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28. 焼却




 困惑しているのを隠せていない『転生者』達。


「お前……セリカ・ブラッドフィールだな」


 その中の一人が、口を開いた。

 隠す必要もないので、頷くことで肯定とする。


「どうしてお前がここに居る。帝国兵は、」


「殺したわよ? 愚かにも魔王に歯向かった馬鹿はそうなる運め」


「てめぇええええええ!!!!」



 怒声が鳴り響き、一瞬で距離を詰める細身の男。

 私は動じることなく、煉獄で男の大剣を受け止めた。



「待て! 単独行動は危険だ!」


「っ、うるせぇ! こいつはみんなを殺したんだ! あいつらの中には、俺のダチも居たんだ。黙ってられるか!」


「熱血になっているところ悪いのだけれど、敵を前にして油断し過ぎよね」


 体勢を切り替え、その拍子にバランスを崩した男の胸に突きを放つ。


 ──グサリと、肉を切り裂く感触が手に伝わった。


「敵は殺す。当たり前でしょう。友人? 仲間? 魔王に手を出す愚か者に待っている最後は等しく、死よ。もちろん──お前も」


 煉獄の力を解放する。

 炎は激しく燃え盛り、細身の男は悲鳴を上げることすら許されず、灰と化した。



「呆気ない。傲慢ゆえの弱者よね」


 死んだ者には興味ない。適当に放り捨て、次はどれにしようかなと次に殺す相手を選ぶ。


 五十人も居るのだ。

 勿体ぶることなく沢山殺してしまおう。



「ハインツがやられた! 皆、相手は魔王だ。気を抜く」


「あなたが指揮官?」


「っ、が、はっ……!」


 頭を掴み、首筋に剣を滑らせ刈り取る。

 未だに大量の血液を噴き出すそれを、密集地帯に放り投げ、一人の女が悲鳴を上げた。


 そいつが怯えて硬直した隙に駆け出し、胴体を断ち切った。


「はい。二人目と三人目」


「魔法だ! 魔法で遠距離から狙え!」


 その声のすぐ後、私目掛けて魔法が放たれた。


 詠唱は聞こえなかった。

 流石は『転生者』だ。


 魔法を極めた者にしか扱えない無詠唱魔法を、さも当然のようにやってしまうか。


「でもまぁ──問題は無いわね」


 『煉獄』を霧散させ、次の剣を出現させる。

 何の装飾も施されていない漆黒の剣『魔断(まだち)』は、その名の通り『魔』を断つ魔剣だ。


 これには魔物も有効で、同じく魔族にも効果的だ。

 そして──これは魔法すらも斬り裂く。


「魔法を斬るだと!? そんなことは不可能なはずだ!」


「現実を受け止めなさい。じゃないと──」


 あり得ないと喚き散らした男に肉薄し、勢いを乗せた蹴りで頭蓋骨を砕く。


「死ぬわよ? ……って、もう遅いわね」


「何だこいつ! 魔王ってのはここまで強いのかよ!」


「狼狽えるな! 相手は一人だ。みんなで畳み掛ければ倒せる!」


「…………って、考えるわよね。そりゃぁ」


 相手が優っているのは、圧倒的な人数差だ。

 追い詰められれば、数で押すという考えが浮かぶだろう。



「だから弱いのよ」



 私は『魔断』を霧散させ、再び『煉獄』を手に持った。


「紅蓮滾れ──煉獄」


 前後左右、上からの強襲を一瞥した後、荒れ狂う地獄の業火を放出する。


「あぁあああああ!! あつい、あづい!」


「ひっ、やだ……こっち来なぎゃああああああ!」


「何で、どうして消えない! まだ、まだ俺は死にたくなぃいいい!!」



 恐怖、困惑、怯え。

 全ての負の感情を作り出した彼らは、断末魔の叫びを上げながら、みっともなく地面に這いつくばって死んでいった。



「相手は一人? 数で押せば勝てる? ざぁぁんねんでしたぁぁ。その程度のことで私が殺せませぇん。アハハッ!」


 最高に良い気分だった。


 『転生者』の絶望した顔。

 恐怖に震えるその体。死ぬ直前の絶叫。


 何もかもが堪らなく心地良く、そして────



「この化け物!」


「…………人が悦に浸っているところを邪魔しないでくれる?」


 背後から急に現れた少女の一撃をヒラリと躱し、両断する。


「足音を消すのがお粗末なのよ」



 私の配下である『影』の方が何倍も質は良い。

 彼らは音を出さないし、気配も現さない。


 深夜、廊下を歩いていたら後ろから声を掛けられた時なんて、本気で驚きすぎて悲鳴を上げてしまったくらいだ。

 しかも私を驚かそうと思っていたわけではなく、ただの無自覚だったとか……本当に徹底している。そんな彼らと共に居るのだから、誰かの気配を悟る能力は特に鍛えられていた。



 ──と、今はそんな話どうでもいい。



「次の相手は誰かしら?」


 煉獄の切っ先を向ける。

 たったそれだけの行為で『転生者』は戦う意欲を失い、力無く地面に座り込んだ。


 中にはまだ立っている者も居たけれど、彼らから流れ込む感情は等しく『絶望』を滲ませている。


 もう終わりだ。


 運命を覆す能力を保持していたとしても、所詮は寄せ集めの素人。

 力の使い方を知らなければ雑魚と変わりなく、なのに「自分は転生者だから強い」という傲慢が奴らの中に存在している。



 ──だから、弱い。



 自分の力だけを盲信して、ロクに訓練もしなかった人間。

 そんな奴らに私が、魔王が遅れを取るわけがない。


「もう終わり?」


 挑発する。返事はない。

 私は息を吐き、「そう」と小さく呟いた。


「じゃあ一思いに──死になさい」


「待ってくれ! 降伏する。俺達はもうあんたに手を出さない。帝国からも手を引く。だから命だけは許してくれ!」


 武器を投げ捨て、地面に手を付く男。

 それを切っ掛けに次々と武器を捨てて降伏していく。


「……何か勘違いしているようだけれど」


 最初に降伏宣言した男に歩み寄る。


「私は帝国に対して、何の恨みも持っていないの」


 計画の邪魔をされてウザいなとは思っていたけれど、それだけだ。


 言ってしまえば──どうでもいい。

 憎しみを持っているのと、どうでもいいと思っているのとでは大きな差がある。


「私は転生者を殺したいだけだから、敵対しようと降伏されようと、たとえ無関係でも殺すことは確定しているの。だから諦めて死になさいな」


 男の頭を踏みつけ、力任せに押し潰す。

 硬いものが割れる軽快な音がして、男は何度か痙攣した後に二度と動かなくなった。


「どうして! 俺達はまだ何もしていないだろう!」


「話を聞いていなかったのかしら? たとえ無関係だろうと殺す。お前達が転生者だという理由で十分なのよ」


 説得は不可能。

 それを理解した『転生者』は言葉を失い、視線を彷徨わせた。


 逃げようとしているのか、それとも勝機を見出そうとしているのか……。


 どちらにしても無駄な行為だ。

 炎の檻によって逃げ場は失われ、戦力差も圧倒的。


「何を考えているのかは知らないけれど、大人しく死ぬことをオススメするわ。そうしたら一瞬で殺してあげる。抵抗の道を選ぶのであれば、凄惨なる死を与えましょう」



 ──さぁどうする?

 そのまま地に這いつくばって死に絶えるか、それとも蛮勇を掲げて無残に散るか。


 どちらにしろ、待っているのは『死』だ。




『ピンポンパンポーン。リンシア放送局からお伝えしまーす。帝国軍は全滅。残党狩りも無事に終了しましたー。こっちの被害は皆無でーす。主役のセリカさんはいつまでも遊んでいないで、早く切り上げてくださーい』




 緊張感の欠片も無いリンシアの声が、脳内に直接響いた。


「んもぅ、折角面白くなって来たところなのに」


 本音を言えばもう少し遊んでいたかったけれど……仕方ない。


「状況が変わったわ。お前達はもう殺す」


 ──さようなら、哀れな『転生者』達。

 二度とこの世界に足を踏み入れることがないよう、願っているわ。




「我が求めるは煉獄」


 煉獄を天に掲げる。


「生成するは太陽の輝き」


 注がれた魔力は宙に浮き、やがて巨大な熱を生み出した。


「膨れ上がる炎陣、揺らめく熱と共に踊りて、宙を舞う」


 『転生者』は苦しみだした。

 踊るように手を伸ばし、地面を転がり、胸を掻き毟る。


「演目の果てに」


 やがて術式は完成する。


「──灰は散る」


 最後に聞こえたのは、全てが蒸発した音だった。




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