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寮に帰り着いてみたものの、寮には数人しか人間がいなかった。みんな机にへばりついて必死に課題をこなしている。そうだ、私も課題があったんだった。思い出して顔が青くなる。課題は全部、別荘に置いたままである。荷物を寮に置いて、ローガンの家を訪ねて見る。さすがにもう家に帰って来ているだろう。ノックから数秒して扉が開く。メイドさんが出て来て、私の顔を見た後に固まる。そして、叫びながら中に戻って行った。
「奥様!!! お坊ちゃん!!!」
二人ともご在宅らしい。一分もしない内に、二人がやって来る。
「あぁ!! スカーレット!!! 無事で良かったわ!!」
婦人が豊満な胸で私を抱きとめる。彼女には悪いことをしてしまった。招いた客人がいなくなっては、体裁が悪かっただろう。
「スカーレット!! 本当に君なのかい!!」
少しやつれた様子のローガンが私の腕を掴む。
「ただいま」
「君が無事で良かった!!」
ローガンは私を抱きしめて泣き始める。私は自分の顔が赤くなるのを感じた。心配してくれたのが、嬉しかったのだ。そのあとリヴィアの家にも向かった。
「スカーレット!!!」
彼女は私を抱きしめたまま、わんわん泣いた。すると私も涙が出て来た。
「あなたがぶじでよかったわ、わたしほんとうにしんぱいして、よかった……」
「うん、しんぱいかけてごめんね」
私は彼女の背を撫でた。私達は長い間そうやって泣いた。
少し落ち着いてからリヴィアの屋敷で私は紅茶を飲みながら、詳しい話しをする事になった。
「いったい、あなたはどこに行っていたの? 手紙が届いたけど、あれは誰からだったの?」
リヴィアが不安そうな顔をしている。ローガンも真剣な顔で見ている。これからする話しは二人を驚かせる事になるかもしれないが、それでも話さなければ。私は声をひそめる。
「あのね、これから話す事は他の人には秘密にしていて欲しいの」
二人が頷く。
私は小声で、私が失踪してから受けた事を話した。見知らぬ男に攫われて、大精霊契約を結ばされた事を話した。それを聞いた時、ローガンは息をのんだ。リヴィアはキョトンとした目をしていた。
「くそっ、まさかそこまでして君を狙ってくるなんて!」
「え、大精霊契約ってあれですの? 特級魔法使いが契約しているあの特別な精霊?」
特級魔法使いの話しが来ている事を私はリヴィアに伏せていた。なので彼女はこの話しに混乱している。
「うん、その特級魔法使いになる事になっちゃった」
「まぁ……」
リヴィアは目を見開いて驚いた。
「契約破棄は出来ないんだろう」
「どうかな。でも破棄はしないつもり。だって、他に適正者がいないんならやるしかないでしょ」
その覚悟は決めた。
「それでね。特級魔法使いになると、国に仕える事になるの。貴族との関わりも出て来る。それで、二人には私に力を貸して欲しいの。私、貴族間の事って全然わからないから、教えて欲しいの」
リヴィアが私の手をとる。
「えぇ、もちろんですわ!!」
ローガンも私の手を握る。
「大丈夫任せて」
快く二人は引き受けてくれた。
「ありがとう」
良かった、持つべきものって信頼出来る友人だね。
屋敷を出て寮に帰って、私は真っ白な課題にとりかかった。冬休みは後、三日。ずっと手を動かしてやり続けるしかない。ダーマさんに課題一緒にやって貰おうかな。あまりの課題の多さにそんな不穏な事まで考えてしまった。
時間を見つけて、クロエ先生にも移植の件を話しに行った。
「……あなたの話しが本当なら、少し胸元を見ても良いかしら」
きっと胸の痣を確かめたいのだと思い、私はシャツを少しだけ開いて見せた。そこには火の刻印のような痣があった。見た後に彼女はすぐにシャツを閉じて、私を抱きしめた。
「お疲れ様、よく生き残ったわね」
彼女は、この移植の生存率の低さを知っていたのだろう。身体を離して、私の瞳を真っ直ぐ見る。
「あなたにこの移植を行ったのは誰」
「……」
「これは違法な移植だわ。あなたが罰される事はないけど、移植を行った犯人にはしかるべき処罰を受けさせなきゃいけない」
私は生唾を飲んだ。
「すいません。私ずっと視界を奪われていたので、移植した人が誰かはわからないんです。何人か知らない男の声を聞いた気がするんですが……」
あの場所にはダーマ以外にも誰かいた。貴族や魔術師の中で、この違法な移植に賛同するものが他にもいたのだ。そして、ダーマを誘い彼はそれを利用した。それが誰かは気になるが、私にはダーマを犯人として差し出す事はできなかった。彼にはまだ聞きたい事もある。でも、なにより完全に彼を悪人だと思えないのだ。
つづく




