27. 心機一転
「ひ、酷い目にあったわ……」
どうにか生き延びた私は、魔剣を杖のように扱いながら、よろよろと立ち上がった。
「合図って、限度があるでしょう」
「助けになるかと思って頑張ったのよ」
真横に元凶が降り立ち、悪びれもなくそう言った。
今更、彼女が反省するとは思っていない。
させたとしても上っ面だけの言葉が出てくるだけなので、これ以上の文句は無意味だと諦めた。
「魔王ってのは、本当に自分勝手で自由奔放よね」
「現実を突きつけるようで申し訳ないけれど、セリカも魔王よ」
「私は違うの。……はぁ、それであれだけ大規模な魔法を放ったということは、抜かりはないのでしょうね」
「もちろんよ。セリカを敵に回したくないもの。転生者は一人も巻き込んでいないわ」
「うわぁああああああん! アタシのモルモット候補が全部蒸発したぁああああ!」
「……………………」
「……………………」
「まぁ、今はそういうことにしておきましょう」
「ええ、そういうことにしておいてちょうだい」
遠くの方から聞こえてきた嘆きで、もうどうでも良くなった。
それはフォリアも同じだったようで、彼女は静かに私の体を後ろから抱き締める。
そのすぐ後に感じた浮遊感に目を開けると、私の体は再び宙を舞っていた。
「このまま運ぶわ。そっちの方が早い」
「ええ、お願いするわ。離さないでよね」
「落としてもセリカなら問題ないでしょう。それとも落とせという振りかしら」
「な訳ないでしょう。もしやったらその翼斬り刻むからね。私が本気を出せば、フォリアの住処まで斬撃は届くんだから」
「貴女の魔王具合も大概よ。……でも、それは怖いわね。大切な翼だもの。責任持って貴女を運ぶとするわ」
有翼族にとって、翼は命よりも尊いものとされている。
そして私は一度やると決めたら絶対にやる女だ。
その性格はフォリアも知っているので、翼を引き合いに出せば流石に大人しくなる。
「フォリア。転生者の数はどのくらい?」
「ぴったり五十人。よくもこんなに集めたものだと感心するわ」
「過去最高ね。流石の私も少し緊張しちゃうわ」
「今の貴女には一番似合わない言葉ね」
──だって貴女、笑っているもの。
彼女は呆れたように鏡を取り出し、私の顔を映した。
「仕方ないでしょう。五十人も殺せるのよ。過去最高に決まっているじゃない」
「貴女は私やリンシアを敵に回したくないと言っているけれど、それはこちらの台詞よね。貴女を一番敵に回したくない」
「お褒めに預かり、光栄よ」
でも、二人には安心してほしい。
私に敵対しない限り、友人に手を出すことはしないから。
「……ほら、見えてきたわよ」
前を向くと、何もなかったはずの荒野には『会場』が造られていた。
その中に集うのは、ぴったり五十人。
人間、獣人、エルフと種族は様々だけれど、あれが『転生者』達なのだろう。
「一応聞くけれど、間違いないのよね?」
「リンシアも協力して視た結果よ」
「そう。なら信じるわ」
リンシアは『鑑定』という魔法を使い、その者が『転生者』かどうかを見極めることができる。
だから私は安心して──あそこの連中を殺せるわけだ。
「いつも通りの殺し方をするだろうから、それに合わせて会場も特別なものを用意したと、リンシアが言っていたわ。……貴女、序列三位を使い過ぎではなくて?」
「私は何も言っていないわよ。どうせ暇だから勝手に用意したとかでしょう」
「あの子は常に何かを作っていないと死んでしまう病気なのかしら」
「多分、それ正解よ」
そのような茶番を繰り返しながら、私は会場に降り立った。
『転生者』は私の方に視線を寄越し、新たな乱入者にそれぞれの武器を構える。
「私は近くで見守っているわ。死なないように頑張りなさい」
「ご忠告、どうもありがとう。死なないように頑張るわ」
フォリアは羽ばたき、天高く舞い上がった。
それを見送り、私は剣を出現させる。
燃え盛る灼熱を纏った魔剣だ。
「さて、お集まりの皆様──」
紅蓮の魔剣『煉獄』を地面に突き立て、その力を解放する。
会場の各所から炎の柱が立ち上がり、やがてそれは灼熱の檻となった。
私の意思で解除するまで絶対に消えない炎だ。『転生者』は戦況が悪くなると、すぐに逃げようとする。
だから先に逃げ道を断たせてもらった。
これが私の最大火力にして、私の復讐に相応しい最高の舞台だ。
私の村は炎に焼かれた。
家族も友人も仲間も、隣のお婆ちゃんも気のいい親戚のお兄さんも村長も、『転生者』が放った炎によって、全てが真っ黒に焼け焦げた。
──だから同じことで殺してやるのだ。
苦しみ、熱さに耐え、醜く死んで行くといい。
そのための会場は、今ようやく整った。
最後に奴らへ与えるのは、凄惨なる『死』のみだ。
「ようこそ死地へ」
そして私は『転生者』を歓迎した。




