第1話 乗っ取り成功!おや?どうやら様子が……?
「なんだこれ?うわ、おっぱいだ!顔可愛い!えっなにこれ異世界転生ってやつ!?」
敵チームと抗争してしこたまボコられて倒れた筈の俺は、気が付いたら綺麗な部屋でちんまり寝てた。
近くにあった鏡を見てみると、どうやら俺は可愛いそこそこナイスバディな女の子の体の中に居るっぽい。
ヒャッハー―――!!!最高だぜぇ!!!
早速、前に電気屋で見た『異世界転生もの』の決め台詞を叫んでみる。
「ステータス!オープン!」
……しーん。
俗に言うチート能力?とかいうのはないっぽいけど、貴族の可愛いお嬢様に転生とかマジで人生イージーモード突入だろ!
夕食もマジでうまそうなの。
元の世界じゃクリスマスでも食えなかったようなクソデカケンタッキー!
野菜苦手な俺でも食えるめちゃウマドレッシング!
食べたことないような舌と喉を震わせる菓子!
最高過ぎる!!!
前の世界の俺は喧嘩に明け暮れた女っけゼロの、どころか嫌われ者の貧乏ヤンキーだった。でもここなら、思う存分ぬくぬくできる!
お付きの姉ちゃんもぎゅっと抱きしめたら「お嬢様、どうされたのですか?怖い夢でも見たんですか?」と微笑んでくれた。
うへへ。
手当たり次第にメイドみんなとハグしまくったけどいい匂いだし感触最高だった。
神様ってのは前の世界の俺のことは見向きもしなかったくせに、居るところには居るらしい。まったくもって不公平だよなぁ。
これからは親の金で豪遊して、可愛いメイドちゃんたちとウハウハな人生を送る。そう決めていた。
「……ノットラーレ、体調はどうだい?」
食堂の対面に座る親父――この館の主である男が、微笑んで俺を見つめていた。
横に立つおふくろは、ハンカチを口元に当て、何かを気にするような目で俺を見ている。
「え?ああ、絶好調だけど?てか今日の肉、マジで美味くね?シェフにボーナスあげちゃいなよ親父!」
「……そうか」
親父は静かに頷くと、横に控えていた給仕に目配せをした。給仕は震える手で、真っ赤なとろっとした液体が入ったグラスを俺の前に置く。
「食後の飲み物だ。飲むと良い。体に溜まった『悪いもの』を出す特別な薬だよ」
「え〜、俺全然元気なんだけど……まあいっか、サンキュー!」
匂いからして、ワインか果実酒的なやつか?
いやあ至れり尽くせりだなあ!
俺は一気にその薬を煽った。
直後。
「ぐ……がっ!?」
内臓がひっくり返るような、強烈な衝撃が全身を走る。
胃袋が、喉が、頭が、焼け付くようだ。
「な、なに……これ……っ!?」
「……ふむ、やはりか」
親父が冷ややかな声を発しながら立ち上がる。
おふくろは大きな溜息を吐いた。
「私の娘は、そんな軽薄な言葉遣いはしない。さっさと出ていけ、悪霊」
「は……!?バレ……っ、ゲボッ!!」
次の瞬間。
口と耳から出たのはゲロじゃあなかった。
というか。
『それ』が、上顎と鼓膜から剥がれた瞬間、視界が急速に切り替わった。
むにゅっ。
俺の居た体が、糸の切れた人形のように俺の上に崩れ落ちてくる。
むほほほっ♡
……いや。お嬢様の体が、俺の上にあるっていうことは。
俺、どうなってんだ!?
「よかった……悪霊は去ったわ……!」
おふくろがお嬢様の体に抱きつき、感動の再会を果たしている。
マジかよおい!!異世界転生ものの『親と仲良くなってハッピー』なルートどこ行った!?
初手で速攻バレて追い出されるとか、俺の転生リセマラ大失敗じゃん!!
けど、そんなことを想ってる暇もなく。
『ぐぉ……っ!?』
痛い痛い痛いっ!!
なんだこれ!?
全身が痛い!
悶えて腕を伸ばすけど、目の前に見えるのはぷにぷにしたなんかピンクのゼリーみたいなやつ。なんか炭酸ジュースみてえにブクブクシュワアアアアってなってる。
嘘だろマジかよ、これが俺だっていうのかよ!
いや、もう姿とかはどうでもいい、やべえよやべえよ、さっきの体に戻らねえと!!!
俺は必死にドロドロと机を這った。
けど、お嬢様の体からは引き剝がされてしまい、腕、いや、触手が空を切り、べちゃっと床に落ちる。
「おや、まだ悪霊が蠢いているな。灰になるまでこんがり焼くように」
「かしこまりました」
親父の冷酷な指示が聞こえる。侍女がホウキとちり取りを持って迫ってきた。
来ないでー!
必死の思いで、ちょうど少し開いてた食堂の窓から外へ脱出する。
庭に転がり出たものの、日光を浴びた炭酸ゼリーの体がジワジワと干からび始めていく。激痛で意識が飛びそうだ。
その時、視界の隅に、庭園の隅に咲く一本の薔薇が映った。
人に入れるんなら……他の生き物にも入れるんじゃねえか!?
頼む、入らせてくれえええっ!!
俺は残された力を振り絞り、観葉植物の鉢植えへダイブした。
目測ミスって土に突っ込んだけど、それがよかったみてえだ。
湿った土が心地いい。
少し浸み込むと、白い根っこが見えた。
そこからドロリと植物の体内へ染み込んでいく。
次の瞬間――。
激痛が、嘘のようにスッと引いた。
「はぁ……はぁ……助かっ……た……?」
自分の感覚を確かめる。
手足はない。声も出ない。視界は明るさをなんとなく感じるくらいで、触感が圧倒的優勢。
光合成の光がなんとなく心地いい。湿った土から吸う水まじうめえ。
……観葉植物と合体しちゃったよ俺。
フュージョンしちゃったよ俺。
やべえテンション上がる。
でもなんか植物の中だと落ち着く。
なにこれ、セーブポイント?
新緑の葉っぱを風に揺らしながら、気付いた。
俺……まるで、人格を持ったウイルスじゃん。
はは、と乾いた笑いを上げようとしたけど、葉っぱの擦り合う音しか出せなかった。




