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憑依チャレンジ1年生

 薔薇の花に取り憑いて三日。

 俺は、完全に暇を持て余していた。


 あ〜……光合成マジうめぇ……


 ……いや、うめぇじゃねえんだよ!

 喋れねぇし動けねぇし、通りかかる庭師のオッサンの気配感じたり会話を立ち聞きするくらいしかやることねぇ!

 たまに通りがかるメイドやお嬢様たちの甘い気配は眼(?)福だけど、自分の意志で動けねえのがきつ過ぎる。

 けど、人に取り憑こうとするとなかなかうまくいかねえ。

 じわじわっと花の露やら葉の露やらとして染み出しておいて、しゅばっと口や耳目掛けて飛びついてやりゃあ、一旦はとりつける。けどぐんぐん腹が空いて目眩がして、気付けば吐き出されてる。

 その間、長くて1日くらい。しかも様子がおかしいからって言われて他のやつに避けられまくって美味しい想いなんて一度もできねえ。

 ろくにまともに扱われたことのないやつが、まともに人を大事にできるはずもねえ。


 ゲロみてえに吐き出されたら、すぐまた手近な植物やら虫やらにとりつくしかねえ。その繰り返した。

 しかも虫は動きやすい代わりに植物より格段に死にやすいからこっちはこっちでつれえ。

 多分この間飲まされた赤い薬のせいだ、くそっ。

 庭園にやってきたあのクソ親父が『人格排泄ゼリー、使えたよ。ありがとう』とか、目の前の静かな気配の男に言ってた。

 なんでも、最近よくある『憑依病』への対策として作られた薬らしい。

 俺みたいにこの世界の人間に取り憑いたやつを追い出すだけじゃなく、この世界の人間の元の人格が邪魔な場合、『人格排泄ゼリー』に取り憑かせることも考えてるんだとか。

 うげえ。

 どっちが悪者だってんだよ、なあ!?

 

 あーくっそ……一生この鉢植えで日当たりの良さに感動する人生は嫌だぞ……。いや、もう人じゃなくて植物なんだけどよ……。


 よく来る庭師のおじさんには何度か取り憑いてみたが、取り憑く度に追い出される時間が速まってる。

 精神力が強い奴なんて二度目はもうねえ、侵入しようとした時点で弾かれて蒸発しそうになる。

 くそう、ふざけんなよ……

 俺は焼き鳥か!?

 二度漬けならぬ二度憑き禁止だってのかよ……!

 ちょっとくれえよくね!?


 へっ、愛だの温もりだの言ってた俺がバカだったわ!

 結局この世界も、くそだったんだ!

 あああひでえよ……なんで俺だけ駄目なんだよっ……!


 ボロボロと涙の代わりに葉っぱから露がこぼれる。

 けど。


 がちゃ、がちゃ。


 ……ん?

 そんな時、庭園にガチャガチャと怪しい木箱を抱えた男がやってきた。


 じわぁ、と染み出した露から少しだけはみ出て、様子を見てみる。

 ぶくぶく泡立ち始めたので慌てて引っ込む。

 ……この薬をクソ親父に渡したあの男だった。


 ボサボサの黒髪、落ちくぼんだ目、目の下に濃厚なクマを刻んだ白衣姿の眼鏡野郎。

 確か名前は、クルイ・シャガ。

 この領主の館に出入りしている偏屈な薬師兼研究者。


「ふむ……『人格排泄ゼリー』実験体Z。今はこの株に取り憑いているな」


 !?

 なんで分かるんだよ!?

 クルイはずい、と俺の取り憑いてる薔薇を見下ろすと、しゅっしゅっと何かを吹き掛けてきた。

 ぶわっ!?これ、あの薬じゃねーか!?

 たまらなくなって飛び出すと、ひっつかんで鉢植えにぶつけられた。

 あ゛!?

 なんのつもりだこいつ!!!

  ……ってか、これ館の外に連れ出されるやつ!?

 どこへ向かう気だ!?


 疑問を口に出すのも恐ろしく、俺はしばらく、ただ静かにガタゴトと馬車に揺られることしかできなかった。


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