇襲を成功させた高揚も、敵の本拠地へ踏み込んだ緊張も、表には出さない。


ただ、目の前の二人を冷静に観察している。


サブはわずかに首を傾けた。


「……どっちが竜王だ?」

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