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 四年生に上がった私は、授業を受けようと教室に来ていた。呪学を受ける生徒は十数人程度しかいなかった。私は教室内を見渡して、自分のノートに目を落とした。その時、遠くからゴゴゴと音がして突如下から突き上げるような大きな動きがして教室全体が揺れ始めた。

「!」

 私は慌てて、机の下に隠れた。しかし、周りの生徒は何が起きたのかわからず、パニックを起こしていた。

「机の下に! 机の下に隠れて!!!」

 私が叫ぶと、数人の生徒は私の言葉を聞いて机の下に隠れた。教室全体がゆすられる長い地震だった。そして、地震は止んだ。私はおそるおそる机の下から出る。椅子が倒れ、机の下には生徒達の筆記具が散らばっていた。そして、教室全体の壁に大きな亀裂が入っていた。この時代の耐震強度がどれくらいかわらかないが、このままここに居るのは危険に思えた。

「もう一度、地震が来るかもしれない! みんな、今の内に外に逃げて!!」

 教室内の生徒に叫ぶ。私はバッグを拾い、教室の外に出る。廊下の壁にも大きな亀裂が入っている。それに、柱に日々も入っていた。突然の地震の驚いた生徒達が、泣いたり叫んだりしている。私は慌てて、廊下を戻る。近くの教室で、リヴィアが礼儀作法学科の授業を受けていたはずだ。

「リヴィア!」

 扉の外れた部屋に飛び込む。中では、貴族の令嬢達が怯えて泣いていた。その中心にリヴィアがいる。

「スカーレット、あぁ良かった。無事だったのね」

 意外にもリヴィアは怯えた様子は無かった。むしろ、他の令嬢達に頼られている様子だった。

「余震が来るかもしれない。危ないから、建物の外に出ましょう!」

「わかったわ。さぁ、みんな。落ち着いて、外に出ましょう」

 私とリヴィアは怯える、令嬢達と一緒に廊下を歩き学校の外に出た。外に出ると、外の壁にも大きな亀裂が入っているのが目に入った。倒壊しなかったのは、本当に運が良かったらし。そして、タイルの貼られた地面にも亀裂が入り隆起していた。そして、再び地震が起きる。

「きゃっ!!」

 令嬢達が悲鳴をあげる。他のところからも、生徒達の悲鳴があがった。今度の地震は前ほど大きくも長くも無かった。しかし、恐怖は植え付けられる。

「しばらくは、寮にも入らない方が良いわね」

 私達は身を寄せ合って、地震が過ぎさるのを待った。


 一部の生徒達と先生達によって建物内から生徒達は避難出来た。怪我をした子もいたが、死傷者はいなかったらしい。余震は夜になっても続き、寮の中にも戻る事が出来なかった。私達は学校の外で野宿する事になった。今が穏やかな春の気候だったのは、救いだろう。

 炊き出しを食べながら私とリヴィアは沈黙していた。とても喋ろうと言う気持ちになれなかった。なにしろ、オリバーとローガンの無事が確認出来ていないのだ。それと言うのも、今の時期四年の男子生徒の一部は国の兵隊に一時仮入隊するのだ。一部の貴族の子などは免除されるのだが、平民出の子は例え兵士になる予定が無くても一月徴兵される。それと言うのも、いつか戦争が始まった時に兵隊になるかもしれないからだ。そんな理由でオリバーとローガンは学校にいなかった。学校を出る事もできないので、二人の無事は確認出来ていない。

「きっと無事だよ……」

 落ち込むリヴィアに私は、そう声をかける事しか出来なかった。

「……そうね」

 リヴィアが私に抱きついて来た。私は彼女の背を撫でた。


 次の日の朝も余震は続き、私達は外でテントを張って過ごしていた。しばらくすると、コノートの兵隊さん達がやって来て支援物資を置いて行った。それと言うのも、街の人達も学校に避難して来ていたからだ。話では、学校の外はもっと被害が酷かったらしい。倒壊した建物も多くあったとか。負傷者だけでなく、多くの死傷者も出たらしい。救援物資を運び込む兵隊達を眺めていると、見覚えのある顔がいた。

「リヴィア、ローガンがいる!!」

「えっ!」

 私達は急いで、ローガンの元に向かった。

「ローガン! 無事だったのね!!」

「あぁ! 二人も大丈夫だったんだね!!」

 簡素な銀の胸当てを付けたローガンが、笑顔を見せる。

「よかった、本当によかった!」

 ローガンは私達を抱きしめる。

「オリバーは! オリバーは大丈夫なの?」

 リヴィアが声をあげる。

「あいつは運悪く倉庫整理をしててね……。荷物の下敷きになって、足を怪我しちゃったんだ……」

「そんな!」

「そこまでの大怪我じゃないんだけど、治療師も足りてないから今は兵舎で休んでるよ」

「わ、私行きますわ!」

「えっ、リヴィア」

「こんな状態では兵舎も人が足りないのでしょう? 私お手伝いに行きます!!」

「そ、それなら私も行くよ!」

「いや、おまえの仕事はそれじゃない」

 大きな声で話していた私の後ろにキリルが立っていた。

「キリル!」

「僕と一緒に来い」

 それが、特級魔法使いの呼び出しなのだと私は気付いた。

「わかった」

「スカーレット!」

 ローガンが私の腕を握る。

「……無理はするなよ」

「……ありがとう」 

 どこか思い詰めたような目をするローガンに笑みを返して、私はキリルの元に行った。

「行こう」

「あぁ」

 私達は城に向かった。


 町中は本当に酷い有様だった。学校の建物は亀裂は入ったものの、倒壊はしていない。あれは、本当に丈夫に作られていたのだろう。町中には、店まるごとが石クズになって崩れてしまったいるところが沢山あった。あの中にいては、生存は望めないだろう。外には学校と同じように、避難した人々がテントの下で生活していた。怪我をした人達もいて、私は憂鬱な気分になった。治療師が足りていないのだ。

 城につき、私は特級魔法使いの集まる部屋に通された。以前は、フロアの中央に立たされたが今回は彼らと同じように椅子が用意されていた。

「スカーレット。大丈夫だったみたいね」

 先に来ていたヴェルノが笑みを浮かべる。

「はい、学校に居たので大事はありませんでした。ヴェルノさんはどうでしたか……?」

「私は……怪我は無かったんだけど、お店がね……半壊しちゃったの。せっかくみんなで作ったお店だったんだけど」

 ヴェルノは悲しそうにつぶやく。

「でも、生きてるだけで十分よね。また、頑張るわ。そしたら、今度こそ遊びに来てね」

 謹慎が言い渡されてから、私は特級魔法使い達とも一切会っていなかった。彼女のお店にも行けずじまいだった。

「えぇ、その時は是非」

 そこに、どかどかと足音を鳴らしてアルドルファスが入って来る。

「えぇ、くそ忙しい!!」

 彼は復興支援に追われているようだ。

「仕方ないだろ、天災と特級魔法使いは切っても切れない縁にあるんだから」

 後ろから、大量の書類を抱えたエイブがやって来る。相変わらず裾は引きずっている。

「全員揃ったな!」

「シャ、シャータさんは?」

「あいつなら、地震の時に移動用の水槽が割れて動きがとれない状態だ。城の中の固定水槽で、病人の治療にあたってる」

「そ、そうなんですか」

 シャータさんが怪我をしなかったのなら良かった。

「そんじゃ、会議を始めるぜ! いいかおまえら、緊急事態だ!! 見ての通りコノートは今、一〇〇年に一度の天災に襲われている」

 アルドルファスが叫ぶ。こういった時、彼が特級魔法使い達のリーダー役なのだろうか。

「各地で被害は甚大だ。地震によってコノートの家屋の六割が倒壊もしくは半壊している。コノートだけでなく、近隣の村にも被害は出ている。魔術大臣から来た調査報告では、国の魔力地盤に問題が起きているとの事だ」

 魔力地盤。コノート国のある、エルナ大陸は元々、魔力が濃すぎて人が住める土地ではなかった。それを、土地の大精霊達と契約して土地への魔力供給量を一定にさせる事で安定した土地にしたのだ。特級魔法使いとは、その楔を担当するものだ。

「どうして、そんな事が……」

「理由はわからん! 天災なんて突然やって来るもんだろ」

 アルドルファスがエイブから書類の束を受け取る。

「そんで俺達の仕事は、国の復興と土地の地盤の回復だ」

 書類の束がそれぞれの特級魔法使いの机の上に投げられる。

「これがおまえ達の任務で、至急の物から順に並んでいる。ただし、人命優先だ。命の危機が出た時は、そちらの支援を優先しろ」

 みんなの机の上には書類の束が載っていた。各々、書類をめくっている。しかし、私の机の上は空だった。

「あの……私は……」

 恐る恐る声を出す。

「おまえさんは見習いだ。見習いのおまえさんに、復興の仕事は無い。その代わり、超重要任務がある」

「な、なんですか?」

「一月時間をやる。その間に大精霊との契約を済ませろ」

 私は息を飲んだ。

「魔力地盤の安定の為に、火の大精霊の力が必要なわけね」

 ヴェルノが心配そうに呟く。

「そうだ。俺達四人だけで一端、魔力地盤安定の儀式をやる。これで一時的には、地盤が安定するはずだ。だが、確実な物にするには、火の大精霊の力が必要だ。俺の言っている意味、わかるな? おまえの肩には、コノート国全員の生死が載っているんだ」

 アルドルファスが強い目で私を見る。

「はい……」

「なら、準備をして早く行け。あと一月しかない。一分一秒が、重要だろ」

 私は椅子から立ち上がり、会議室を出た。

「絶対に、一月後までに仕上げるんだぞ!!」

 背中に怒声を聞きながら私は城の廊下を走った。





つづく



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