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数日後、生徒会長さんもといい…ディランさんが声をかけて来た。
「こんにちはレディ。少し話しがあるんだけど、良いかな?」
学校の廊下で呼び止められて、私は頷いた。密会は、町の上の丘で行った。
「実はね、以前君に頼まれていた話しを兄上に話したら、快く引き受けてくれたよ」
「本当ですか!」
「あぁ、本当だとも。それから、君のフランちゃんなんだけど……もう兄上が預かっているらしい」
「えっ!」
フラン、コノート国に来るのに一月かかって無いんじゃないだろうか。そのぐらいすぐにスカーレットに会いたかったのかもしれない。
「しかし、まだ君のフランだとは確証が持てないからね。一度、時間を作って会いに来てくれないか? と兄上様からの言伝だよ」
「行きます!」
早くフランに会いたくて、私は大きな声で返事をした。
「良い返事だ。それじゃ、このまますぐに行っても良いかな?」
「良いんですか?」
「もちろん。兄上から、城にいる時なら好きな時に来て構わないと言われているからね」
ディランさんが自然に手を出して来たので、私は戸惑いながら手を取った。
お城は大きかった。町の真ん中にあるお城を遠目になら見た事がある。けれど、跳ね橋の前を怖い騎士たちが守護していて近づいた事はない。この中に入る事なんて一生無いと思っていたので、人生とはわからないものである。
ディランさんが門の前に行くと、騎士団の人たちが気さくに声かける。
「おぉ、ディランじゃないか。今日は遊びに来たのか」
「そんなところです。兄上はいらっしゃいますか?」
「もちろん、いるともさ。我らが団長様はただいま執務の真っ最中だ」
ガハハと豪快に笑う門番の前を通り、中に入る。綺麗な石畳みの道を行き城に入る。天井の高い城の中に口を開けて驚いていると、手を引かれる。
「こっちですよ」
ディランさんは慣れた様子で複雑な城の中を歩き、目的の場所にたどり着いた。木の
扉をノックする。
「なんだ、俺はいま取り込み中だ。後にしろ」
あれ、意外と反応が冷たい。
「兄上、私ですよディランです。例の女の子を連れて来たんで、中に入れてください」
「む、そうなのか」
扉の鍵が開いて、中から開く。出て来たのは顔に引っかき傷を作った青年だった。ディランのお兄さんらしく紫髪である。彼は短髪でディランより背が高かかった。そして、右手にねこじゃらし草を持っている。
「どうぞ、中に入りたまえ。散らかっていて、すまない」
そう言って通された部屋はぐちゃぐちゃだった。置かれた高価な花瓶は倒れ、花と水が散らばり、カーテンは爪で引き裂かれ、書類は舞い散り、棚から落ちた本が散乱している。そして、爪とぎ痕でボロボロになったソファに座っているのはフランだった。ペロペロと素知らぬ顔で毛づくろいしている。
部屋の至るところに目につく猫グッズ。
「兄上コレは……」
「す、すまない。ついかわいくて構っていたら、こんな事になってしまった」
お兄さんは猫好きらしい。
「フラン」
私はフランに近づく。フランは前より身体が大きくなっている気がする。
「にゃ!?」
フランは私を見て驚いた。ソファから下りてダッシュして来てお腹に飛び込んだ。
「ぐはっ」
成長したビッグサイズフランちゃんだと鳩尾への衝撃が凄い。しかし、かわいいフランちゃんの為に耐えた。腕にフランを抱えて私はソファに腰を下ろした。フランはご機嫌に、ゴロゴロと喉を鳴らしている。私はそんな彼女の背を撫でた。大きくなったなぁ。
「ぐっ、フランがあんなに懐いているとは……うらやましい」
「兄さんはあれでしょ、構いすぎなんですよ」
「そ、そうだろうか……」
愛って難しいなと思った。
「フランを預かってくださって、ありがとうございます!!」
私は、ディランの兄に礼を言う。
「いや、気にするな。それと俺の名前はアドニスだ、よろしく」
「スカーレットです。よろしくおねがいします」
私はフランを下ろして立ち上がり、握手する。
「アドニスさんは猫好きなんですか?」
彼は頬を赤くして頷く。
「うん、そうなんだ。しかし、どうにも懐かれなくてな」
「フランもダメでしたか?」
「いや、フランは良い奴だったぞ。最初は大人しく撫でさせてくれていたからな。……弟の言うように、俺はかまい過ぎてしまうんだ」
長身のイケメン騎士は恥ずかしそうに頭を掻いた。さすが先輩のお兄さん。いい人オーラ全開である。
「家でも猫を飼っているんですか?」
「いや、家では猫が飼えなくてな」
「私達の母は動物の毛がダメなんですよ。くしゃみが止まらなくなるんです。それからの兄の奥さんもです」
「だからこうして、城に猫がいると思うとつい嬉しくて構ってしまうんだ」
私は笑ってしまっていた。
「アドニスさん、よければフランをもう少し預かっておいて貰えませんか?」
「それは、こちらとしては願ったり叶ったりの言葉だ」
良かった。これで、フランを故郷に送り返さなくて済む。
「けど、フランがもし火を吐いたりしたら大丈夫なんですか?」
フランのせいで城が燃えてしまったら困る。
「そこは手を打たせて貰った」
そう言って、アドニスはフランの首元を指差す。フランの首には見慣れない首輪がついていた。喉元に緑の石が付いている。
「この魔封じの石を付けていれば、火の魔法を使う事は出来ない。フランには不便だろうが、ここにいるのなら我慢して貰うしかない」
私はフランを抱き上げて、視線を合わせる。
「フラン、それで大丈夫?」
フランは尻尾を揺らした後に返事をするように、にゃーと鳴いた。
「かっ、かわいい……!」
アドニスさんが悶えた。
首輪の事をフランも納得しているみたいだし、とりあえずお城に預けておこう。
「また、来ても良いですか?」
「もちろんだよ、いつでもおいで」
アドニスさんはにこやかに笑ってくれた。
帰り道、私はディランに礼を言った。
「ありがとうございます、ディランさん。フランが無事で良かったです!」
「いや、私は大した事をしていないよ。君の憂鬱が晴れて良かった。城への通行書を今度発行して貰おう。それがあれば、君は好きな時に城に入って、フランに会う事ができる」
「ありがとうございます!」
近いうちにお礼のお菓子を持ってフランちゃんにまた会いに行こう。
つづく




