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 夏も終わりが近づいている。私は、ザウルさんの工房に向かった。今日でこのアルバイトも終わりである。

「おはようございます」

「おう」

 薬草をひたした試験管を見て、記録を付けているザウルさんが返事をする。

「最近、涼しくなって来ましたね」

「そうだな、秋の雲が見え始めた」

私も、記録紙を出して試験管の前に行く。

「五四番以降はまだ記録してないんですよね」

「あぁ」

「じゃあ、ここからやります」

 試験管の中身をよく観察しながら、レポートを付けていく。

「……今日で最後の日だったな」

「はい」

「ふぅ、また良い助手を見つけなくてはな」

 私は『良い助手』だったと間接的に褒めてくれたらしく、私は小さく笑みを作った。

「誰か固定で助手をやってくれる人は見つけないんですか?」

「以前、いたんだが辞めてしまってな……本人に別の夢があったようだから、ワシも引き止める事が出来なかった」

「夢ですか」

「あぁ、ワシの夢の手伝いをさせるよりも自分の夢を追いかけさせた」

 夢を追うって、かっこいい事だけど同時にとても大変な事だ。

「ザウルさんは、今、幸せですか?」

「幸せか……不満を言い始めたらいろいろあるさ。大学に所属するのをやめたおかげで、研究が思うように出来ない事は事実だからな。おかげで、助手に高い給金も出してやれない。まぁ、ワシ自身も日々の生活は質素なものだ。だが毎日こうして研究は出来ている。本が出来れば売る販路もあるし、時には感謝される事もある。ワシはな、大学を辞めた時に六十点の幸せを目指す事にしたんだ。上を目指せばキリが無いが、まぁこのくらいの生活なら良いだろうと自分で決めてその生活に満足する事にした」

「六十点の幸せ」

「あぁ。ワシも若い時はそれなりに、上昇志向の強い人間だったから常に上に上にと目指して行動していた。しかし、それはそれで辛い生活だった。だから、六十点で良しとするしか無くなった時は憤りもあったが、同時に日常に目を配れるようになった。何かが欠ければ、何かが手に入る。人生はよく出来ているぞ」

 私は頷く。

「だがまぁ、若い時はとにかく前に進んで自分の限界を見つけるべきだな。でなけりゃ自分の限界もわかりはしない」

「はい」

 今の私はとにかく前に進もう。そして、燃え尽きた時にこの言葉を思い出そう。

 仕事の合間の休憩に、ザウルさんが本を開いて小さな紙を私の前に置く。

「おもしろいものを見つけたぞ」

 その紙には、人が三人写っていた。絵と言うには精巧過ぎる紙を見て目を丸くする。

「写真?」

「なんだ、知っておったのか。それは、クラビスの後輩が作った写真機という機械で作られた絵だ」

 凄い。地方では未だ発展途上な生活が送られているのに、この中心部だけは異常な文明の発達が起きている。

「ほら、昔から小生意気な顔をしてるだろ」

 写真に写った赤い髪の少年はクラビスだ。伸ばした髪を右肩で緩く結んでいる。隣に立つ女の子みたいな少年は、前下がりのボブだった。こっちはユーリス先生だ。

「うわー、二人とも若い」

 少年と青年の境目と思える年の二人が、ザウルさんと一緒に写っていた。ザウルさんは、今より白髪が少ない。おもむろに写真の裏を見る。ザウル、クラビス、ユーリス先生の更に下に『ライアン』という文字が書かれていた。

「ライアン……」

「おう、そうだそうだ。そのライアンという一年坊主が写真機を作ったんだ。大学の教授も唸る程の出来だったそうだぞ」

 さすがライアン先生。一年生の時から実力でのし上がって行ってる。というか、これまでの人の関わりが面白いように別の知り合いと繋がる。縁は奇なもの粋なものである。


 夕方になって、バイトが終わった。

「それじゃザウルさんに、ラスカーさん。夏の間お世話になりました!」

「うん。また来年、来い」

「募集出てたら行きますね」

 私は、はははと笑った。

「ナイフの訓練は続けろよ。あと、魔術の仕事で傭兵が必要になったら声をかけてくれ」

「はい! ありがとうございますラスカーさん!!」 

 私は工房を後にした。夏の二ヶ月間しかいなかった場所だけど、私にってとても大事な場所だった。


 寮に帰ると、ギネとアイリスがラウンジで話しをしていた。

「お帰り、スカーレット」

「ただいま」

「スカーレットは今日で仕事終わりなんだよな?」

「うん、二人は最終日まで入れてるんだっけ?」

「おう、そうだよ」

「えぇ」

 二人はテーブルに課題を広げていた。ギネの課題は全部終わっていて、それをアイリスが書き写していた。

「アイリス、もしかして課題終わってない……?」

「おうよ!まだ、三割しか終わってないぞ!!」

 夏休みは残り三日である。

「わぁ」

「課題やりなさいって、言ってたんですが……」

 ギネはやや、呆れ顔だった。

「大丈夫だって!」

 アイリスの手は凄い速さで動いている。

「おれの集中力が切れないように、スカーレットもここで話しててくれないか」

「仕方ないなぁ」

 私は紅茶とお菓子を持って来て、席に座った。

「スカーレット、結構稼げたんじゃないか?」

「ん、そうだね。紹介してくれてありがとうアイリス」

「いえいえ、どういたしまして」

 アイリスは文字を書きなぐって、パラパパラと課題をめくっている。

「そういや、シュロさんから伝言頼まれたよ」

「あいつ、なんか言ってたのか?」

「えっとね……」

 口に出そうとして少し考える。

「私、耳を塞いでいましょうか」

 ギネが耳を塞ぐ。ついでに目も閉じる。私はそれを見た後に、アイリスに小声で伝えた。

「あのね。シュロさんの家に来る時に下着で来られるのが困るから、服を着て来て欲しいんだって」

「……!」

 伝えた後に、アイリスの顔が下から上に赤くなった。

「な、なんだよそれ」

「アイリス、良いからだしてるからシュロさんも視線の向けどころに困るんじゃないかな」

「昔は風呂だって、一緒に入ったってのに……」

 アイリスはもごもごと、何かを言った後に頷いた。一応、伝言を伝えられてほっとする。

 それから私達はアイリスの課題を間に挟んで、遅くまでおしゃべりしたのであった。 


つづく



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