26. 自由な奴ら
「──チッ」
私は舌打ちを一回。
群がる兵士達を、一斉に斬り殺す。
そこから血飛沫が上がり、返り血で私の体は紅く染まった。
「わかってはいたけれど、流石に数が多いわね」
疲れはまだ出ていない。
雑魚を相手にする程度で疲れていては、魔王の名が廃る。
それは理解しているけれど、やっぱりこうも同じことが続いていると面倒になるし、正直飽きてくる。
「セリカ〜、そっちは大丈夫?」
リンシアの声が脳裏に響いた。
姿は見えないので、魔法で言葉を伝えて来ているのだろう。
「問題ないわ。貴女こそどうなのよ」
言葉を返しながら、再び剣を振る。
「セリカが目立ってくれているおかげで、こっちは楽だよ。もう大漁。今は百人くらい拉致したかな。帝国兵は頑丈だから、いいモルモットになりそうだ。いやぁ、助かるよ」
「それなら僥倖。フォリアからの連絡は?」
「もう少し待ってくれってさ。準備が整い次第、そっちに合図を送るらしいよ」
合図……それまでは我慢するべきだ。
フォリアが『転生者』を見分け、誘い込むまで帝国兵と遊ぶ。
それが私の役目だ。
「それじゃ、アタシはもう少しモルモットを増やすとするよ」
「今が収穫時よ。選り好みせず、手当たり次第やってしまいなさい」
「りょーかい。んじゃ、頑張ってね〜」
不気味な魔力が去って行く。
ほんと、存分に戦争を楽しんでいるなと、私は呆れ──
「うぉおおおおおお!!」
「不意打ちする時はもっと静かになさい」
……まぁ、楽しんでいるのは私も同じか。
「──セリカ様」
「今度は、影か。どうかした?」
「帝国兵の一部が街の方へ向かいました。どうやら、この機会に女子供を攫おうとしているようです」
「転生者は?」
「フォリア様によると転生者の姿は見えませんが、指示しているのは、おそらく」
戦場で欲を出すとは、救えない馬鹿だ。
それに従う兵士もまた、ただの馬鹿だ。
「殺しなさい。外道どもに慈悲は必要無いわ。それを利用して転生者を……って、すでにフォリアが作戦を伝えているようね」
「はい。いかがいたしましょう」
「今だけに限り、フォリアの命令は私の命令と同じだと思いなさい。それ以上の言葉は必要かしら?」
「いえ。全てはセリカ様の御心のために」
影の気配が消える。
入れ替わるようにやって来た帝国兵士の首を刈り取った。
「今日は客が多いわね。フォリアからの合図は、っ」
唐突に感じた、肌を焼け焦がすような魔力反応。
それは──遥か上空で現れた。
「ちょっと待って。まさか合図って」
嫌な予感というものは、大抵当たるものだ。
私は全てを放り捨てるように、その場から全速力で逃げ出した。
「ねぇフォリア! もし聞こえているならもう少しだけ待──!」
全てを言い切る前に、耳を擘く爆発が起こった。
……うん。聞いていないのはわかっていた。
空を覆い尽くすほどの魔法陣は、フォリアが誇る大規模殲滅魔法『天界裁判』だ。
裁判という、名前詐欺だと訴えたくなるほどの超高密度な魔力砲を、地上に無差別に落とすという意味のわからない魔法だ。
しかも前に見た時より精密さが増している。
これはリンシアも一枚噛んでいるな?
だから『合図』と言った時に敢えて詳細を言わなかったのか。
戦争を楽しんでいると思っていたけれど、訂正だ。
「あんたら戦争で遊びすぎなのよ!」
全てが終わったら説教してやる。
爆風に吹き飛ばされながら、私はそう心に決めた。




