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私は城を出て、人気のない裏路地ですぐにダーマとの連絡用のノートに文字を書いた。
『ダーマさん! すぐにこれる??』
数秒後返事が来る。
『どこだ?』
私は場所を教える。
『わかった、待っていろ』
ノートを閉じてバッグに入れる。私は路地裏をうろうろと歩き、空を眺めた。あと一月で、火の精霊と契約する。それは、途方もない事のように思えた。なにしろ、ダーマの計画でも火の精霊との契約は私が成人してからと言う事になっていたのだ。あと、六年かけるはずの作業を一月でやらなければいけない。
しかも困った事に、ここ最近の私の魔力量向上は行き詰まっていた。前が簡単に伸びすぎていた気はするのだが。火の精霊と契約するのに必要な魔力量は5000。しかし私の魔力量はまだ3700しかなかった。あと、1300も足りていない。
「うーん……どうすりゃ良いのよ」
「スカーレット!」
「わっ!」
音も無く現れたダーマが、私の肩をがしっと握る。
「大丈夫か!?」
震災後、ダーマに会うのは初めてだった。一応ノートで、安否の確認はしていた。
「一応学校では、遠目に見ていたんだが……無事で良かった……」
そう言いながら、ダーマは私の頭から爪の先まで手で触れて本当に怪我無いか確認いしていた。ダーマの方も怪我は無いようなので、安心する。
「ダーマさん、困った事になりました」
「どうした?」
「実はあと一月で、大精霊との契約を済ませるように言われました……」
「そうか……」
ダーマは目を伏せる。
「あんまり、驚かないんですね……?」
「特級魔法使いが何かと無茶な命令をされるのは、多い事だからな……先代もそうだった。しかし、一月か」
唇に手をあて、ダーマが考え込む。何か良い魔力の急激アップの方法はあるのだろうか。
「気は進まないが、タトゥーを彫るか」
年齢的に、私にタトゥーを彫るのはまだ早かった。早くに彫りすぎると、成長の影響でタトゥーの印が崩れる可能性があったからだ。
「二十頃に、彫り直しの必要性があるかもしれないが……致し方ないか」
「はい」
私は頷き、その方法に了承した。
■
私がダーマの隠れ家で待機している間に、ダーマが彫師のベスさんと連絡をとってくれた。ベスの住むオーベール地区はどこも、酷い被害を受けたらしい。貧民街の為、古いボロ屋が多かったのだ。その中、ベスの家は補強に力を入れていたので問題は無かったらしい。多少、機材が外に飛び出た程度だとか。ダーマが、相談をしたら二つ返事で了承してくれた。今夜にでも、タトゥーを彫れるらしい。こちらの事情は詳しく話していないが、何か急な用がある事は察しくれたらしい。
夜に待っていると、ベスが隠れ家にやって来た。
「よお、久々だな」
ベスは、相変わらずツルッとした頭の快活なおじさんだった。
「こんにちはベスさん。突然すいません」
「良いって。この仕事してると、よくある事だ」
ベは机の上に道具を並べ始める。
「早速始めちまうぞ。良いんだな?」
「あぁ、頼む」
ダーマは、腕を組んで頷く。
「嬢ちゃんは下着で、ベッドの上に横になってくれ」
私は言われたように服を脱いで、ベッドの上に横になる。タトゥー彫るんだから当たり前とは言え、人前で服を脱ぐのは恥ずかしい。実は最近、ブラデビューしました。ちっぱいだけど。ベッドの上に仰向けになる。ベスは私のオヘソあたりをアルコール付きのコットンで拭った。
「よし、それじゃやるぞ」
「よろしくお願いします」
お腹にチクっと、針が刺さった。痛い。
「結構痛いからな、ダーマに手でも握っておいてもらえ」
何も言う前に、ダーマが側にやって来て私の手を握った。私は、ダーマの手を握って目を閉じた。お腹に針が刺さる度に痛みが生じた。
チクチクとお腹全体に針が刺された。私の額には脂汗たっぷりである。更に両方の腕にもタトゥーが彫られる。お腹よりは、いくぶん痛みがマシだ。
「うぅ……」
とはいえ、うめき声はもれるのだった。早く終われ、とただ祈り続けた。処置は足に移り、両足もチクチクと針で刺された。たまに、ダーマが私の額をハンカチで拭いてくれた。ダーマに手を繋いで貰っておいて良かった。 ちょっとコレは一人じゃ耐えられない。
ようやく体の表側の処置は終わった。今度はうつ伏せになって、背中側である。
「おまえさんには、見えないんだろうが。綺麗な奴を彫っておくからな」
「はい……」
ベスがたまに話しかけてくれたが、私は意識朦朧のまま返事をしていた。
背中全体に針が刺される。一体、私の体にはどんな模様が刻まれたのだろうか。
明け方、ようやく全ての処置が終わった。五時間半に及ぶ長い処置だった。しかし、全身に及ぶ細やかなタトゥーを五時間半で彫ってしまうのは、凄い事なのだろう。
「タトゥーが体に馴染むのに二~三カ月は、かかる。体に妙な違和感があると思うが、痛み止めを飲んで我慢してくれ」
私は錠剤の入った小瓶を受け取って頷く。すぐに痛み止めを飲んだ。
「二~三日は安静にな。皮膚が熱いのは一週間もすれば、収まる。それじゃあな」
荷物をまとめ、欠伸を噛み殺してベスさんは帰って行った。
私は全身の皮膚がチクチクして、更に燃えるように熱かった。
「うぅ……」
「皮膚の熱が引くまで、服は着れないだろう。シルクのシーツを被せておくからな」
ふわっと、シルクのシーツが被せられる。
「もう、眠れ」
「おやすみなさい……」
私は絞り出すように声を出して目を閉じた。痛みのせいで、全く眠気はやって来なかったが。
つづく




