表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/72

11

 私は毎日机にかじりついて勉強した。怪我は治ったが、試験が終わるまでユーリス先生の家にお世話になる事になっていた。出世したら先生には必ずお礼をしよう。

 そうして迎えた試験の日。私達は学校に集まって、試験を受けた。三人以外にも、近隣の村から子供達が試験を受けに来ていた。この辺の村では、このルルス村の学校が試験会場になっているらしい。


 試験後に私は真っ白に燃え尽きた。しょせん出て来るのは小学校レベルの問題である。しかし、奨学金を取る為には九割の点数が必要だ。果たして結果はどうなるだろうか。人事を尽くして天命を待つのみである。


 結果、私は受かっていた。奨学金もバッチリである。ローガンとオリバーも受かっていた。これで三人合わせて入学決定である。

 ユーリス先生の家で私達は祝杯を上げた。

「かんぱーい!」

 大人達だけでなく、ローガンとオリバーもお酒を手に持っていた。私は、遠慮してぶどうジュースを貰った。

「おめでとうございます。三人なら必ず合格出来ると信じていましたよ!!」

 ユーリス先生は泣き上戸だったらしく、ずっと嬉し泣きしている。

「よしよし、どんどん飲み給え。君達は来年から僕達の後輩だぞ」

 クラビスは空いたグラスがあれば、どんどんシャンパンを注いた。この人、笑い上戸だぞ。

「俺は必ず立派な貴族になって、この国の人々の生活をより良いものにします…!!」

 ローガンの目は既に揺れている。相当酔っているようだ。

「僕も、コノートでしっかり商学の勉強をして村に帰って来ますよ!」

 二人とも本当に、しっかり自分の道を持っていてかっこいい。

「スカーレットは、コノートに行って何をするんだい」

 クラビスに尋ねられて固まる。

「私は……沢山勉強して、体験して、自分の生きる道を見つけたいです」

 クラビスは笑いながら頷く。

「うんうん、それはとても良い事だ。三人の門出を祝ってかんぱーい!!」

 その夜は遅くまで飲んで騒ぐ夜となった。


 魔法の認定試験の方もあっさり三人は合格した。初級から飛んで、中級のライセンスを貰ってしまった。ユーリス先生の教え方が上手かったおかげだろう。

 冬の終わりに、私は久しぶりに家に帰った。食卓について、家族三人食事をとる。今日の父はお酒を飲んでいなかった。

 しっかりと鶏肉でダシのとられたスープには、大きな野菜がゴロゴロと入っている。煮込まれた、柔らかい野菜は、口の中でホロホロと溶けてゆく。

 母が口を開く。

「進学するんだってね」

「うん。魔法の認定試験も受かったんだ。春には、コノートに行きます」

 奨学金は月に50000ギル来る。家に毎月20000ギル入れても十分生活していけるだろう。

「そうかい……あんたが、まさかコノートに行くなんてね……」

 生活に余裕が出来たおかげで、少しだけ身綺麗になった母は若く見えた。家の中には、花瓶に花が飾られていた。

 『衣食住足りて礼節を知る』という言葉がある。まさに、今の両親がそれだった。彼らだって、好きであんな生活をしていたわけじゃない。貧乏は、人の心を殺すのだ。

「ちょっと待ちな」

 母が立ち上がって、寝室に行き何かを手にして戻って来る。

「これはあんたが持っていきな」

 手渡されたのは赤い宝石の指輪だった。赤い指輪に、金色の金具。おもちゃみたいな見た目がかわいくて笑ってしまいそうになるが、その輝きわ本物だった。これはイミテーションじゃない。

「おかあさん、これどうしたの」

「この家に嫁いだ時に、義母がくれたものだよ。宝石は魔力を高める効果があるそうだ」

 そう言って、母は私の指に指輪を通した。しかし、まだ指輪は大きくてゆるゆるだった。

「……鎖がいるね」

 母は再び部屋に戻って、金色の鎖を手に帰って来る。それを指輪に通して私の首にかける。

「これでよし」

 そう言って笑みを浮かべた母は、とても優しい顔をしていた。彼女はスカーレットのお母さんなのだと感じた。

「スカーレット、これを持っていけ」

 父が机の上に置いたのはナイフだった。しかもバタフライナイフ。

「あんた、それが娘にやるものかい……」

「なに言ってんだ、もしも変な野郎が襲って来たらコレで刺すしかねぇだろうが」

 お父さん真面目に娘の身を案じた結果、これがベストな餞別だと思ったらしい。

「……ありがたく、貰っておきます」

 出先でりんごを剥くのには良さそうだ。

 私は両親の事を、複雑な気持ちで見ていた。以前の虐待紛いの記憶を思うと、二人に対して、どうしても距離を置いて見てしまう自分がいた。けれど今日の二人は穏やかで、それは根底には彼らの中に『善』とスカーレットへの『愛』があるのだと知る事ができた。

(行って来ます、お母さん、お父さん……)

 静かで暖かな夕食の記憶は、過去の記憶を洗い流していくように感じた。


つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ