11
私は毎日机にかじりついて勉強した。怪我は治ったが、試験が終わるまでユーリス先生の家にお世話になる事になっていた。出世したら先生には必ずお礼をしよう。
そうして迎えた試験の日。私達は学校に集まって、試験を受けた。三人以外にも、近隣の村から子供達が試験を受けに来ていた。この辺の村では、このルルス村の学校が試験会場になっているらしい。
試験後に私は真っ白に燃え尽きた。しょせん出て来るのは小学校レベルの問題である。しかし、奨学金を取る為には九割の点数が必要だ。果たして結果はどうなるだろうか。人事を尽くして天命を待つのみである。
結果、私は受かっていた。奨学金もバッチリである。ローガンとオリバーも受かっていた。これで三人合わせて入学決定である。
ユーリス先生の家で私達は祝杯を上げた。
「かんぱーい!」
大人達だけでなく、ローガンとオリバーもお酒を手に持っていた。私は、遠慮してぶどうジュースを貰った。
「おめでとうございます。三人なら必ず合格出来ると信じていましたよ!!」
ユーリス先生は泣き上戸だったらしく、ずっと嬉し泣きしている。
「よしよし、どんどん飲み給え。君達は来年から僕達の後輩だぞ」
クラビスは空いたグラスがあれば、どんどんシャンパンを注いた。この人、笑い上戸だぞ。
「俺は必ず立派な貴族になって、この国の人々の生活をより良いものにします…!!」
ローガンの目は既に揺れている。相当酔っているようだ。
「僕も、コノートでしっかり商学の勉強をして村に帰って来ますよ!」
二人とも本当に、しっかり自分の道を持っていてかっこいい。
「スカーレットは、コノートに行って何をするんだい」
クラビスに尋ねられて固まる。
「私は……沢山勉強して、体験して、自分の生きる道を見つけたいです」
クラビスは笑いながら頷く。
「うんうん、それはとても良い事だ。三人の門出を祝ってかんぱーい!!」
その夜は遅くまで飲んで騒ぐ夜となった。
魔法の認定試験の方もあっさり三人は合格した。初級から飛んで、中級のライセンスを貰ってしまった。ユーリス先生の教え方が上手かったおかげだろう。
冬の終わりに、私は久しぶりに家に帰った。食卓について、家族三人食事をとる。今日の父はお酒を飲んでいなかった。
しっかりと鶏肉でダシのとられたスープには、大きな野菜がゴロゴロと入っている。煮込まれた、柔らかい野菜は、口の中でホロホロと溶けてゆく。
母が口を開く。
「進学するんだってね」
「うん。魔法の認定試験も受かったんだ。春には、コノートに行きます」
奨学金は月に50000ギル来る。家に毎月20000ギル入れても十分生活していけるだろう。
「そうかい……あんたが、まさかコノートに行くなんてね……」
生活に余裕が出来たおかげで、少しだけ身綺麗になった母は若く見えた。家の中には、花瓶に花が飾られていた。
『衣食住足りて礼節を知る』という言葉がある。まさに、今の両親がそれだった。彼らだって、好きであんな生活をしていたわけじゃない。貧乏は、人の心を殺すのだ。
「ちょっと待ちな」
母が立ち上がって、寝室に行き何かを手にして戻って来る。
「これはあんたが持っていきな」
手渡されたのは赤い宝石の指輪だった。赤い指輪に、金色の金具。おもちゃみたいな見た目がかわいくて笑ってしまいそうになるが、その輝きわ本物だった。これはイミテーションじゃない。
「おかあさん、これどうしたの」
「この家に嫁いだ時に、義母がくれたものだよ。宝石は魔力を高める効果があるそうだ」
そう言って、母は私の指に指輪を通した。しかし、まだ指輪は大きくてゆるゆるだった。
「……鎖がいるね」
母は再び部屋に戻って、金色の鎖を手に帰って来る。それを指輪に通して私の首にかける。
「これでよし」
そう言って笑みを浮かべた母は、とても優しい顔をしていた。彼女はスカーレットのお母さんなのだと感じた。
「スカーレット、これを持っていけ」
父が机の上に置いたのはナイフだった。しかもバタフライナイフ。
「あんた、それが娘にやるものかい……」
「なに言ってんだ、もしも変な野郎が襲って来たらコレで刺すしかねぇだろうが」
お父さん真面目に娘の身を案じた結果、これがベストな餞別だと思ったらしい。
「……ありがたく、貰っておきます」
出先でりんごを剥くのには良さそうだ。
私は両親の事を、複雑な気持ちで見ていた。以前の虐待紛いの記憶を思うと、二人に対して、どうしても距離を置いて見てしまう自分がいた。けれど今日の二人は穏やかで、それは根底には彼らの中に『善』とスカーレットへの『愛』があるのだと知る事ができた。
(行って来ます、お母さん、お父さん……)
静かで暖かな夕食の記憶は、過去の記憶を洗い流していくように感じた。
つづく




